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忘れられない失恋 そして 私の決断 ~復讐~

作者: AGEHA

私は ごく普通の主婦 長谷川渚はせがわなぎさと言います。

実は 数年前にある決断をして

人生初の『浮気』 それも 『不倫』 をしました。




私が38歳の時でした。

小学生時代からの親友 新井千夏あらいちなつから 中学の同窓会の知らせが来ました。


『中学のなんて 何年振り?   22・3年振りだよ!  どうする?  行く?』


私達は相談し合って 行くことにしました。


22・3年振りというのも 私達の学年は あまり仲が良くなかった学年だったからで

あの頃仲が良かった 3年4組のクラスの子達は よくクラス会をしていると 聞いたことがありました。

ちなみに私のクラスは 男女間の仲は悪く この22・3年間 一度もクラス会などは開催されませんでした。

私が思うには 多分それが正解で、4組の子達が 仲良過ぎてるんじゃないかと思います。





私の親友千夏は 昔からモテる子で、今でも内緒の恋をして 人生を楽しんでいるようで、

彼女の話を聞いていて モテた事の無い私は ただただ感心するばかりでしたが 時々羨ましく思う時もありました。


(いいなぁ千夏 私も中学1年の秋 あんな振られ方してなかったら もっと沢山恋愛できたかも・・・   あんな振られ方してなかったら 千夏のように恋愛を楽しめたかも・・・)


と 未だに残る失恋の傷を恨んでいました。



同窓会当日まで私達は あの頃の事を振り返って 懐かしい話で盛り上がっていました。

ある日千夏が


『ねえ うちらのクラスの男子 誰が来るかな!?』


と言いました。  その言葉に反応した私の脳裏には 未だに残る失恋の傷の相手の顔が浮かんで

胸がギュッとなるのを感じていました。


正直 会いたくない相手だけど 今どんな感じの大人になっているのか 見てみたいと思っている自分もいて 凄く複雑でした。


『ん~ そうだなぁ  小林君は来そうじゃない!? クラス委員長だったし! それより先生達も来るのかな?  私 先生に会いたいなぁ』


『渚 担任の佐藤の事 嫌ってたよね? なのに会いたいの?』


『嫌ってたのは2年の時までで 3年になった頃 いい先生なんだって分かってから 好きだったよ』


『あっ! そうだったね!  そうだ思い出した!  そういえば佐藤って よく渚 渚って言ってたよね! だから私思った事あったんだよね 佐藤って 渚の事 密かに好きなんじゃないかって!』


『やめてよ! そんな事あるわけないじゃん! 佐藤先生は部活の顧問でもあったし 私も一応 クラスの副委員長だったからだと思うよ』


『そうかな・・・  同窓会に来たら 聞いてみよう!』


『聞かなくていいって!』


『はいはい って ねえ 渚 憲治来るかな?』


千夏が言う憲治というのは 中学生の3年間 千夏と付き合ってた元カレのことで 別々の高校になってから上手くいかなくなって 別れてしまったんです。


『大島君? どうだろう  来て欲しいの? 会いたいの?』


『まあね あの頃 本気で好きだった相手だからね 会いたいよ』


『そっか 来るといいね』


と 色んな意味で ワクワクして盛り上がっていました。





【 同窓会当日 】




駅前のあるホテルの宴会場


受付に3人 懐かしい顔が並んで座っていました。

元3年1組の子達です。

それを見て 今日の企画をしたのは 元3年1組の子達だと分かりました。




『久しぶり~ 元気だった? 変わってないね~』


そんな言葉が あちこちから聞こえてきて あの頃 ギクシャクしていたのが噓のように みんな懐かしさに沸いていました。



席は決まってなく 好きな席にどうぞって事だったので 私と千夏は まだ誰も席についていないテーブルに座りました。

開始時間が来て 元1組の 多分クラス委員長だった子 森君が司会を始めました。



『皆さんこんばんは 今日はお忙しい中 麻羽あそば中学校第38期卒業生の同窓会にお越しいただき ありがとうございます。   まだ数名 仕事の関係で来ていない人もいますが、始めたいと思います。  堅苦しい挨拶はなしで 皆さん グラスを持ち 起立願います   いいですか?  では  久しぶりの再会に   乾杯!』


