第一話:爺さん、異世界に立つ
新しく始まりました新連載です。良かったら読んでください。
ワシは山本厳太郎左衛門。年齢は八十を少し過ぎたくらいじゃ。一応戦争は体験したが、物心もついてない頃じゃったからなあ。母が一生懸命ワシを育ててくれようとしたのも覚えとらん。戦争が終わった後に母から聞かされてなんというか孝行せねばならんと頑張ったものじゃ。
お陰様で母の世話で青春時代を費やし、母が亡くなる五十過ぎまで恋愛沙汰とは殆ど縁がなかった。つまり、未婚の独居老人まっしぐらという訳じゃ。だがのう、それでも良かった。恋愛何ぞなくても世の中にはたくさんの楽しい事が溢れておって、様々な趣味を経験した。例え身寄りが無くて病院で最期を迎える事になった今でも自分の生き方に後悔はしとらん。
だけどのお、なんでわしはこんな野原の真ん中で寝転がっとるんじゃろうか? 腰が痛くないから長い時間寝転がっとった訳では無さそうなんじゃが。
よっこいせ、と掛け声を掛けて起き上がる。はて、見た事のない景色じゃな。生えとる草もあまり見覚えのない……ヒポクラ草? なんじゃこれは? 見たものの情報が流れてきておる。薬草として使える草。作り方も頭に流れておるな。
と、ちょっと待てよ? ヒポクラ草なんという植物は知らんぞ? いや、ワシとて全ての植物を知っとる訳では無いが、それでも日本の植物にはなかったはず。と、するとここは日本ではないのか?
困惑したがここに留まっておっても仕方ない。どちらかに行かねばならんが、どっちに行くべきか.......考えても仕方がないの。適当に歩けばその内どこかに着くじゃろう。
そうしてワシはトコトコと歩き出した。体力には若干自信がなかった、というか病床に居たはずのワシじゃが普通に歩いておる。ふむ、なんだかネトゲをしとる時みたいじゃな。病気になって病院で寝たきりになった時に退屈で始めようとしたが、文字が小さいのが読みにくくて辞めてしもうたからのう。
そう言えば確かインベントリとかアイテムボックスとか国民的アニメの〇次元ポケットみたいなそういうのが.......むっ? 異空間収納? 中になにか入って.......手紙? 読みづらいの.......むっ、老眼鏡もあるのか。
【ゲンさんへ
異世界の様子は如何ですか? あなたの御要望通り、八十歳の身体で転生させました。年齢はご希望通り固定です。また、ご希望通りの能力も付与してますので活用してください。その世界が貴方の安息の地である事を心より願っております。
転生担当女神より】
異世界転生.......ふむ、そういう話は古来より幾つもあるからなあ。つまりは神隠しとかそういうので異世界へと送られたという訳か。しかしまあワシはなんで八十の身体を希望したんじゃろうか.......記憶を辿って
思い出したわい! ワシ、「十八歳で」って言ったつもりじゃったんじゃがなんで八十になっとんじゃ! 青春時代をやり直したいと思っとんたんに。今更クーリングオフとかは出来んじゃろうなあ。
仕方ない。これはこれで歩くか。嘆いとっても仕方ないしの。幸いにも身体能力はそこまで悪くなさそうじゃし、健康体でもあるみたいじゃしな。しかし、このまま夜になったらどうするかのう。まあええ、その時はその時じゃわい。
しばらく進んで行くと、目の前に角を着けたウサギが居る。三羽じゃな。この世界でもウサギを一羽二羽と数えるかは分からんが。
のんびりか前とったらウサギがワシを襲ってきた。なんじゃ!? この世界のウサギは獰猛なのか? 三羽がそれぞれ別の角度から襲って来よる。集団戦術に長けたウサギじゃのう。もしかしてワシ、ここで死ぬんかの? いや、死ぬのは構わんのじゃが痛いのは嫌じゃのう。なんかこう、バリアとか言ったら防げたりは.......したのう。なんか透明な壁みたいなものにぶつかって三羽とも首の骨が折れておる。まあ角を硬いものに突き立てようとすれば刺さらんかった時に集中する力が首に掛かったんじゃろう。
そう言えば腹も減ってきたの。こいつら食えるんじゃろうか? とりあえず血抜きせんとな。刃物は無いからこいつらの角を使うか。火を織こせればええんじゃが木の枝でも擦り合わせるかのう? いや、ここは炎を呼び出すとか。ファイアとか言えば.......出たのう。こうしちゃおれん、木の枝でも集めるかの。
草原で焚き火をするのはあまり宜しくないが背に腹はかえられん。塩とか胡椒とかあればええんじゃがさすがにそれは望めんよな。ソルト! やはり出んか。せめて水は欲しいところじゃな。ウォーター! おお、出るの。最悪の事態は免れそうじゃ。
血抜きも終わったし、焼いて食べるかの。ふむ、こやつはホーンラビットというのか。なんと! この肉ほんのり塩味がしておるわい。岩塩でも舐めたのかもしれんな。
さて、とりあえず腹もくちくなったし今日は寝るかの。野原で寝るのは身体が痛くなりそうじゃから早う街にでも着きたいのう。一応毛皮と角と残りの肉は異空間収納に入れておくかの。