第四十五話:爺さんとゴロツキ
切ったものはくっつければいいよ!
ゴロツキの親分というか用心棒というか……とにかくガラの悪いのがワシににじり寄ってくる。
「なあ爺さん。俺たちはな、ここのスラムを取り仕切ってるもんだ。だからな、こいつらの生殺与奪の権利は俺にあるんだよ」
「それを言うならこのスラムはこの街のものじゃからお主らの生殺与奪の権利は領主にあると思うんじゃが?」
「はあ? 腰抜け領主なんてなんも出来ねえよ。だから俺たちが出張ってやってんじゃねえか」
とうやらフィリップ殿は相当に舐められとるようじゃ。まあ仕方ないじゃろう。街が崩壊寸前までいっとったんじゃから。
「その領主様に代わってワシが取り仕切ってやる。去ね」
「はあ? 何言ってんだお前? お前がスラムを仕切る? 笑わせんな!」
そう言うとゴロツキのボス(仮称)は手に持った剣を打ち下ろした。まあバリアは張っとるんで当然ながら弾き返されるんじゃが。
「うおっ!?」
「ボスの斬撃でもダメなのか?」
「狼狽えてんじゃねえ! こんなの単なる虚仮脅しだ。見てやがれ……」
それからボスは右から左から剣をうちつけるがその度に弾かれていく。
「ちくしょう……何ボサっと見てやがる! 俺がこのジジイを抑えてる間にガキを何匹かさらって見せしめにしろ!」
「ひっ!?」
「させんて」
勿論バリアは子どもたちも包み込むように守ってるからゴロツキどもには入れない。
「ダメです、ボス!」
「ちっ、役立たずどもが!」
「お主もちーとも役に立っとらんようじゃがのう」
「黙れ、ジジイ、ぶっ殺すぞ!」
「何を言うておる。殺す気でやっとるのにワシには傷一つついとらんではないか」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
ええ加減飽きてきたのう。鍋の汁は全部食べたか? そうかそうか。またじいちゃんがなんか作ってやるからのう。
「さて、それじゃあお主らを放っておいたら子どもたちに悪さをするかもしれんしのう。処分しとくかの」
「はあ? 出来るもんならやって……」
「風刄」
ワシが手をかざすとそこから真空の刃が出てボスの腕を切り落とした。
「は? ……おああああああああああああああああああああああああああ!」
傷口から一瞬経って血が噴き出よる。まあ片腕じゃしそこまで残酷ではないわな。
「さあて、次はどこにしようか迷うのう。なんなら足を一本切り飛ばした方が考える時間が出来るかのう?」
「や、やめてくれ、頼む、頼む!」
「ワシのオヤジが言うとったよ。銃口向けられたらそれは銃口で撃ってもええっちゅう合図じゃ。じゃないとこっちが撃たれるからな、とな。武器を向けられるっちゅうのはそういう事なんじゃよ」
そう言ってワシは右足を切り飛ばした。また血が噴き出す。
ふむ、このままじゃとショック死するかのう。どれ、ちょっとバリアで止血するか。
「はひ? と、止まった?」
「傷口から血が出んように血管を抑えとるだけじゃよ」
「俺たちはなんにも悪いことしてねえのになんでこんな目に……」
何にも悪い事しとらんじゃと? 子どもたちに危害を加えようとしたし、危害を加えて来たんじゃろうに。悪漢共には御仏の慈悲は不要と言うがまさにそれじゃの。
「そもそも港が復活し、街に活気が戻ってきとるのにこんな真似をされたらそりゃあいかんよなあ」
「知るかよ! そんなもん俺達には関係ねえし、ガキどもを使い潰すのが俺達の……ひぃー!?」
アホなんかの、こいつ。今どういう状態にあるのか理解しとらんかったか。
「ベッキー」
「はい、ご主人様」
「……ご主人様はええからこいつらの為に憲兵を呼んできてもらえんか?」
「憲兵……騎士様ですか? ええと、この街に巡回の騎士は居ないと思うのですけど」
なんとまあ……そりゃあ警察とかおらんかったらこんなのがのさばるわなあ。というか他の住民が無事じゃったのが不思議じゃて。
「この街は滅びようとしてましたから。略奪するものも無かったんですよ」
なるほどのう。これは復興を急がねばならんのか。となると人手は必要じゃなあ。
「おい、お主ら。やる事ないならここの復旧を手伝え。給与も出してやろう」
「俺達に働けってのか!?」
「いやならまあ血塗れになって倒れる方を選んでもええぞ?」
「選択肢ねえじゃねえか! や、やるよ、いえ、やります、やらせてください!」
よしよし、だいぶ素直になったのう。さて、じゃああとはこのボスじゃな。さすがに手と足が欠けとったらあまり働けんわな。
「おんころころせんだりまとおぎそわか、おんころころせんだりまとおぎそわか、おんころころせんだりまとおぎそわか……」
薬師如来様の真言唱えたら生えたりせんかのう。おお、傷口が光ってきたわい。む? 切り飛ばした腕と足も光っとるのう。ちょっと傷口にくっつけて……くっついたわい。
「じ、爺さん、あんた一体何をやったんだ?」
聞かれてもワシにもわからんよ。