『カンパーイ!!』


皆がグラスを当て合う音が響き その後 拍手の音に変わって 賑やかに会食が始まりました。


食事はバイキング形式で 千夏と私は 大きなお皿に何種類もの料理を乗せ 席に戻りました。

2人でもう一度乾杯をして 食事を始め 30分程経った頃だったか 司会の森君が


『みなさーん 只今 川元隆二かわもとりゅうじ君が到着しましたー』


と言いました。

私は思わず


『えっ!』


と声が出ました。


川元隆二君 まさにこの人が 私の失恋の傷の相手なんです。

会場入りした時 見当たらなかったので 欠席なのだと思い ほっ としたのと 少し残念に思う気持ちとあったのですが 遅れてくるメンバーの一人だとは考えもしなかったです。


隆二君は森君の隣で 皆の注目を浴びてる事に 少し恥ずかしがりながら頭をかいて


『ごめんごめん遅れて』


と言うと 隆二君と仲がよかった友達がいるテーブル席に着きました。


仕事帰りに来たらしく 着ている服は どこかの工場でしょうか 上下ベージュ色の作業服でした。

中学時代は 野球部ということもあって坊主でしたが 今は 襟足を少し刈り上げて 社会人らしいショートヘアになっていました。

でも、雰囲気や歩き方 照れた時の口元は昔と変わってませんでした。

私は少し キュンとしました。


隆二君が席に着いた時 千夏がこそっと


『来たね! 髪伸びただけで 変わってないね』


と言ってきました。

私はコクりと頷きました。


隆二君が加わった途端 そこのテーブルが賑やかになりました。

昔からそうだったけど 隆二君の回りには いつも沢山の人が集まって 賑やかで その中には女子生徒もいて あの中に加わりたいな・・ と恨めしく思っていた事を思い出しながら 隆二君達の席を見ていると 隆二君が急に振り向いて 私と目が合いました。

私は思わず さっと顔を横に向け 気まずい感じを振り払うように席を立ち ドリンクバーに向かいました。


(びっくりしたー 何で急に振り向くのよ!)

そう思いながらも ドキドキが止まらず 飲むはずじゃなかったのですが 素面でいれそうもなく ワインを取り 席に戻りました。

すると 千夏が席に座ってなくて どこに行ったのか見渡すと 入口付近で 千夏の中学時代の元カレ 大島君と話しているのを見付けました。


(大島君来たんだ! 千夏楽しそう いいなぁ)


と 千夏の姿を見て思っていると


『久しぶりだな 渚』


と言いながら 千夏が座っていた席に隆二君が座ってきました。

私はびっくりしながら 隣に座った隆二君に


『おっ お久しぶり 隆二君』


と答えると 隆二君があの頃と変わらない笑顔で私を見てきました。


『渚 全然変わってないな 会場入ってきて直ぐに分かったよ』


と 心を揺さぶられるような言葉を放ち話し始めました。


あの頃の懐かしい話や その後の話や 最近 2度目の離婚をしたという話。

だけども 全く辛くは無いと 離婚する1年前から お互い冷めていたと話してくれました。


この話を聞いた時私は 少しも可哀想だとか思いませんでした。

むしろ (相変わらず 身勝手でわがままだから そうなっちゃったんだろな)

と思っていました。

すると 隆二君がいたテーブルの方から


『隆二 いい加減戻って来い』


と声がして 隆二君は元いた席に戻っていきました。

しばらくして千夏も戻り


『隆二君と 何話してたのよ』


とニマニマしながら聞いてきました。

私は包み隠さず話、その時の自分の感情も話しました。


『うん まぁ私もそう思うわ』


と千夏が言って 2人で笑っていると 司会の森君が


『え~皆さん 宴もたけなわでは御座いますが そろそろ中締めとさせて頂きます。 また 二次会にカラオケを予定しています 行ける方は 駅裏のカラオケBOXにお集まりください。 では、とりあえず一本締めで締めたいと思います。 では皆さん ご起立願います  それでは 今日の再会と 今後の皆さんの活躍 健康 その他もろもろを祈りまして  よーっ!』


