神官の独り言。
お目に留めていただき感謝いたします。
よろしくお願いします。
私はダングスと言う、王都の神殿に勤めているしがない神誓神官だ。
神誓神官とは、家門を捨てた神官のことだ。
神のみに仕える誓約した神官として一目置かれている。ま、実際には大司教と兄弟という、元の肩書きがあるが故だ。新参の神官達は知らないが、古参や知る人ぞと言うやつなら知っている。
ある日、地方への巡礼が当番でやってきた。
地方回りはたまにやるが、新しい酒のツマミを開拓出きる楽しみがある。
いつもどおり街や村に行けばその地の領主にもてなされる。
ある領地にいくと、領主から相談された。
まあ、よくあることだ。
廃屋の浄化、忌まれた地の浄化など。
巡礼の祈りとは別件で頼まれたりする。
報酬も別でもらえるから断ることはない。
だからいつも通りに話を聞くことにした。
だがいつもとは、普通とは、違った。
娘が異質だから見てほしいと。
たまにあるが、生まれながらの気質や障害などは神のみもとでも治せないものがある。
だから、だいたいそんなのばかりだと思ってい。
たが違った。
本物だった。
私の守護霊も視えているようだ。
それ故に、両親が持て余した。
領主達も苦心惨憺したのが伺い知れた。
努力が身を結ばない虚しさは計り知れない。それが我が子のこととなると。
こちらで受け入れると承諾し、彼女は神殿で預かった。
そして視える力を伸ばすため指導した。
ある日、彼女は故郷を思い泣き出した。
まだ幼いのだから両親を慕うのは当然だ。
だから一時的に里帰りを提案したが、彼女は断った。
両親の背後は、視えていた。
だから知っていると言う。
「心配しているのも愛情がちゃんとあるのも、分かってる。でも私いると、ママ達心から笑わない。悲しむの、だから帰らない」
そう彼女は言った。
彼女は神殿の敷地内のみで過ごし、神殿で学ぶ。
視る能力をコントロールする訓練はなかなか難しく身につけるのに苦労していた。
他にもシスターから信徒の手ほどを受けていたが、彼女本人もまだその道に進むかは分からなかった。
月日は流れ、彼女は聖言を唱え浄化するまでの能力を身につけて立派にシスターにも慣れるほどだに成長した。
だが、彼女は神殿から出ない。
どんなに楽しいお祭りでも、王のパレードも市も出店も見ずに育った。
周りのシスター達が楽しげに話すのをただ聞くだけ。
祈祷にくる家族を羨まし気に眺め、そのあと悲壮な顔で部屋に駆け込むのを何度も見た。
もう自信を持って普通の生活が出来る。
もっと早くに家に帰れるはずなのに、何度言っても彼女は首を横に振った。
家族の面会を断り、10年が過ぎた。
デビュタントの年に帰ることが決まった。
「帰ったら悲しむから」
そう言う彼女にデビュタントが期限だと言った。
自信なさ気に「分かった」と頷く彼女の心境はいかばかりか。
それでも彼女の成長を願い、この神殿から突き放さなければならない。
あの幼な子はこんなに大きくなった。
もう、苦しまないといいのだが。
私もそろそろ子離れしなければ。
育て親の神官視点です。
ヒロインが神殿に預けられる経緯の話です。
本編を読む資料背景として頂ければと思います。
ご読了ありがとうございました。
次話から二章ですのでよろしくお願いします。