第四十九話:爺さんと攻めてきた子爵
ガマガエル商人の名前出し忘れたけどまあいいか。
イノシシを捕らえて帰って来たギャリソンさんたち。話を聞くとテリー、ジョーは剣の才能があるらしい。アンディは剣よりも弓らしい。という訳で三人でイノシシを狩らせたら上手くいったので持って帰って来そうじゃ。
ゴロツキたちはというとやる事もそこまでなかったんで木の実をとったり薬草を採取したりしていたそうな。普通は逆じゃと思うんじゃが。
「ゲンのじい様、商人の依頼はどうすれば?」
「乗ってやって……という考えもあるかもじゃが、バレた時がアレじゃしなあ。キッパリ断ったらええ」
豚汁を作りながらゴロツキの一人が相談をして来た。この男、意外に料理が得意らしく手助けをしてくれていた。
そうこうしているとまた馬車が着いた。この間のガマガエル商人の馬車だ。
「おい、貴様ら、何をしておる!」
ガマガエルがずかずか歩いて来てゴロツキを睨みつける。
「金は渡してあるんだから仕事をしろ!」
その言葉にゴロツキの一人が懐に手を入れて皮袋を投げた。
「金なら返すぜ。話は断る」
「なんだと? こっちが下手に出ていればいい気になりおって……」
いつ下手に出たのかは分からないがガマガエルにとっては最大の譲歩だったようだ。
「やれ、お前たち!」
その合図に後ろにいたガマガエルの護衛たちがこっちにつっこんできて……見えない壁に当たって崩れ落ちた。そりゃバリアくらい張っとるわい。
「なんなんだ? なんなんだ!」
絶叫する様にガマガエルは叫んだ。そりゃあまあ「自慢の親衛隊」が、今まで頼ってきたであろう暴力装置が全く歯が立たなかったのだ。
「貴様ら、覚えてろよ! 私のバックにはカゼーイ子爵が着いてるんだからなあ!」
そんな事はみんな承知の上……なのかは分からないが、カゼーイ子爵何するものぞ、だ。というかカゼーイ子爵自体来ても怖くないというか。
ガマガエルはそのまま撤退して行った。何しに来たんだ? もしかして……いや、まさか!
ワシは急いで城門に走った。いや、その、歩いた方が早い速さなんじゃけどな。歳は取りとうないわい。こう見えて学生時代は足が速くて……いや、ウソじゃ。運動とか苦手じゃったわい。
這う這うの体で城門に辿り着いて見たら外には騎兵と兵士、そして騎兵の先頭には偉そうなデブがおった。
「ワシはカゼーイ子爵である。隣領の危機と聞いて馳せ参じた。開門しろ」
「いや、その、ルドルバーグ子爵様を呼んできますんで」
どうやら門番が必死に留めておる様じゃ。ワシらの後ろからフィリップ殿が馬車で駆けつけた。
「何の用だ、カゼーイ子爵?軍隊とは穏やかでないな?」
「この港に海魔が現れ、困っていると我が領に逃げて来た人間から聞いた。港の停滞を何とかすべく兵を率いたのだ。分かったら通せ」
「何を言っている。もう海魔は居ない。別の場所に逃げた」
さすがに他の世界を支えに行きましたとは言えんよなあ。なんというか荒唐無稽過ぎる。
「ならば、我が目で確かめさせて貰う。兵を入れる許可をいただきたい」
「街に兵を? そんなの入れる訳がないだろう?」
「ならばまだ海魔が居るのだな。誤魔化さずに検分させてもらうぞ!」
どうでも兵士をこの街に入れたいらしい。というか攻める気満々なんじゃの。それに恐らくルドルバーグ子爵は私兵を持って無いと知っとるんじゃろう。
「フィリップ殿、ここはこの老骨に任せていただけますかな?」
「ゲン殿……何か策が?」
「なあに、簡単な事じゃよ」
そう言うとワシはカゼーイ子爵側に向けて叫んだ。
「おーい、腰抜けのカゼーイ子爵よおー。海魔は居らんと言うのに信用出来ん臆病者よおーい。悔しかったら攻め込んでみい!」
「えっ、ちょ!?」
「なんだと! くそう、もう許さん。そこのジジイは捕まえて切り刻むか火炙りにしてくれる! 全軍前進!」
フィリップ殿は慌てて、相手のカゼーイ子爵は激昂してワシを見た。勿論ワシは余裕綽々じゃよ。
「よし、じゃあこれの出番じゃの。頼んだぞい」
そう言って将棋盤を広げて横一列に歩兵を並べた。すると、カゼーイ子爵の軍の前に逞しい兵士が出てきたのだった。
「むっ!? な、なんじゃこいつらは!」
「歩兵よ、さあ、そいつらを蹴散らせ!」
そんな指令を下すと天から声が聞こえた。
「一ターンに動かせる駒は一個だけです」
いや、そこは融通効かせてくれてもええんじゃないかのう、女神様? 仕方ないので並べた歩兵の真ん中辺りのを前に出す。するとそれに合わせて、その位置にいた兵士がずずいと前に出た。
「何のことは無い。所詮は一兵だけよ。蹴散らせ!」
そう言うとまずは騎兵隊ご突撃して来た。歩兵の前まで移動してきたのでワシは歩兵をもう一歩前に出す。
「ふぅん!」
歩兵の兵士は向かってくる騎兵隊をまとめて薙ぎ払った。なるほど。お主こそ万夫不当の豪傑よ!