【 パーン 】


『ありがとうございましたー 皆さん 気を付けてお帰りくださーい』


開始から2時間半 ちょっと複雑な思いの同窓会が終わりました。


私と千夏は話し合って とりあえず二次会にも参加することにし 駅裏のカラオケBOXに行きました。

二次会に参加した人数が意外に多く 二部屋に分かれることになり 私と千夏は 大島君と隆二君がいる部屋に入りました。

千夏は大島君の隣に座り 

(ひょっとして どうかしようとしてる?)

と思わせる行動をしていました。

そして  二次会もおひらきになり みんなカラオケBOXを出て 次 どうする? と話している時 千夏が私の耳元で


『ごめん渚 一緒に帰れなくなった 憲治と消えるわ ほんとごめん』


と言って 皆に気付かれなうように 大島君とどこかに行ってしまい 私は 千夏がいないなら帰ろうと思い 皆の輪から そろりと離れると 誰かに手首を掴まれました。


『まさか! 帰るつもり? 駄目駄目 次行くぞ!』


と言って 私の顔を覗き込んできたのは 隆二君でした。

そして 掴んでいた手を放し 今度は手を繋ぎ歩き出しました。


手を引かれながら私は あの頃は 手も繋いだことなかったのに・・・ と昔の事を思い出していました。





私と隆二君は 付き合ってはいなかった? のですが 不思議な関係でした。


入学式の時 隣のクラスの列に並ぶ隆二君に 私が一目惚れをしました。

その事を千夏に話すと 告白しろと言われたのですが 私は奥手なので 面と向かって告白など出来る訳もなく なかなか勇気が出ませんでした。

もうすぐ夏休み 

(夏休みに入ってしまったら 隆二君を見れる機会が減ってしまう) 

そう思った途端 寂しく思えてきて どうしようもなくなって・・

だから 私は勇気を出して 夏休み前に


【好きです 付き合って下さい】


と手紙を書いて 下駄箱に入れました。

(誰にも見られず こっそりと下駄箱に手紙を入れなくてはいけない)

そう思うと 凄く緊張して ドキドキして 震えるくらい怖かった事を覚えています。


下駄箱に手紙を入れてから数日後でした 休み時間に教室の後ろの方で 千夏と隆二君の事を話していると 


『渚 隣のクラスの男子が呼んでるよ』


とクラスの子に言われて 直ぐに隆二君だと分かりました。

千夏もそう思ったらしく 私の肩をガシッと掴み


『行っといで』


と言って 私を教室の入口の方に向かせ 掴んでいた肩を軽く押し出しました。


私は少し振り向き 千夏の顔を見て 軽く頷き 隆二君の所に向かいました。

廊下に出ると隆二君が 右手だけズボンのポケットに手を入れ 廊下の柱に背中を預けて立っていました。

私が近付くと 柱から背中を放し すっと立ち


『お前が長谷川渚?』


そう言って私の顔をまじまじと見てきました。


そうなんです 私は隆二君を知っています 一目惚れしてから 隆二君を知るために色んな情報を集めたり 気付かれないように観察してきました。 でも隆二君は 私の事など知りません  小学校も違うし クラスも違うし 私自身も 目立つ人物ではないから 知らなくて当然です。


