第二十九話:爺さんと誕生式
エミリーちゃん登場!
王子の義母殿……義理の母親は現王妃らしい。元々は前王妃である方が亡くなったあとの後妻らしいが。
「今までは私も何も無かったのです。ですが、つい数日前に弟が生まれてしまったんです」
ほほう? なるほど。夫婦仲は悪くないんじゃのう。
「それでぼくが居ると弟が王位につけないからと」
「なんかの間違いとかでは無いのか?」
「いえ、優秀な部下たちが調べてくれてますから」
どうやらこの王子、身分の低い者にも偏見を持たない立派な王子様らしい。それで軍団長なども味方についているんだとか。
「父上……国王陛下には言わんのか?」
「父は義母上の味方なのです」
なんとまあ、最初に味方になるべき父親が敵に回っとるとは。それだと誕生式なんぞ開いてないのでは?
「いえ、対外的には私を王子と発表してますし、一応母方の父であるお爺様がそれなりの権力を持っていまして」
なんでもこの国は貴族と王族の合議制で、元老院と呼ばれる組織があり、そこでの決定は王でさえも簡単には覆らないとの事。先代の王もそこに居るらしい。なお、フィリップ殿は子爵じゃから元老院とは関係ないらしい。
「それを聞いとると王になるのも考えものじゃのう」
「それでも国王権限で様々な事が可能になります、それをやめたくはないのです」
「様々な事のう。どんな事がやりたいのじゃ?」
「そうですね……もっと庶民に優しい制度作りでしょうか」
なるほど。これは名君になりそうなかんじじゃわい。もっとも、エミリー嬢と同い年ならこれから先どう成長していくかわからんがの。
「仕方ない。それならこのパーティーの間だけでも守ってやるかの」
「本当か! ありがとう……」
こうしてワシは王子様の護衛となった訳じゃ。もっと穏便にエミリー嬢を見たら帰るつもりじゃったんじゃがのう。
昼飯はこっちで出してもろうた。王子と同じ食事でどうかと思ったがワシが食べると王子がその後に続けて食べておった。あれ? これ、もしかしてワシが毒味役じゃったんか?
「少々の毒なら慣れております」
そういうの慣れるものでは無いんじゃがのう。まあでも毒とか入っとらん美味いスープじゃったぞ。本番ではワシが執事の格好をするらしい。まあどう見てもハゲの執事のジジイが護衛とは思わんわな。
そして誕生式の本番が始まった。いやまずは入場者チェックというか女の子たちの入場じゃ。年齢が高めの姫君……まあ高くて二十歳まではいかんじゃろうくらいの女性が次々と入ってきよる。
どの子も沢山飾り立てて王子のハートを射止めることを狙っとるみたいじゃ。いや、当の王子は目移りとかしとらんでぼーっと眺めとるようじゃがな。
「王子様、お久しぶりです。マルグレーテ公爵家のサラです」
「サラか。久しいな。今日は楽しんでいってくれ」
「ありがとうございます」
「王子様、初めまして。リンスレット侯爵家のドナテラです」
「ありがとう。楽しんでいってくれ」
王子への挨拶が次々と流れていく。まるでベルトコンベアに載せられとるみたいな流れ方じゃて。どの令嬢も十把一絡げ的な派手なドレスを纏っておる。
そんな時に入り口に皆の視線が集まった。その者、蒼きシルクのドレスを身に纏い、赤色のカーペットに降り立つべし。カーペットが金色じゃったら完璧じゃったんじゃがのう。
それはもちろんエミリー嬢じゃ。ジーナが頑張って仕上げたんじゃろう。首には真珠の首飾りをしておる。うんうん、似合っとるのお。
「あっ、おじーちゃんだ!」
エミリー嬢はワシを見掛けると王子には目もくれず真っ先にワシに駆け寄った。
「おじーちゃん、みてみて。きれいでしょ」
「お? おお、綺麗なんじゃが、先に王子様にご挨拶せんか」
「あ、そっか!」
それからクラリッサさんが教えたであろうカーテシーを完璧にこなして王子に挨拶をした。
「るどみらーるししゃくけのえみりーともうします。はじめましておうじさま」
「あ? ああ、その、あの、よろしく……」
やっと正気に戻った王子様は少し呆然としながらエミリー嬢に応えた。いやまあ確かにエミリー嬢は可愛かったのう。目の中に入れてもおかしくないというのはこういう事なんじゃろうか。
「おや、可愛らしい子ね。子爵家だったかしら? あなたにピッタリじゃない」
「義母上……」
そこに現れたのは派手めな服装の女性。確かに美人ではあるがほっとせん感じじゃのう。観賞用としてならまだ耐えられるかもしれんが、家族を築く気にはならんのう。
そんな王妃がエミリー嬢の胸元を見て血相を変えた、
「あんた! これは、これは何!?」
「これ? くびかざりー。おじーちゃんにもらったの!」
王妃の悪意に気が付かず、無邪気に応えるエミリー嬢。いや、そういうところも魅力的なんじゃがのう。何やら面倒な事になりそうじゃて。




