第二十四話:爺さんと二つの服飾店
あれ? 思ったより進まなかったわ。
市場に向かおうとすると「そっちじゃありませんよ」とクラリッサさんに言われてしもうた。買い物じゃと言うからそっちかと思ったわい。
「服飾店などは貴族街の外れに纏まっているのですよ。貴族が注文をするのにいちいち下町まで下りたりはしないんです」
「なるほど。高級品店は別の所にあるということじゃな」
とまあこんな感じで服飾店へ。店構えも立派なんじゃなあ。
「いらっしゃいませ。これはこれはルドミラール子爵の。こんな所に顔を出しても大丈夫なんですかね?」
「どういう意味でしょうか?」
「いえ、うちの仕立て代がきちんとお支払いして頂けるかが心配でして」
なんという嫌な店じゃ。こんなところで服を作らせたくはないのう。
「クラリッサさん、エミリーちゃん、出るぞい。こんな店では買い物をするもんじゃないわい」
「田舎ジジイが俺の店にケチをつけるつもりか?」
「田舎ジジイでも物の善し悪しは分かっとるつもりじゃよ。お主は最悪じゃな」
「へっ、言ってろ! うちはこの貴族街で一番の仕立て屋なんだぞ!」
こんなのが一番とはのう。人格と技術は別物なのかもしれんが。さすがにこれは無いわい。
「邪魔したのう」
ワシは二人を連れて店を出てしもうた。
「クラリッサさん、勝手な真似をしてすまなんだ」
「いえ、あれ以上、あんな場所にお嬢様を置いておく訳にはいきませんもの」
「そうさのう……おっ、もう一軒店があるぞ?」
「見るからにみすぼらしいですが大丈夫でしょうか?」
「なあに、心配は要らんじゃろう。スマンがやっとるかね?」
中から小柄な女性が現れた。
「い、いらっしゃいませ。お客様ですか?」
「そうじゃが……なんでそんなに怯えとるのかの?」
「すいません、また店を荒らしに来たのかと思いまして」
「そういうのが来るのか?」
「はい……何故私の店なのか分からないんですけど……」
これは……あれじゃの。どっかのやつが嫌がらせでやっとるの。
「お主に頼みがあるんじゃが。乱暴者たちの件はワシが何とかしてみるから、この子のドレスを作ってくれんかのう? 明日までに」
「あ、はい、半日ありましたら大丈夫と思います。こう見えて仕事は早いんです。仕事回して貰えてないんですけど」
「そうか。なら生地はこれで頼めるかの?」
ワシは家に飾っとったシルクのカーテンの換えの奴を渡した。これならまあ悪くないものができるのではないかな?
「ひっ、なんですか、この滑らかな布! つつつ使っちゃって良いんですか?」
「構わんよ。それで乱暴者はどこから?」
「俺たちを呼んだかい?」
入口のドアが開いてコワモテの男たちが入ってきた。なるほど。こやつらか。
「デーブルさんにここの店に客が入ったから邪魔して来いと言われたが、ガキと女とジジイじゃねえか」
「え!? デーブルさんが!?」
「誰なんじゃ?」
「先程の店の店主かと。デーブル服飾店でしたので」
なるほど。商売敵になりそうな奴を潰しておこうとしたんじゃろう。
「構わねえ。このままぶっころしちまえ! そこの貴族っぽい嬢ちゃんとメイドの女はさらって売り飛ばすぞ!」
「やれやれ乱暴な事じゃ。ほれ」
バリアを展開してやると見事に激突して崩れ落ちた。その中のリーダー格らしき男がこっちを睨みつける。
「てめぇ、何をしやがった!?」
「お主らのような乱暴者を咎めただけじゃよ。ほれ、こういう事も出来るぞい」
ワシはそやつらの四方八方を囲んでやった。声ぐらいは届くようにしてやろうかの。
「おい、出せ、ここから出せ!」
「反省しとるなら出してやるぞ」
「誰が……お、おい、なんか息苦しくないか?」
「そりゃあまあ空気ごと閉じ込めとるからのう。そのうち息が出来なくなってオシマイじゃ」
「そ、そんな!? す、すいませんでした! もう逆らいません!」
あんまり懇願されたからボス格の一人だけ出してやった。
「大人しく帰る気になったかの?」
「誰がてめぇなんかに従う……うっ」
今度は皆まで言わせず顔の周りだけ空気を遮断してやったわ。ワシも大分能力が慣れてきたのう。おっ、気絶したのう。じゃあ残りのヤツらを出してやるか。
「どうするね? この後くたばるまで続けても構わんぞ」
「じょ、冗談じゃねえ! 端金で命まで賭けられるかってーの」
そう言うと奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ふう、やれやれじゃのう」
「おじーちゃんすごい、かっくいい!」
「ええ、とてもお強いのですね。びっくりしました」
「おじーちゃんのおよめさんになってあげる!」
「ほっほっほ。あと七十年若かったら考えたのう。ほれ、採寸して貰いなさい」
「はぁい」
そうしてエミリーちゃんの衣装の採寸を終えて、後はどこかにアクセサリーを買いに行くんじゃが……あ奴らがまた来ても困るからしばらくは居らんとなあ。さて、どうしたものか。