私は まじまじと見てくる 隆二君の視線にドキドキしながら 少し俯き


『うん』


と答えると ポケットから手を出し 私に水色の封筒を渡してくれました。

そして


『手紙ありがとう でもごめん 俺実は 彼女いるんだ それに お前の事 よく知らないし でも とりあえずそれ読んでよ じゃ』


そう言って隆二君は 自分の教室に帰っていきました。


私は 渡された手紙をスカートのポケットにしまい 教室に戻りました。

そして 待っていた千夏に報告すると 


『そっか 彼女いたのか・・ のに 何で手紙? 何書いてあるんだろうね 授業サボって読む? 付き合うよ!?』


そう言ったのですが


『手紙は家に帰ってから読むよ 心の準備が必要だから』


と答えると


『わかった じゃあ 気持ちをコントロールできないような事になったら 直ぐ電話してね』


そう言って 私の肩をポンと叩いて自分の席に着きました。


隆二君に手紙を貰ってからの授業は スカートのポケットに入っている手紙に神経が集中していて 全く頭に入らず 早く帰って手紙を読みたい気持ちと 手紙を読むのが怖い気持ちで 平常心でいれなかったのを覚えています。


家に帰った私は 直ぐに自分の部屋に閉じ籠り 制服のスカートから手紙を出し 机の上に置きました。


隆二君からの手紙を机の上に置いてからどれだけ時間が経ったか覚えてないのですが 部屋をノックする音と 母の


『渚 ご飯食べないの? 何回呼んでも降りてこないし 体調でも悪いの?』


と言う声で 自分の思考が止まっていた事に気付きました。

そしてこの日は結局 手紙を読む勇気が出ず その後手紙に触れることもなく 色んな感情 味わったことのない緊張 不思議な感覚等で 疲れていたのか ベッドに入って直ぐ 眠りに落ちました。


小心者で臆病な私が 隆二君からの手紙を読んだのは 隆二君から手紙を貰った 5日後でした。




【手紙ありがとう 気持ちは凄く嬉しいです。  でも ごめんなさい 僕には今 付き合ってる人がいます  だけど 長谷川さんの事も知りたいし 良ければ 手紙交換しませんか?  返事 待ってます。  川元隆二 】



これが 隆二君からの手紙の内容でした。



手紙を読み終わった私は


(えっ? 手紙交換? しませんか? えっ?  何?  私 振られたけど えっ? 振られてるよね!? 振られてるけど・・・  長谷川さんの事も?  も?  知りたい!  色んな意味に取れるけど  これって 喜んでいいのかな  喜んでいいよね!  手紙交換 していいよね!)


と 冷静に考えれば 友達としてだという事くらい分かるのに  この時の私の頭には 振られた事など 1ミリも残ってなく 自分に都合のいいように 隆二君の第二の恋人 と受け止めました。



私達は 数日に1回のペースで手紙の交換をしました。

最初のうちは お互いが質問をし それに答える そんな内容でした。

そのうち お互いを励ましたり 応援したりといった内容に変わり 私は 本当の恋人ではないのだから 欲を出してはいけないと 自分に言い聞かせながら 手紙交換を続けていました。

なのに 9月になって直ぐ 隆二君からの内容が変わりました。

長谷川さん から 渚 になり  恋人同士的な言葉を書いてくるようになったんです。

そのせいか 私も又 都合のいいように受け取り 恋人気分になっていました。


10月 衣替えになった時の 隆二君からの手紙でした。


【渚 今 学校で流行ってる 夏用の名札交換しよう  いいなら名札を一緒に入れて】


と書かれていました。


私達の学校には 夏用と冬用の名札があり 夏用は取り外しができるようになっていたため 恋人同士がお互いの名札を交換して付ける という事が流行っていました。


そうしたいと思ってはいましたが まさか隆二君から言われるとは思ってもいなかった私は 本当に嬉しくて 隆二君からの手紙を抱きしめながら 泣きました。

そして この日の手紙で 私は隆二君の恋人になったんだと思い込みました。


恋人だと思い込んでからの私は 今まで 顔も名前も知らない隆二君の元カノに遠慮して書かずにきた 言いたい言葉や やりたい事をいっぱい書くようになりました。

そして クリスマスまで1ヶ月ちょっととなった時 私は隆二君に クリスマス一緒に過ごしたいと書きました。

勿論 いいよ という返事がくると思っていました。

ですが 何日たっても返事は来ず 廊下ですれ違ったりした時 誰にも気付かれない様に お互い目だけで見合い 誰にも気付かれない様に うっすらと微笑み合っていたのに 隆二君は私を見なくなりました。

