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第五十話:爺さんと香車と桂馬

相手は歩兵以下なので駒はとられません。

 他にも将棋の駒はあるから試してみてもええのう。香車は前に試したが……具体的にはどうなるんかのう?


 パチンと盤上に香車を置く。すると前と同じように車の前に槍を据え付けたものが出てきた。しかし……よく考えたら歩兵が前に居るから敵陣には突っ込めんのう。歩兵が取られる……ちゅうことはなさそうじゃしなあ。仕方あるまい。香車はステイじゃ。


 そういえば駒を飛び越えて行けるのがおるではないか。よし、じゃあ次はこれじゃ! ワシは桂馬をパチンと置いた。出てきたのは背中になんかええ匂いのものを括りつけた巨大な馬。


「ヒヒーン!」


 桂馬はいななくと早く自分を動かしてくれと言わんばかりにワシの方を見る。仕方ないのう。ワシは歩兵を飛び越して桂馬を動かした。すると桂馬は大きくジャンプして向こうの兵士の上に降りて踏み潰した。


 な、なんじゃああれは!? あんな質量のもんが降ってきたら人間じゃあひとたまりもないわい。


「ひいいいいいい!?」


 カゼーイ子爵らしき人物は馬の上で涙目になっておる。指揮系統もなんというかぐちゃぐちゃな様じゃ。ふむ、逃げるんかの? そりゃあまあここまで崩れたら勝ち目がないわなあ。そうじゃ。


 ワシは香車を歩兵の前に置いた。置ける場所がカゼーイ子爵が逃げようとした場所しかなかったんじゃが、やはり「駒がある」扱いなんかのう? ワシはその香車をすっと一番前、最下段まで突き進めた。


 香車は光に包まれて、敵陣の中を兵士を薙ぎ倒しながら進んで行った。ん? なんかメッセージが聞こえるのう?


【敵陣で移動しました。成りますか? YES/NO】


 あー、まあ香車じゃと前しか進めんからのう。成ったら成香。つまり金じゃな。なんというか裏に書かれてるのは全部「金」の字じゃが崩し過ぎてそうは見えんのじゃよなあ。


 ワシは迷うこと無くYESを押した。というか頭の中で押したつもりなんじゃが。そうすると香車が光を放って変形し、黄金に輝く兵士になった。なんじゃあれ、戦隊モノのロボットみたいな変形するわい。


 身長は五メートルくらいで手には前に付いとった槍を持っておる。そんなんがいきなり敵陣で暴れ出す。カゼーイ子爵は……落馬しとる様じゃの。這って逃げようとしとるわ。


 ワシはそのまま歩兵を進めてカゼーイ子爵の前まで進ませた。すると先程と同じように【成りますか?】の声が聞こえたのでYESを押してみた。すると、今度は兵士の身体が膨張して五メートルくらいに膨らんだ。


 前の歩兵は二メートルくらいのちょっと大きい兵士ぐらいじゃったが、と金ともなるとでかいんかのう。やはり金ともなると……ん? という事は金将を出したらあの大きさなんかの? うむ、ちょっと出すのはまたの機会にしておこう。またの機会があるかは分からんが。


「放せ、放せえ!」


 と金に掴まれてカゼーイ子爵が喚いておる。さすがに握りつぶさせる訳にはいかんわなあ。ワシはカゼーイ子爵の方に歩みを進めた。戦場は既にカゼーイ子爵が捕まったことにより静かになっておった。


「お主がカゼーイ子爵じゃな?」

「そうだ! 貴様は平民か? 平民ごときが頭が高いぞ!」

「いや、頭が高いも何もお主の方が高い位置におるではないか」


 そう、カゼーイ子爵は身長五メートルのと金に掴まれているのでワシよりも高い位置に居る。手を離したら落下でダメージがものすごい事になりそうじゃが。


「残念ながらワシはお主を裁く権限は持っとらん」

「その通りだ! 早くワシをここから下ろせ!」

「じゃからの、フィリップ殿に、ルドルバーグ子爵殿に裁いてもらおうと思うんじゃよ」


 ワシが言うと後ろの方からフィリップ殿が進み出てきた。


「カゼーイ子爵、どうしてこの様な?」

「奴隷が足りなくなったんでな。貴様のところから仕入れようと思っただけよ。どうせ海魔に滅ぼされるならワシが領民を引き取ってやろうというのだ。感謝こそされてもこんな仕打ちを受けるのは不本意だ!」

「私の民は奴隷ではない!」


 フィリップ殿が大声を上げた。この様な胆力も持っとるんじゃなあ。


「領民を誘拐したばかりか、私兵を持って侵攻を企てるなど、一切の容赦は出来ん。国王陛下に申し上げてキツく裁いてもらう。覚悟するがいい!」

「ふっ、税金をきちんと納めるワシと、免除免除でろくに納められとらんお前と、果たして陛下はどっちの言葉を信用するかな?」


 ニヤリと笑うカゼーイ子爵。どうやら王都への根回しは完了しているのだろう。


「やれやれ。それではワシが国王陛下に直接言うて来ましょうかの」

「何を言う、貴様のような平民のジジイが行ったところで何が変わるというのか」


 カゼーイ子爵が大笑いする。まあもちろんワシにも勝機はあるんじゃ。なんと言っても王子の命の恩人じゃからなあ。問題は移動手段じゃが……ん? 香車だった金がワシの前に膝まづいて……おお、香車に戻った。桂馬も? つまり、お主らが馬車になると?

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