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第三話:爺さんと馬車の中

エミリーちゃんは可愛いです。外見はエミリー・スチュアート嬢を半分くらいの年齢に幼くした感じですよ、仕掛け人様。

「もし、少々お尋ねしますが」

「くそ、盗賊がこんな所まで……」


 中におったのは若い……いや、ワシ基準じゃからそこまで若くはないのかもしれん。優男と言っていい青年とその青年に抱きしめられている気を失ってるらしい少々幼い少女。孫がおったらこれくらいじゃろうかの。


「落ち着いてくだされ。ワシは盗賊ではありませんぞ」

「そんな事を言われても信用できるものか! 盗賊が居るのにこの馬車まで追いついてきたのがその証拠!」

「困りましたな……盗賊は逃げてしもうたんじゃが」


 その時、外に人の気配が。いや、気配察知出来るとかではなく、声を上げて駆け寄って来るから直ぐに分かるんじゃ。


「旦那様、お嬢様!」

「おお、あなたは執事さんかなんかですかの?」

「なっ、貴様、何者だ! 馬車から離れろ! ご無事ですか、旦那様!」


 どうもこの世界の人間は血の気が多くて困る。こんな年寄りを捕まえて盗賊呼ばわりとは。その時、馬車の中で気絶していた少女が目を覚ました様だ。


「ううーん、あれ? おとーさん、あの人髪の毛ないよ?」


 四十路に差し掛かった辺りから髪の毛が抜け始めて、父も祖父も見事にハゲ上がっていたから半ば諦めていた。なので頭の毛が本格的に寂しくなった五十代で頭を丸めたんじゃ。出家とかはしとらんがお坊様と間違えられたりもしたの。


「ほっほっほ。髪の毛が無いから怪我もないんじゃよ。お嬢ちゃん、名前は?」

「エミリー!」


 金髪ツインテール幼女は弾けるような笑顔を私に向けた。こういう時は飴玉でもあげたくなるのう。異空間収納に入っとったりせんかの? おお、あるわい。前に見た時は無かったような気もするが、きっと見落としとったんじゃろ。頭の上のメガネと同じじゃ。


「どれ、エミリーちゃんとやら、飴でも食べるか?」

「アメ? 降ってないけど食べられるの?」

「その雨では無いの。こうやって口に入れて食べるんじゃよ」


 包み紙を解いて中から飴を取りだし口の中に放り込む。黒糖のしっかりした甘さが口の中に広がっていく。ふむ、まあこの世界に来てから初めての甘味じゃからな。なんというか格別に感じるの。頬が緩むわい。


「おじいちゃん、それ、美味しいの?」

「おお、甘くて美味しいぞ」

「私も食べる!」

「おい、エミリー!?」


 青年は何を言ってるんだとあたふたしている。執事らしき人物もあたふたしている。これは警戒を解いてもらえてないのだろう。


「そこの人、スマンがこの飴をエミリーちゃんと旦那様とかいう人に渡して貰えんか?」

「……毒味をしても?」

「構わんよ。なら、毒味用にもう一つ渡しておこうか」


 都合三つの飴玉を執事に渡す。セバスチャンとかそんな名前なんだろうなあ。


「では、失礼して……むっ!?」

「ギャリソン!?」


 そう来たか。いやまあセバスチャンでなかっただけでも良しとせねばならんだろう。


「旦那様、毒は無いように思います。お嬢様、どうぞお食べになって構いません」

「はやくちょーだい! えいっ。あっまーい!」


 せかせかと口の中に飴を放り込むと、エミリーは頬っぺたに手を当てて落ちるのを防いでいるかの様な仕草をした。


「エミリー、大丈夫なのか?」

「おとーさん、いらないならエミリーにちょうだい!」


 目をキラキラさせて飴をねだるエミリー。だが信用してもらうには旦那様とやらに食べてもらわねば。


「エミリーちゃんや、飴玉が欲しければまだあげるからお父さんのは取っちゃダメじゃぞ」

「ホント? わーい!」


 どうやらエミリーは餌付け完了らしい。そんな娘の様子を見て意を決したのか、旦那様も飴玉を口に運ぶ。


「なっ、なんだこれは!? この強烈な甘みは今まで食べた事がないぞ!?」

「お気に召したのなら話を聞いて貰えますかの」

「お? おお、どうやら盗賊では無いようですな。疑ってしまい申し訳ない」

「ええんじゃよ。襲われて必死じゃったんじゃろうからの」


 それから馬車から出て話をする事になった。まず青年の名前はフィリップ。フィリップ・ルドミラール。なんでも子爵とかいう爵位の貴族らしい。娘のエミリーと執事のギャリソンを連れて王都へと向かう途中との事。その途上で盗賊に襲われて命からがら逃げ出したという訳らしい。


「護衛とかはおらんかったのか?」

「戦ってはくれたんだが人数が違い過ぎてな。私たちを逃がすのがやっとだった様だ」


 まあ確かに人数は多かったの。ワシにはバリアがあるから問題無かったが。


「それで逃げたものの、馬が倒れてしまい、馬車が立ち往生してしまったのだ。あわてて辺りに野生馬でも居ないかと探してみたのだが」

「申し訳ありません。見つかりませんでした」


 ギャリソン執事が申し訳なさそうに頭を下げる。


「それで御老人……」

「ゲンと呼んでくれ」


 本名言ったところで覚えられるとは限らんからの。向こうの呼び名は耳慣れんじゃろうし。


「そちらの事情をお聞かせ願いたいんだが」

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