私は 隆二君の突然の冷たい態度に 凄く不安になりました。  それと同時に 嫌な予感もよぎっていました。

それでも 何が原因で急に冷たくなったのか 理由を聞くため手紙を書きました。


手紙を書いた次の日の事でした。


昼休み時間 千夏と話していると 教室の入口に 4・5人の男子生徒に囲まれた隆二君の姿があり

私を呼びました。


『渚 ちょっと来てくれ 話がある』


呼ばれた私は 瞬時に思いました (振られる) と 


手紙が返ってこなくなった時から 近々 私の嫌な予感は当たるだろうと 分かってました。

ですが まさかあんなに男子生徒を従えて来るとは 思ってもいませんでした。

隆二君が こんな人だったなんて・・・ と 幻滅しました。


(例え 私が勝手に恋人だと思い込んでいたにしても だとしても! あの人達の前で ぶざまに振られるなんて 絶対に嫌!)


そう強く思った私は 何度呼ばれても 隆二君の方すら見ず その場を動きませんでした。



その日の帰宅時間 私は千夏に付き合ってもらい 部活を終え帰宅する隆二君を待ちました。

そして 部員達と別れて 1人になった時 私は隆二君の元へ走り寄り


『昼休み中は ごめんなさい 用は何だったのかな・・・』


振られると分かっていて 私はそう聞きました。 すると隆二君は 学ランの内ポケットに手を入れ 何かを掴み出し それを私に見せ


『ごめん もう 付き纏わないでくれ』


そう言って 手にしていた私の名札を 返してきました。

私は名札を受け取り 隆二君の名札をポケットから取り出して渡し


『分かっったよ』


とだけ言って その場を去りました。

涙が止まりませんでした 分かっていたとはいえ



・・・ 別れよう ・・・ で無く


・・・ 終わりにしよう ・・・ とかでも無く


・・・ 『もう 付き纏わないでくれ』 ・・・



(こんな言葉を言われるなんて・・・ 私がいつ 付き纏ったの?  ずっと 付き纏われてると思ってたの?  手紙の交換をしようと言ったのも この名札の交換をしようと言ったのも 全て隆二君の方からじゃない!  なのに もう 付き纏うな! なんて・・・ 酷過ぎるよ!  最低だよ 隆二君・・・)


私は返された名札を見ながら そう思い 名札をグッと握り


(こんな物 返されてもしょうがない! こんな物 もう 要らない!)


そう思うと同時に 思いっきり振り投げていました。


その名札が 何処に飛んで行ったのかは分かりませんが その様子を隆二君はずっと その場から立ち去らず見ていたと 後で千夏に聞きました。



中学2年になる時 クラス替えがあり 不運にも私と隆二君は 同じクラスになってしまいました。

あの失恋から まだ数ヶ月だったので 当然ながら私の傷は癒えて無く (どうか 同じクラスになりませんように) と 真剣に神頼みしたのに・・・  あの時ほど 神様は意地悪だ!  と思った事はありませんでした。


中2・中3と 同じクラスで 席が近くだった時もありましたが 話す事無く 私達は卒業をし 別々の高校に進学しました。

それからは全く どこかでばったり出会うとか 見掛ける事も無く 今日まで時が過ぎ あの失恋の傷が 今でも残っている事など知りもしない隆二君は今 私の手を取り グイグイ引っ張っています。 



