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第三十三話:爺さんとカレー

カレーは飲み物です(真顔)

 さて、それじゃあ食い物を……おお、肉じゃな。しっかり焼かれておる。歯が悪くなってからはそこまで食べたいとは思わなんだが、悪くないのう。


 海産物は内容じゃ。このスープは……少し味が薄いというか塩辛いのう。野菜の風味とか全く感じられん。これが上品な味なんじゃろうか?


「どうですかな? 我が城のシェフの腕によりをかけた品々は!」


 スマンがあまり美味しくないんじゃよなあ。いやいや、これも飽食日本に生まれているからの話。この世界ではこれが普通というか高級なんじゃろう。面倒じゃし適当に褒めておくかの。どうせ味がわかるもんはここには居らんじゃろうし……


「おじーちゃん、これ、あまりおいしくないねー」


 しまったあ! エミリー嬢には日本の味を覚えさせとったわ! いや、エミリー嬢が喜ぶからついつい、のう?

「エミリーちゃん、そういう時はしー、じゃよ」

「あ、そうだね。しー。かえったらおいしいのちょうだいね!」


 しー、になっとらんじゃないか! ほれみろ、国王陛下どころかロイヤルファミリー一同がワシらの方を見とる。


「これだから下っ端貴族は……この高貴なる味がわからんというのか?」


 やれやれと口を開いたのは軍務卿の第一王子。続いて第二王子も話し出す。


「私も各国に出向いてますけど、うちの国の料理はどこにも劣っていないと思いますが?」

「いや、その、エミリーちゃんは甘いものが好きじゃからこういう高級な料理は食べ慣れとらんのじゃろう。許してくだされ」

「えー? おじーちゃんのあまいのもすきだけど、あのからくてあまいのもすきだよ?」


 辛くて甘いの……カレーかのう。そういえば中辛しかないカレーにリンゴとはちみつ入れたらええぞとクラリッサさんに渡した記憶が。恐らくそれを食べたんじゃろうなあ。いや、参った。


「その「辛くて甘い」というのが気になるのう。どうじゃろう、それに心当たりがあるなら作ってみんかね?」


 これは提案という建前で本音は「催促」じゃろうなあ。自分の言い分が通らんはずがないとか思われとったら面倒な事になりそうじゃ。


「それならば……厨房をお借り出来ますか? あとは手伝いの人も」

「うむ、料理長!」

「はっ、お呼びですか?」

「うむ、こちらのゲン殿について料理を頼む。何やら珍しい料理らしい」

「ほほう、私の料理では不服、ということですかな?」


 料理長の目がギラリと光った。いや、ワシは穏便に過ごしたかったんじゃがなあ。やれやれと思いつつ厨房へ行く。


 本格的な料理はした事ないが、手順は知っとるし一人暮らしが長かったから炊事経験もあったしのう。


「それじゃあこの人参と玉ねぎとじゃがいもを一口サイズに切ってくれるかのう?」


 実物を指しながら指示をする。本来なら名前は違うのかもしれんがいちいち面倒じゃからな。その間にワシは鍋にルーをいつでも入れられるように準備しとくかの。


「次にその野菜を炒めてくだされ。肉も忘れんようにの」


 次々と野菜と肉が投入されて炒められる。なかなかしっかり炒めてくれておる。


「さて、そこに水を注ぐぞい。そんで煮込むんじゃ。途中で浮かび上がるものはすくって捨てるんじゃよ」


 いわゆるアク取りというやつじゃ。これがないとスープが不味くなるからのう。もしかして、この世界ではアク取りせずに煮汁を捨てとるんかもしれんな。


 最後にワシがこれとこれを……まあカレールーとはちみつなんじゃがな。はちみつは入れすぎて失敗するといかんので少量にしておいた。はちみつ入れるといつもよりも煮込まにゃならんのが玉に瑕よなあ。


「できたかの……うむ、これなら良かろう」

「出来ましたか? 失礼……」


 料理長が味見とばかりにカレーをすくって飲んだ。


「うおおおお! なんですか、これは! 辛いのに甘い……そして何より美味い! なんなのですか!」

「ま、まあ、落ち着きなされ。これはカレーというものじゃ」

「カレー……」

「ほれほれ、国王陛下たちに持っていくぞ」


 ワシらはカレーを鍋ごと運んだ。ちなみに米は無いからパンを付けてもらった。このパンもなあ……いや、今はよかろう。


「それではこちらがカレーになります」

「カレーとはまた不思議な名前じゃな」

「色が少し汚いわね」

「匂いはいいんだけどなあ」


 王子も姫も食べるのに躊躇しているようじゃ。


「あ、おいしそー、いただきます!」


 エミリー嬢はそんなことお構い無しにカレーにパクついた。


「おいしー! さすがおじーちゃん! だーいすき!」


 エミリー嬢には好評の様じゃ。まあこれでよしとするかの。ん? ラフェル王子が意を決したかの様に口に運んだのう。


「これは……美味しい、美味しいですよ!」


 夢中になって食べ始めよった。やはり子どもにはカレーじゃなあ。

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