第三十四話:爺さんと干し柿
干し柿の甘さは初孫に会ったおじいちゃんおばあちゃんと同レベルとか()
ラフェル王子の食べっぷりを見て、他のロイヤルファミリーも毒などではないと食べ始めた。
「これは……ぬおっ!?」
「辛さは感じるのにほのかに甘い……これはどういう味だ?」
「こんな味、どこの国でも食べたことがない!」
王と王子二人が夢中で食べていた。姫二人はそこまでがっついてないが食べる手は止まらないようだ。
「あー、おいしかった! あまいのたべたい」
「飴玉か? さすがに食後に飴玉はのう」
「ちーがーうー?ほらシワシワであまいの」
「シワシワ……これかの?」
取り出したのは干し柿。入院前に干しておったのが今では食べ頃じゃ。まあこれなら構わんじゃろ。
「ほれ、エミリーちゃん」
「わあい。ありがとー、おいしー!」
はしゃぎながらむしゃぶりついておる。それを見とる姫二人。
「お嬢さん方、甘いものはお好きかな?」
「え? ええ、それなりには」
「私は大好きです」
「食べるならこれと同じやつを出してやるぞい」
「是非!」
「ありがとうございます!」
もうワクワクが止まらんのじゃろう。ワシの手元を食い入るように見ておった。干し柿を皿の上に出してやる。
「ナイフとフォークでも食べられんことはないが、かぶりつくのが一番じゃぞ?」
二人は同時に口の中に干し柿を入れた。干し柿とか普通に買ったらかなり高級品じゃからのう。ワシは山で拾ってきて干しとるからタダ同然なんじゃが。
「甘い……それも強烈な、食べたことの無い甘さ」
「甘いわ、甘いけどしつこくないというか……」
二人の前の干し柿がみるみる無くなっていく。いやいや、あまり食べ過ぎると虫歯になるぞい。
「あの、ワシらにも……」
娘たちの姿に気圧されたのかおずおずと申し出る国王陛下。仕方ないのう。さっきの料理長も含めて人数分出してやるか。
「これは蜂蜜菓子よりも甘いのう」
しみじみ見ながら食べる国王陛下。三人の王子も嬉しそうに食べています。姫二人はというと、残り一つの干し柿をどっちが食べるかで睨み合いになっとった。仕方ないのう。もう一個出してやるか。仲良く食べるんじゃぞ。
「これは……どうやって作るのだ?」
「作り方ですか? 柿を拾ってきて干すだけですな」
「柿というと……これの事か?」
出てきたのは甘柿。いや、作れんことはないがわざわざ作るのも面倒じゃろう。
「これでなくてもっと尖っとる柿が無いですかノ?」
「尖った? いや、あれは失敗作の柿じゃ無いのか? 食べると口の中が渋くなるから捨てとるんじゃよ」
あー、まあ渋柿をわざわざ渋抜きしてまで食べるという発想にはならんのじゃろ。
「この干し柿はその渋いので作っとるんじゃよ」
「!? なんですって! それは今まで捨てていたゴミが宝の山になるということでは?」
「そこまでむずかしゅうはないから教えるのは構わんが」
「よろしくお願い申す」
なんだかトントンな感じで教える事になってしもうたのう。そろそろ帰りたいんじゃが。
「おじーちゃん、おうちでもつくれる?」
「そうじゃな。尖った柿があればそこまで難しくないじゃろ。他にも美味しいものを作ってやるわい」
「わーい、たのしみー」
「な、なあ、ゲン殿。もし良かったらうちの国の相談役としてこのまま……」
「スマンがエミリーちゃんとの約束が先でのう。その後なら考えんでもないが」
エミリー嬢がVサインをしとる。偉そうに見えんのがまたええのう。
「ルドミラール領か……あそこはもう終わった領地だと思うんだが」
「怪魚さえ居なければなんとでもなるんだろうが」
「国から怪魚の退治に人は回せんのかの?」
「さすがに海中では我々も手を出せず、途方に暮れていたところなのです。ルドミラール子爵には申し訳ないんだが、国軍を動かす事も出来んのだ」
やはり、その怪魚というのが問題な様じゃのう。まあワシに何が出来るか分からんが頑張ってみるかのう。
帰り際、ラフェル王子がエミリー嬢と離れたくないとブツブツ言っとったが、エミリー嬢がまたねって笑顔で言うとそのまま引っ込んだ。
「エミリーちゃん、あのラフェル王子はどうじゃったかな?」
「うーん、わるくはないんだけど、もっとたよりがいがほしいかなあ」
「さすがにあの年頃というかエミリーちゃんと同じ年でそれは無理じゃろう」
「それにわたしはおじーちゃんのおよめさんななってあげるんだから!」
ニコッと笑うエミリー嬢。大きくなったらお口臭いとか言われて敬遠されるんじゃろうなあ。親戚の子どももワシに懐いとったのがいつの間にか……いかん、涙が出てきた。
「およめさんになってあげるからあめちょーだい!」
まあこの歳頃は色気よりも食い気じゃろう。エミリー嬢の社交も終わったことじゃし、そろそろ王都を離れてルドミラール領に行く頃合じゃなあ。