手を引かれ 三次会に連れてこられた私は すぐに帰れるように 入口に近いカウンター席に座っていると あの時隆二君に従われていたうちの1人 斎藤君が私の所に来て


『長谷川さん 隆二が呼んでるから 奥に来て』


と言って 私の腕を掴み 立たせてクッと引っ張りました。

私は慌ててバッグを持ち 引かれた方へ行きました。


隆二君は 店の奥のBOX席の上座とも言える所に座っていて その周りには あの頃と変わらず 隆二君といつも一緒にいた人達が座っていました。

そんな所に連れられて行った私に隆二君は 隣の席を指差し


『渚 ここに座れ』


と言いました。 その瞬間 一瞬だけ 賑やかだったのが止み またすぐ賑やかな場に戻り 斎藤君に スッと背中を押され 私は隆二君の隣に座りました。


隆二君達は 凄く話が盛り上がっているのですが 私は何の話なのか さっぱりで ただただ話す人話す人の方をキョロキョロとするだけでした。

すると隆二君が やっと気付いたのか


『ごめん 渚は何の話か分かんないよな ごめんごめん』


と言って 私でも分かる話をしてくれました。


三次会に来て二時間程経って 皆がぼちぼち帰り出し 私もそろそろ帰ろうと思っていた時


『渚 もう帰る?』


と隆二君に聞かれ


『うん そろそろ帰らなきゃ』


と答えると


『連絡先 交換してくれよ 又 飲みに行こう』


と言われて 


(私から連絡する事は絶対に無いし この先飲みに行く事も絶対に無いから 必要無いんだけど)


と思いはしましたが 連絡先を交換して 私は家に帰りました。




同窓会から一週間

私は見慣れないメールアドレスに ドキッとしました。

そのメールアドレスは 何となく脳裏に残っている 隆二君のメールアドレスだったからです。

私は ドキドキと憂鬱が入り混じった 何とも言えない気持ちになりながら メールを開きました。

そこには


【渚 先週はお疲れさん 俺は凄く楽しかったわ 20年以上経つのに 全く変わってない渚見て あの頃の事を思い出したわ 懐かしくて半ば無理矢理連れ回してしまって・・・ 渚は早く帰りたかっただろう? 悪かったな  でも本当に また一緒に飲みに行こうな!】


と書かれていました。

私は


【こんばんは 私は無理矢理連れ回されたと思って無いから 気にしないで   私も凄く楽しかったし 懐かしかったし・・・  うん  また飲もうね】


と返信しました。

このメールからです  ちょくちょく隆二君から連絡が来るようになり 飲みに行こう飲みに行こうと 誘われるようになっていき あまりにしつこいので断り切れず 飲みに行く約束をしてしまいました。

(1度行っとけば もうしつこくしないだろう)

と 安易に思っていました。




約束の日


私達はある駐車場で待ち合わせ 隆二君の車で 隆二君の知ってる居酒屋に行きました。

その居酒屋では マスターを交えて 隆二君がバツ2になった事をいじって盛り上がり 2時間ちょっと経って 私達は店を出ました。

隆二君はアルコールを飲んでいたので 運転は私がしました。


『渚 まだ時間ある? まだいいなら カラオケ行こう 俺 歌いたい』


と隆二君はノリノリだったので 断るのが悪い気がして 時間もまだ大丈夫だったこともあって


『いいよ 行こう』


と答えました。

カラオケまでの道中 隆二君が


『何か不思議だな 俺の車を渚が運転する時が来るなんて 思いもしなかったし こうやって2人で飲みに行ったり カラオケ行ったりする時が来るなんてな 本当に不思議だよな』


と しみじみ言っていました。

確かに私も こんな日が来るなんて という思いでした。



カラオケBOXに着き 何だか飲みたくなった私は


『私も飲もうかな』


とボソッと言うと 


『おう 飲め飲め! せっかくなんだし 車は代行使えばいいんだしな!』


そう言って 何飲むんだ何飲むんだとはしゃぐ隆二君を見て 笑いが止まらなくなった私に


『渚って 笑い上戸だったんだな  渚の笑顔 俺にとっては ヤバイわ 旦那さんがいなかったら 俺 気持ちを抑えられなくなってるわ』


と言って 優しい目で私を見てきました。

この目を見て 私は思いました。 


(今更そんな目されてもな・・・ あの頃に見せて欲しかったな)


と あの時の失恋の傷が疼き出していました。


そして私達は 2時間程歌い 別れました。


この日を境に 隆二君からのメールは 飲みに行こうという誘いから 会いたいんだけど 会ってくれないか? に変わりました。

私は 何度も断りました。

それでも隆二君は 会いたいと言い続けてきました。


【離婚して寂しいだけだろうから 私じゃなくてもいいと思う】


と 少しキツイ言葉で断った時もありました。

それでも隆二君は 会いたいと言ってきました。


(どうして? どうして私なの?  私がまだ 隆二君に想いがあると思ってるの?  あの頃 隆二君の言うなりになって 隠れ恋愛したから?  また私なら そうしてくれるって思ってるの?  どんな気持ちで 会いたいって言ってくるの?)


