第四話:爺さんと旅は道連れ世は情け
座布団は重ねて使うもの。座布団全部持ってって!
しかし事情と言われても、いきなり異世界から来ました、ではなんともならんからのう。ここは最低限の情報で良いか。
「道に迷ってしもうて気が付いたら街道に出てのう。盗賊に襲われたんじゃが何とか撃退してこっちに来たところじゃよ」
「撃退!? 盗賊を撃退したのですか? 腕利きの護衛が私たちを逃がすしか出来なかった盗賊を?」
さすがにバリアは言わんと信じてもらえんじゃろうなあ。やれやれ。
「そうじゃな、そこのギャリソンさん、じゃったかの?」
「なんでしょうか?」
「剣の心得はおありかな?」
「一通りの事は」
「ならばその剣でワシを攻撃して貰えんかの?」
「なんですって!?」
さすがに自分を攻撃しろと言われるとは思わなかったのか、ギャリソンは戸惑っているようだ。
「どうやって盗賊を追い払ったか知りたいんじゃろう?」
「……分かりました。私としても旦那様の安全を確認する義務があります。分からないままで終わるのはそんなのは嫌です」
「そうじゃ恐れないでみんなのために、じゃな」
「みんなというか旦那様とお嬢様の為ですな」
そういうと執事は剣を構えて……ふむ、なかなか様になっとるの。いや、よく分からんが。フィギュアの造形とかなら分かるんじゃがなあ。
「参ります。はあっ!」
裂帛の気合いとともに剣を思いっきり突いてきた。狙ったのはワシの肩口かのう。万が一通じても致命傷にならん所を選んだか。しかし……
「バリア」
「なっ!?」
ガキンと音がして剣が弾かれた、
「どうですかな?」
「何やら見えない何かに阻まれた感じですな。これは魔術ですかな? それにしては詠唱もなく……」
「これはワシの能力でしてな。この通り、剣もそして魔術でさえ跳ね返すのですじゃ」
得意気に言ってはいるが、何がどうなってこんな事になってるのかは全く思い出せない。歳をとるとどうも色々忘れやすくなっとるんじゃよなあ。さすがにメシを食う時間くらいは覚えておるぞ。田中のじいさんと一緒にせんでくれ。
とか思っているとエミリーのお腹が可愛くくぅ〜と鳴った。お腹が空いているのか。ならば確かうさぎの肉があったはずじゃが。
「おとーさん、おなかすいた〜」
「ふむ、ならばここで昼食としようか。ギャリソン、頼む。ゲン殿も良ければ一緒に」
「ならばご馳走になろう」
自分でご飯の支度をしなくていいのは助かる。まあ私が手ぶらだから食料を持ってないんかと思われたのかもしれんが。飴くらいならポケットに入ってる大きさじゃからの。
ギャリソンは馬車から大きめの鍋を取り出して水を魔術で出して料理を始めた。なるほど鍋は買っておいた方が良さそうじゃな。
しばらくすると野菜の入った汁物が姿を現した。なかなかに美味そうだ。
「それではどうぞご賞味ください」
言われてフォークを伸ばす。箸は無いようじゃからマイ箸は作らねばならんな。もっとも今はそんな場合ではないのじゃが。
「素晴らしいの。優しい味に仕上がっておる。もてなすことを第一に考えた味じゃな」
「恐れ入ります」
ワシの批評に満足だったのかギャリソンは深深と頭を下げた。
「さて、これからの事じゃが、馬を提供するので馬車に乗せてもらえんじゃろうか?」
「おじーちゃんもいっしょなの?」
「ダメじゃろうか?」
「アメまたくれたらいいよ!」
どうやらご飯食べたばかりなのに飴玉をご所望のようだ。
「今は食事をしたばかりじゃからな。明日でも良いなら構わんぞ」
「わーい!」
「という事らしいのですが……いかがかな?」
「娘があんなに喜んでいるのを反対なんぞ出来んよ。それにそなたは命の恩人。なればこの程度でもてなしたと思われるのは子爵としての沽券に関わる。王都の屋敷までご同道願えますかな?」
ふむ、このまま王都まで送って貰えると? それは随分に私に船な申し出……いや、これは護衛代わりにバリアを使って欲しいと言うところじゃろうな。この貴族の青年も、壮年のギャリソン執事も、そしてこんなに可愛いエミリーも再度の盗賊襲撃で凶刃に倒れてしまうのはしのびない。
「それではよろしくお願いします」
「心得ました。どうぞご乗車ください」
「おじーちゃんよろしくね!」
こうしてワシは馬車の旅に揺られる事になったのじゃが……
「かなり揺れるの」
「ええ、ですからあまりスピードも出せずに少しずつ休憩を入れるのです」
「仕方ないの……これでも使うがええ」
「なんでしょうか、これは?」
「これはの、座布団というクッションじゃよ。しりの下に敷いて使うんじゃ」
どうやら異空間収納の中に座布団があったらしく、今確認したら取り出せた。飴玉といい、座布団といい、前世でワシが持っとったもんは入っとるのかもしれんな。
「おしりいたくない! すごーい!」
エミリーも喜んどる様じゃな。ならばそれで良かろう。