第二十八話:爺さんと王子
狙われた王子様
「先程は弾みで申し訳ないことをした!」
ミランダさんに土下座されとるんじゃが。この世界でも土下座はあるんじゃのう。
「まあまあ顔を上げてくだされ。美人が台無しですぞ」
「ううっ、お優しい。その、実家からいつ結婚するのかと圧力が強くて……」
婚活問題は世界を越えてもあるものなんじゃなあ。
「いやいや、大変さは分かっておりますとも。こんなジジイでなしにもっと若くていい男でも探しなされ」
「若くていい男は若い女に行くのです。私なんて私なんて……」
なんとも面倒じゃなあ。いや、多分姐さん女房がええっちゅうのはおると思うがなあ。
「可愛らしさよりも頼り甲斐を前面に出せば可能性は上がると思うがなあ」
「本当かっ!?」
「お、おお、一定数頼り甲斐ある姐さん女房を求めとるのはおると思うぞ」
「そうか、その路線もアリなのか。可愛くしなければと見合いの席でぶりっ子っぽくしていたのに引かれていたのはそういう……」
やはり見合いで失敗しとったか。焦るのは分からんでもないがこういう男女の機微は焦りが禁物じゃからのう。
未婚のまま八十超えたワシが言えることでもないが。いや、恋愛とか経験が無いわけじゃないんじゃよ。こう見えても高校の時とか彼女おったしのう。何故か画面から出て来てはくれんかったが。
リアルな女性の知り合いも多かったんじゃよ。既婚者ばかりじゃったがな。そうじゃよ、町内会の料理教室とかじゃよ。
そんな事はどうでもええ。今はミランダさんじゃ。
「憧れる女性も多かろうに」
「そえなのだ。女性にはやたらモテるのに男性には縁がなくて……」
「それ、取り巻きの女性があんたの婚活の邪魔しとらんか?」
「は?」
「じゃからの、「お姉様にオトコは相応しくないわ!」とかの考えで邪魔されとらんか?」
それを聞くとミランダさんは両腕をついて肩を落とした。
「そんな、まさか……でも確かに男と話そうとするとさりげなく邪魔が入っていたような……」
「ま、まあ、今後はそこに気をつければええんじゃよ」
「ゲン殿! ほんとーにありがとうございます!」
ギュッと手を掴まれて……痛い痛い、なんという馬鹿力じゃ!
「それでは私は王子殿下の誕生式の準備がありますのでこれで!」
「あ、ワシが参加するという話は……」
「大丈夫です。任せてください! 手配しておきます!」
そのまま出て行ってしもうた。というか帰っても構わんのかのう?
扉も開いとる様じゃし普通に外に出るかの。ん? なんか騒がしいの?
「見つけたぞ、ジジイ!」
「あんたは……えーと、マンセーじゃったか?」
「マルセル・バーガンディーだ! 貴様のせいで全ておしまいだ。どうしてくれる!」
どうやら昨日の取り調べで色々処分されたらしい。まあ賄賂なんぞ貰っとったらそうなるわな。
「死ねえ、クソジジイ!」
思いっきり斬りかかってきたんで、バリアを張った。そうするとそのままカエルのように激突して潰れてしもうた。
「居たぞ!」
「いやいや、よく見ておいてくださらんと」
「申し訳ない。しかし、これはすごい防御魔法ですな」
「ほっほっほ。単なるバリアじゃよ。魔法も跳ね返せると言ったでしょう」
「なるほど……あの、少しお願いがあるのですが」
軍団長と名乗った方がワシに用だとおずおずと切り出した。
「なんですかな?」
「良ければその防御魔法を王子に使っていただけませんか?」
なんと! こんなところで王子と接点とは。いや、王子の人となりについてはエミリー嬢の為にも把握しておきたかったから渡りに船ではあるのう。
「ふむ、王子殿下のう? ワシは面識が無いが大丈夫なのかの?」
「それは……これからお会いして貰おうかと」
「まあワシには否やは無さそうじゃし、構わんよ」
「ありがたく。ではこちらへ」
そう言って案内されたのは騎士団詰所の外れにある庭園。ん? 王宮に行くのではなかったのか?
「遅いぞ、グシエル!」
「申し訳ありません、王子殿下」
庭園にぽつんと座っていたエミリー嬢と同い年ぐらいの男の子。それが王子の様じゃ。周りには五、六人の騎士がついておる。
「そやつは?」
「ゲン、と申す防御魔法が使える人材です」
「そうか……ぼくはこの国の王子でラフェルという。防御魔法が使えるのだったな」
「はい、左様で」
「ならパーティではよろしく頼む」
「良ければ詳しい話を聞かせていただきたいですものですが」
「それは……いや話そう。実はぼくは命を狙われているらしい。犯人は……義母上だ」
子どもの口から重いのが出てきたのう。これは詳しく聞かせてもらわんとなあ。王家の闇は深いのかもしれん。そしてこんなところにエミリー嬢が嫁ぐとなってもワシは禍根を取り除かんとオススメ出来んぞ。