私は隆二君からの熱い言葉と 自分の心の中の あの時に受けた失恋の傷との狭間で葛藤しました。

そこで私は隆二君に聞きました。


【ねえ隆二君 1つ聞いてもいい?  中学の時 私を振った時 何て言ったか覚えてる?】


すると隆二君は こう返信してきました。


【え? ごめん 覚えてないわ 俺 何て言ったんの?】


私は思いました。


(だろうね 覚えてないから 今私を口説けるんだろうね)


私は正直に言いました。


【あの時隆二君 もう 付き纏わないでくれ って言ったんだよ】


と その返事に隆二君は


【そんな事を言ったんだ! 若気の至りとは言え 俺 酷いことを言ったんだね ごめん・・・  あの時は 周りの奴らに流されて・・・  本当に ごめん】


と 返信してきました。

その返信を見た私は 


(そっか 急に振られたのは 隆二君の意思ではなく 隆二君の周りにいた人達が 隆二君に言ったからだったのか・・・  きっと あんな女と!? 止めとけ止めとけ!  何処がいいんだよ あんな女の・・・  とか言われて それらの言葉に隆二君は ああしたって訳か・・・  若気の至り?  そんな言葉で片付けられてたまるもんですか!  今も私の心にはあの時の傷が疼いてるのに・・・ )


そう思った時 私の気持ちは決まりました。



 

《 あの時の失恋の 未だに残る傷の 復讐をしよう 》  と・・・




そう決断した私は 隆二君からの誘いに応えました。


【分かったよ じゃあ会うよ 何処に行けばいい?】


隆二君は喜んでいました。 私の思惑も知らずに・・・


それから私は 2・3週間に1度の間隔で 隆二君のマンションに通うようになりました。


隆二君のマンションに通い始めて 3度目の時でした  私達は初めて 交わりました。


本当に好きな相手ではないけれど 私の思惑を達成させる為には こうなる事も覚悟の上でした。

求められる時以外でも 自ら隆二君を求め 面倒な思いを振り払い 隆二君のマンションに足を運び 大胆な行動をした時もありました。


そうやって私は 2年という時間をかけて 隆二君の心の中で大きな存在になっていきました。


ある日 隆二君が私に言いました。


『渚 愛してる 俺 こんなに誰かを愛した事は無いよ 本当に 心から愛してる』


私が心から聞きたかった言葉でした。


(やっと言わせた 2年もかかったけど 私の思惑が達成した・・・)


と 心の中で ガッツポーズをしました。

この日を境に私は 隆二君のマンションに行く回数を減らしていきました。


そして 突然


【もう 終わりにします。 ごめんね。 元気でね。】


とメールで 別れを告げました。

隆二君から


【どうして急に?  理由が知りたい】


と 返ってきましたが 私は理由を書かず


【ごめんね】


とだけ送り返しました。

すると


【渚には旦那さんがいるから これ以上わがままは言えない・・・   分かったよ 今までありがとう 元気でな】


と 隆二君から返信がきて 私の復讐も そこで終わりました。



私が不倫をしてまで 復讐したかった事は

純粋だった中学1年の秋  納得のいかない失恋と その時言われた酷い言葉で 大人になっても 結婚して子供を産んでも 消えなかった心の傷の償いをさせる事!

そして あの時私が味わった失恋の痛みと 同じ痛みを味わわせる事!

 



 

復讐を達成させ 長年抱えてきた 忘れられない失恋の傷は 癒されるはずなのに なぜか スッキリせず 新たに違う何かが 私の心に残った事は 言うまでもありません。


そして いかなる事があろうと 復讐などといった事は 決して してはいけないという事も・・・





                     ー 完 ー









   


 







  

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