第三十七話:爺さんと怪魚
召喚獣だとオーディンが好きです。
という訳で領都に到着……したんじゃが活気がないのう。
領都の屋敷に着いたら若くて美人なお嬢さん……いやもうそこまで若くはないのう。が駆け寄ってきた。
「シャーロット!」
「ママ!」
「あなた、エミリー、おかえりなさい!」
どうやらエミリー嬢のお母さんの様じゃな。なるほどエミリー嬢の美人さはお母さん譲りじゃったか。いや、フィリップ殿が不細工な訳ではないんじゃが、そこまでハンサムでもないからのう。
「あなた、こちらの方は?」
「ああ、私とエミリーの命の恩人でな。ゲン殿という」
「まあ!」
それを聞くといそいそとワシの方に駆け寄ってきた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。娘と夫がお世話になりました。私はこのルドミラール子爵家の夫人として取り仕切っております、シャーロットと申します」
「大したことはしとらんよ。ワシはゲンと呼んでくれい。それよりもじゃ。海が大変な事になっておるのう」
「ええ、その、私どもとしてもどうしたらいいか……」
「まあ、もう一度ちょっと海を見に行ってみるかのう」
危ないとフィリップ殿には止められたが、見てみんことにはよう分からんし、対策を立てようがないからのう。
港に来てみたが殆ど人がおらん。海を眺めとる老人くらいのもんじゃ。……いや、ワシよりも若そうではあるが。
「何を黄昏とるんじゃ。黄昏れるにはまだ早かろうて」
「おお、ワシよりも年寄りがまだこの街におったとは……しかし、この街はもうダメなんじゃ」
「それは怪魚が居るからか?」
「その通り。怪魚バハムートが海を支配しとるんじゃ」
バハムートと言われると零式とかつけてドラゴンにしたくなるのは最終幻想のせいかのう?
「その怪魚は見えるのか?」
「あれじゃよ」
指さした先には小高い丘のようなものが見える。そう言えば海の中に丘と言うのもおかしいのう。島かなんかか? ……いや、もしかすると、怪魚はあのデカさなのかのう。
「島にしか見えんが」
「あれが怪魚じゃよ」
ふうむ、いっちょ釣り上げてやろうかと思ったがあのデカさじゃと無理そうじゃな。少し暴れるだけで海が揺れそうじゃ。まるでグラグ○の実……津波が来るのう。
しかし、あの怪魚を何とかせんとこの街はいつまで経ってもこんな感じじゃろう。何とか出来んものか……
さすがに現代日本のアイテムでもあんな怪魚を何とかするものはないのう。いや、重機とかなら可能性はあるがワシの異空間収納にあるのはうちにあるものだけみたいじゃしのう。釣り道具はあるから何とか釣り上げられんものか。
「まあ、二、三日中に何とかするわい」
「ほ、本当ですか? 本当に漁に戻れるんか?」
「任せておけ。ワシは領主に頼まれてここに来ておるでな」
「本当じゃったらありがたい事じゃが……まあ期待せんで待っておくよ」
期待はされてないか。まあ、今までもなんともならんかった事を自分より年寄りのワシが何とかできるとも思えんのじゃろう。
二、三日と言ってみたもののなんも思いつかん。ここは直接乗り込んでみるかのう。船は……誰もおらんで手配はできそうにないのう。ちと借りるか……いや、待てよ? そう言えば釣りに行こうとヨットハーバーに置いとったヨットは取り出せるんじゃろうか……やはり無理か。本当に家にある物だけらしい。
ならば次善の策として木の雨戸を取り出してじゃな、ここにバリアを張って……うむ、水に浮かぶし、横から水も入ってこん。推進力は……魔法でええじゃろ。よし、待っとれよ、怪魚バハムート!
そっからモーターボートの様に風と水を操って船というか雨戸を進めた。若い頃はこう見えてもサーフィンで……嘘じゃ。どっちかと言うとインドア派じゃったからなあ。魚釣りもキャンプも登山もアニメの影響じゃよ。あ、ギターも勝ったはええがやる時間なかったのう。結果として物置に沢山残骸があるんじゃが。
さて、バハムートの目の前まで来たぞ。こっちが前かどうかは分からんが。どれどれ、つついてみるかの? へんじがない。ただのしかばねのようだ。いや、屍ではないがな。少しずつ動いとるし。それか波なのかの?
つつき続けとると突然海が揺れた。このままでは津波が発生するのう。ちょっと大変じゃけど海岸線に沿ってバリアじゃ! いや、出来るとは思わんかったが出来てしもうた。
「我が眠りを妨げるものは誰だ?」
「ほほう? 魚でも喋れるんじゃのう」
「我が名はバハムート。神に作られし魚としてこの海が生まれた時から居る」
「ずっとここに居るのか?」
「ここは居心地がいい。あと百年程度は居ても構わんと思っておる」
さすがにここの領海に百年単位で居座られても困るんじゃが……何とか外海に移動してもらうように説得できんものか。話は通じるから説得したいところなんじゃがなあ。




