第二話:爺さん、終わりなき進撃
ちょっと地の文多めかな?
しばらく歩くと街道に出た。どれだけ歩いたかは分からんが二泊ほどしたので大分歩いたんじゃろう。しかし、全く疲れんのは幸いしたわい。無限の体力でも頼んだのかのう? 極鋼聖拳百二十段とかになっとらんかの? とあー、ちょえい! ふむ、相手が居らなんで分からんのう。
さて、街道に出たからにはどっちに行けば良いやら……おおっ、向こうからなにか来るのう? あれは……馬車か! なんとまあ珍しいもんを。いや、こちらの世界では馬車が一般的な移動手段なのじゃろうて。
「おおい、そこの馬車、止まってくれんかの?」
馬車はものすごい速度でワシを通り過ぎるとそのまま去ってしもうた。ううむ、これは気づかれんかったんじゃろうか。
おおっ、またなんか来よるな。あっちは……馬じゃな。さすがに馬には乗れんのう。牛なら幼少のみぎりに乗ったことはあるんじゃが。お前は単なるジジイだろうって? いやいや実はの……
「おい、そこのジジイ、何してやがる!」
馬に乗った奴らは数人で馬に乗ったままワシに刃を向けてきた。良かったわい、話は通じるようじゃな。いや、理解が出来るかもしれん。
「実は道に迷いましての。街まで戻ろうと思っとってやっと街道にたどり着いたところですじゃ。ところで街はどっちですかの?」
「街道なんだからどっちに行っても街はあるに決まってるだろうがよ。向こうに行った方が大きい街があるがな」
おや、この方々は親切なのかもしれん。街のことを教えていただけるとは。いや、この状況は呑気な事を言っている場合でもないんじゃがな。
「ジジイに残念なお知らせだ。せっかく街道にたどり着いても街までたどり着けねえんだよ」
「ほほう?」
この後に続く展開なんてありふれている。つまり、こいつらは……
「今ここで有り金全部失って死んじまうんだからなあ!」
盗賊じゃな。言うが早いか、頭目と思しき奴の剣が振り下ろされた。しかしそれはワシが張ったバリアに阻まれる。ガキンと音がして剣が弾き返されて、頭目は馬から転げ落ちた。ふむ、馬には慣れておらぬのかもしれんな。
「なんだ、こいつ、変な魔法使うんじゃねえ!」
盗賊たちは馬から降りてワシを囲んで寄って集って殴ってくる。しかし、刃は薄皮一枚すら斬ることは出来ない。え? この手の剣はどっちかと言うと打撃武器? まあそうかもしれんが。
さて、ならちょうどええ。こやつらで一つ試してみるか。ちょりゃあ!
ポコンという音がしたものの、盗賊たちにダメージが行った様子は無い。ふむ、間違いなく八十代の筋力じゃのう。健康になっとっても筋肉までは保証されとらんか。
「そんな攻撃が俺らに通用するとでも思ったのか?」
バカにされたと思ったのか攻撃は激しさを増していく。だがバリアが割れることはない。
「なんだコイツ……どれだけ魔力使ってんだよ」
言っておくがワシは多分魔力を使っとらん。いや、厳密に言えば体内の魔力を使っとらんのだ。恐らくは周りにある大気中の魔力を使っとるのじゃろう。なのでまあ魔力切れまで待つ策は使えないのじゃ。
「ビクともしねえ。だが目撃者だからな。殺しちまわねえと」
「オレに任せろ」
「センセイ!」
後ろの方から声がしてローブを纏った男が進み出た。格好、暑苦しくはないんかのう? かなりあったかい気候だから見とるだけでも汗が出そうだわい。
「深淵なる業火よ、我が呼び声に応えてその身を焼き尽くせ! 火炎球」
ローブ男の頭上に火の玉が浮かんだ。何も無いところから出てきたのは分かるけど、もうちょい大きくならんかったんかのう?
「はあ!」
掛け声と共に火球がワシに迫ってくる。ふむ、このバリアは物理的なものは防げたが魔法的なものは分からんのう。万が一防げんかったらワシ死ぬのかのう? 別にあの日に臨終を迎えかけた身だから悔いなんてものはないがな。
火球は見えない壁に当たって弾き返された。そう、びよーんとなって跳ね返ったのだ。
「なっ!?」
火球はローブを纏った男と盗賊の頭目を巻き込んで派手に炎上したのじゃった。盗賊たちはそのまま散り散りに逃げてしもうた。忙しないのう。盗賊の置いていった装備は異空間収納に閉まっておくかの。馬は……とりあえず一頭は引いていくが他のは……食ってもええんじゃがさすがにしのびないのう。生前は色々お世話にもなったしの。単勝二十倍、ご馳走様じゃったわい。
試しに乗ってみようとしたが上まで届かんかった。身体は健康でも身体能力がそこまで上昇はしてないのかもしれん。やれやれ……などと思いながら盗賊が去っていったのとは反対方向、栄えておる街がある方に向かう。そう言えば馬車もこっちに来たのうと思っておったら馬車が立ち往生しておった。何があったんじゃろうか。さっきは恐らく盗賊から逃げておったんじゃろう。今度は話も通じるやもしれん。