第二十七話:爺さんとミソスープ
なんでこうなったんや?
「まずは今回の件のおさらいだが……貴殿が店に押し込んで金を出せと暴れて魔法を用いて腕を切断した、とあるが」
なんとまあ充分過ぎるほどに余罪が増えたのう。
「それがそちらの言い分……いや、デーブル服飾店の言い分ですかの?」
「そういうことだ」
「ワシが抗弁したところで通るのですかな?」
「魔法で傷付ける気はなかった。弾みだった、というくらいならばな」
なんとまあこれはワシの言い分は通らんと思ってええじゃろう。随分とアコギな真似を。
「今なら罰金刑で許してやるぞ?」
小金をせびるのが目的なのか。まあ高位貴族が絡んでおらんとこんなものなのかもしれん。やれやれ。
「なあ、マルセルさんじゃったかのう」
「なんだ?」
「その証言の方が間違っとるとは思わんのか?」
「そなたの様な平民の証言が通るとでも?」
「ワシが魔法を使ったっちゅう事じゃったが、そんなにホイホイ魔法というのは使えるのかのう?」
「魔法に身分は関係ないからな」
むむう、貴族しか魔法が使えんとかならそこをつくこともできたかもしれんが……さっさと金を払っておさらばした方がええかのう。しかし、こんな取り調べでは王都の治安というのも問題じゃわい。
「いけません、今隊長が取り調べを……」
「ええい、なんで私でなくて貴隊の隊長が出張ってくるのだ! そもそも取り締まりは私の隊の担当であったはず!」
外が少々騒がしい様じゃが……
「失礼!」
「な、なんだ? 取り調べ中だぞ!?」
「なぜ私でなくあなたが取り調べているのか、納得出来る説明を聞かせてくださいませんかね、バーガンディー隊長?」
「……いや、これはだな、たまたま手が空いていたのでな……」
「そうでしたか。それはお手数お掛けしました。私も戻りましたのでどうぞ代わっていただけますか?」
「しかしだな……」
「そうですか。なら仕方ありません。軍団長閣下にご報告を……」
それが出た途端にオドオドと慌てよった。
「そ、それには及ばん。あとは任せたぞ!」
それだけ言うとマルセルは部屋を出ていってしもうた。そして改めて入ってきた御仁を見る。歳の頃は三十を過ぎたぐらいじゃろうか。金髪をポニーテールにして眼鏡をかけとる、なんというか「御局様」という感じの女性じゃ。
「先程は失礼しました。私が改めて取り調べますミランダ・ゲオルギオーネと申します」
「ゲオルギオーネ?」
「はい、あなたの事は姪から聞いております、ゲン様」
姪……メリッサ嬢か。姪という事はチャールズ殿の妹御かのう。
「さて、この度のデーブル服飾店の件、実は騎士団内に不正に献金を受け取っていたものがいるとの調べがつきまして。それでよろしければ先程の取り調べを証言していただけませんでしょうか?」
「ワシがか?」
「はい、左様でございます」
「しかし、フィリップ殿やエミリー嬢も心配しとるじゃろうしのう」
「そちらの方は私の方から言付けさせていただきます」
有無を言わさぬ迫力。こういうのを女傑と言うんじゃろうのう。
「もし、引き受けていただけるなら王子殿下の誕生式に潜り込ませて差し上げますよ?」
硬軟織り交ぜるタイプじゃったか。確かにエミリー嬢の晴れ姿は見たいのう。
「というか証言せねばワシ自身が危なかろうて」
「頭のいい人は好きですよ」
こうしてなし崩し的に証言をすることになった訳じゃ。それから軍団長とかいう偉そうな人が来てワシに魔法の実演を、と言われたので、バリアを出したんじゃが……若い騎士団のメンバーがつっかかってきおってそのまま弾き飛ばされおったからなあ。
「いやあ、あなたのバリアとやらはすごいなあ!」
なんでワシ、この女傑と酒飲んどるんじゃろうか?
「あなたのような方が居てくれたら私の隊ももっと活躍できただろうに」
「いやいや、隊長さんがしっかりしとるから大丈夫じゃろ」
「わかるか!? わかってくれるか? これでも私は花も恥じらう乙女でな。むさ臭い男どもの巣窟に入れられてうんざりしておるのだ」
「そうですかそうですか」
「酒持ってこーい!」
「お、落ち着きなされ……」
そのまま朝までコースじゃよ。仕方ないから朝メシくらいは作ってやるかの。この部屋というか騎士団の詰所じゃが湯ぐらいはわかせるからのう。
ワシは異次元収納から味噌を取り出した。ぬか漬けもあるが好みがわかれるからのう。メシを炊くのは少々面倒じゃが味噌汁くらいならのう。具は無いんじゃが。
「ううっ、頭が痛い……」
「ミランダ殿大丈夫かの?」
「こ、ここは?」
「騎士団の詰所じゃよ。ほれ、これでも飲みなされ」
「すまない。少々はしゃぎすぎた様で……なんだこれは!?」
お気に召さなかったんじゃろうか? まあ具もないしのう。
「なんという優しい味……頭の痛みが消えていくようだ」
「具はなかったんじゃがまあ効いたようじゃな」
「こ、これはなんというスープなのですか!?」
「味噌汁というのじゃよ。もっともワシしか作れんじゃろうが」
そうするとミランダさんはワシの両手を握っていった。
「結婚してください!」
いや、早まりすぎじゃろ。ワシ、八十じゃぞ?




