第四十四話:爺さんと豚汁
豚肉が入ってればこんにゃくとかごぼうとかなくても豚汁だと思うんですよ。あと味噌。
「あー、じいさん、いつの間にか居なくなったから逃げたのかと思ったぜ」
「いやいや、ちょっと肉を獲りにな」
「へん、お屋敷に肉取りに行ってたのかよ。そいつはありがてえこって」
「お肉食べられるの?」
ここから先は孤児のみんなにもやらせた方がええじゃろうなあ。働かざるもの食うべからずとも言うしな。個人的には子どもは食うのも仕事のうちじゃと思うとるんじゃが。
「それじゃあのう……ここにまずはブルーシートを敷いてじゃな」
「うわ、じいさん、なんだよこの青いの?」
「下について獲物が汚れるの防止じゃよ。それじゃあ出すぞい、それっ」
ワシの取りだしたイノシシに子どもたちがびっくりしとった。
「これ……デケェんだけど、じいさんが仕留めたのか?」
「まあそうじゃの。勝手に頭をぶつけて気絶しとったからのう」
「な、なんだ。木の幹にでもぶつかったんか。運が良かっただけかよ」
本当は頭をぶつけたのはワシのバリアになんじゃが別に知らんかったところでなんも変わらんからのう。
「さあ、女の子も男の子も解体するのを手伝ってくれんかの? 肉が食べれるぞい」
「そいつは嬉しいねえ」
ん? なんじゃ? 子どもにしては随分と野太いが……
「ひゅー、イノシシじゃねえか。こりゃ贅沢品ですぜ、アニキ」
「そうだな。おい、そいつをこっちに寄越してもらおうか」
ガラの悪そうな男たちが数人揃って出てきおった。食い物の臭いにでもつられて出てきたのかのう?
「ふむ、解体を手伝うなら分けてやっても良いぞ?」
「はあ? 話聞いてねえのか? 全部寄越せって言ってんだよ! そうだ、そこのジジイはメイドも連れてるし、有り金寄越して貰おうか?」
どうやらならず者のようじゃな。相手にするだけ時間の無駄じゃからなあ。
「よし、じゃあお前さんからじゃな。解体の手伝いを頼むわい」
「え? でも……」
ワシが包丁を渡した男の子は少し震えていた。こいつらに好き勝手にいびられたんじゃろうなあ。
「心配せんでもええ。ここにおる子らはワシが守ってやるわい」
「出来もしないことは言わない方がいいぜ、ジジイ!」
そう言うとゴロツキどもの仲間の一人が棒切れを持ってワシに殴り掛か……ろうとしてバリアに弾き飛ばされた。当然ながらバリアは張ったわい。
「な、なんだぁ!?」
「お主らには指一本触らせんよ」
「ならこうだ! 火炎球!」
杖のようなものからいくつかの火球が飛び出して……跳ね返ってゴロツキどもに直撃した。当たる前に「跳ね返った!?」とか「こっち来んな!」とか騒いどった気もするが、まあ気の所為じゃろう。
「さあさあ、みんなでお料理じゃ。ほれ、解体しようの」
「はーい!」
子どもたちはゴロツキどもが手を出せない事に安心したのか意気揚々と解体を始めた。その中にはテリー君もおった。
「仲間を守ってくれてありがとう。あんたは他の大人と違うんだな」
「まあ世の中はアレな大人も大勢おるからのう」
「そんな大人しか見た事なかったよ。あんたみたいな大人もいたんだな」
「お利口さんじゃの。仲間を守るために頑張ったんじゃなあ」
ワシは思わずテリー君の頭を撫でてやった。テリー君は撫でられながらも嫌がらず撫でられるままになっておった。
「爺ちゃん、終わったよ!」
人数が多かったからか肉の解体は早めに終わったようじゃ。それならまずはこの肉を炒めるか。ごま油を出して炒めて……まあこれだけでも美味いとは思うんじゃが、やはりあったまるご飯を食わしてやりたいからのう。さっき市場で買った寸胴鍋にお湯を入れて火にかけ、じゃがいも、白菜、かぼちゃを入れる。普通の作り方じゃないがこれでも大丈夫じゃろう。
「さて、女の子に頼もうかの。ここにアクというかなんか濁ったもんが浮かんでくるからそれをすくって捨てておくれ。頼んだぞい」
「うん!」
女の子たちにおたまを渡してアク取りをさせる。なかなかに大変な作業じゃが、女の子も自分が頑張ったという達成感を得られるじゃろうしな。
「そろそろええかのう」
仕上げに味噌を入れてかき混ぜて出来上がりじゃ。イノシシが入っとるが豚汁のつもりで作ったから豚汁でええじゃろう。ワシは漆器の、ワシの味噌汁茶碗をいくつも出してそこによそってやる。スプーンもつけてやったぞ。
「ほれ、食うとええ」
「ありがとう……美味しい! あったかい!」
「ほっほっほ。たぁんとあるからまだお食べ。おかわりしてもええぞ」
そこの子どもたちが次々とお椀と交換に笑顔を見せてくれる。やはり子どもの笑顔はええのう。
「このジジイがお前たちに逆らった奴か?」
なんじゃまたゴロツキが来たんか。さすがに食べるのに邪魔じゃからそっとしといて欲しいんじゃがなあ……ワシはやれやれと身体をそっちに向けた。




