第二十五話:爺さんと真珠の首飾り
私の着物知識なんて無いに等しいんですよ(笑)
そういえばワシの家にも母親が着けとった装飾品があったのう。えーと、これじゃな。
「なんならこの首飾りを着けるかの」
「こっ、これは!?」
ワシが取りだしたのは真珠の首飾りじゃ。確かパチモンの真珠使っとるとかでやたら安かったのう。
「こんな……真珠が……なんで……」
「そんなに珍しいもんかの?」
「あ、当たり前じゃないですか! この大きさの真珠なんて殆どお目にかかれないのに、こんなに粒が揃って……綺麗に首飾りに……」
「いやあ、言い難いんじゃがそれは真珠の様で真珠でない偽物でな」
「偽物!? こんな精巧な偽物なら本物よりも価値がありますよ!」
なんかクラリッサさんと服飾店の店主のジーナさんが交互にものすごい勢いで迫ってきた。そ、そんなに大したものなのかの?
「恐らく……これを着けていけばパーティの主役になるでしょう。いえ、下手をすると国王陛下だけでなく皇后陛下や姫殿下たちの目に止まるかもしれません」
「き、危険なものなのかの?」
「間違いなく話題をかっ攫うでしょうね。出処まで探られます」
な、なんか話が大事になってきおったわい。ワシはエミリー嬢に良かれと思ったんじゃがのう。
「これを着けるとなれば生半可なドレスでは負けてしまいます。素晴らしいものにしてみせます!」
ジーナのやる気に火がついた。これは放っておいても良さそうじゃわい。
「おじーちゃん、このくびかざり、わたしにくれるの?」
「おお、そうじゃよ。それはエミリーちゃんのものじゃよ。そうじゃな、ちょっとサイズが大きいかの?」
このネックレスは体型変化が激しかった母が調整出来る方がと買い求めたもので、アジャスターがついておる。これをこうして……むっ、老眼まで直っとるのう。すっかり健康体の様じゃわい。
「これでええじゃろ」
「わーい、ありがとう、おじーちゃん!」
喜んで飛びついてきおった。全く子どもは無邪気じゃのう。
「あの、ゲン様? あの首飾りはまだおありでございますか?」
「なんじゃ、クラリッサさん。そんな猫なで声を出して」
「いえ、その、おありでしたら奥様にもいただけないものかと……誠に厚かましいお願いではあるのですが」
奥様、と言うとエミリー嬢の母親かのう? ここはエミリー嬢に聞いてみるかの。
「なあ、エミリーちゃんや。この首飾りお母さんと一緒ならどう思うかね?」
それを聞くとエミリー嬢の顔にぱあっと花が咲いた様な笑顔が生まれた。
「え? おかあさまとおそろい!? うれしい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねとる。心がぴょんぴょんするというのはこういうことを言うのかもしれん。
「クラリッサさんや。お屋敷に戻ったらフィリップ殿に渡してもらうように言付けておくでな」
「ありがとうございます。奥様もお喜びになると思います」
クラリッサさんがまた深々と頭を下げた。なるほど。忠臣なんじゃなあ。
「あのう、私にも何かこのドレスが映えるような装飾品がありませんかね? このままだと負けてしまいそうで……」
ジーナさんが半泣きになりながら聞いてきた。いやまあシルクのドレスで十分とは思うんじゃが……なんかあったかのう?
「それならこの真珠の首飾りをバラしてじゃな……」
「それをバラすなんてとんでもない! それなら私にください!」
いやまあ、やる分には構わんが……ドレスの装飾が欲しかったんじゃなかったんか? そういえば母親が使っとった着物一式があったのう。あれの小物とかでええんじゃなかろうか。
「えーと、ちょっと待っとれ。よいしょ」
「え? 何これ、ドレス?」
「これはの、着物という晴れ着じゃよ。これにはいい布が使われとるでそれを切ってじゃな」
「こ、こ、こんな見たこともない服を切るなんて勿体ない! というかこれ、作りたい……」
あー、まあ、サイズが母親のものじゃからエミリー嬢には着せられんしのう。クラリッサさんなら大丈夫そうじゃが。
「そうじゃな、クラリッサさん、着てみんか?」
「わ、私ですか?」
「何となく構造から着方は分かります。私が着せますので是非!」
ジーナさんもやる気の様じゃ。
「さあ、こちらへ」
「え? え? ちょっと!?」
あれよあれよとクラリッサさんが奥に押し込められた。……エミリー嬢のドレスを注文に来たはずなんじゃがなんだか脱線してしもうとるのう。これ、間に合うんじゃろうか?
「着せました!」
「え、あの、その……」
とててて、と出てきたクラリッサさん。思った通り着物がよく似合っとる。この着物は赤が基調の揚羽蝶紋の留袖。まあ既婚者の着物じゃがクラリッサさんには似合うとる。
「すごーい、ナニー、きれーい」
エミリー嬢の素直な褒め言葉に顔を赤くしとる。なるほど、これは眼福じゃわい。




