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お読みくださりありがとうございます。

よろしくお願いします。

スイーツ屋さんから部屋に戻ったその夜。



〈ルシェや。もう出てきたらどうだい?〉


私は一人布団を被りうんうんと唸っていた。


『もー!じじさま!構わないでってばっ!!』


スイーツ屋から帰宅後、夕食もそこそこに寝る準備をして速攻で布団に入った。


〈まあ……ありゃあ、お出掛けじゃなく、デートじゃったからなぁ〉

『!!!』


その言葉でカッと顔が熱くなる!


『もう!!じじほっといて!!!』


言葉が強くなってしまったが今はそれどころじゃない。


じじさまが居なくなって気配もなくなると布団から顔をだした。




「………だって、恥ずかしいだもん」


ぽつりと呟く。


終始じじさまが視てたわけだ。

告白されて恥じらう自分を視られていたなんて、羞恥死しそうだ。


ーーお出掛けじゃなく、デート。


そんなこと思いもしなかった!


「ぬわー!」と唸って両手で顔を覆う。


恥ずかしい。

恥ずかしい。

恥ずかしい。


デート!?

あれはデートになるの??

デートって何!!??

しかもあんな風に告白されるなんて恥ずかしすぎるー!


マアディン卿に告白された。

どうりでマアディン卿の背後が大人しかったわけだ。

息子の告白現場の覗き見を遠慮したとは。脳筋親父の割には気がきくじゃん。なんて上から目線をした後、じじさまと目が合った。

その瞬間。

ぼっと顔が赤くなった。


恥ずかしすぎる!



告白された場面を身内に鑑賞されてるなんて!


八つ当たりだと分かっててもじじさまに喚き散らかしてしまった。


………あとで謝らなきゃ、とは思っている。


今は無理だけどね!

恥ずかしいし!

手にチュッて。

惚れたって。

何で私??

ああああ!!!

恥ずかしいーーーー!!


悶えてベッドを転がっては溜め息をつき、悶々と自問自答を繰り返す。


マアディン卿は確かに顔は厳ついが端正な顔つきだし、眼光が鋭くなければ怖くない、と思う。

自分の基準が普通とは若干ズレていると思うが。


マアディン卿が纏う空気は濁っていない。

恨んだり妬んだり腹黒は身体に纏う空気が澱んだり黒かったりする。

殺意なんかあると赤くなるし、邪な感情は紫色になったりしている。


いつも平常を保つように訓練された護衛騎士の凄さなのだろうけど。


さすがにあの時は違っていた。


明るい光りを纏う騎士の視覚の威力に負けた。

純粋な気持ちを向けられ目を瞬せた。



ぬあーーー!

こ、告白されたんだよ?この私が!?

えーーーー?

信じられないんですけど??

夢?幻覚?明晰夢?


マアディン卿は私の何処がいいのか。

こんなよくわからない能力なんか倦厭されるのに。


三目惚れか四目惚れとか言ってたけど、そんな切っ掛けなぞ思い出せない。ただ普通に話していただけだ。

怒鳴るわけでもないし、乱暴に振る舞うこともない。会話も普通だし。私としては逆に、何故マアディン卿がモテないのかが理解に苦しむ。実力があるから近衛騎士だし、それに爵位もあるのを知っている。


マアディン卿は今の身分は伯爵だ。

アロイ・マアディン伯爵。これが今の彼の正式な身分。

だが、本当は三公爵のひとつ、アパル公爵の身内だ。だから本当の名前はアロイ・アパル公爵子息なわけだ。

贔屓されたくないから身内が持っている爵位の一つを借りて使っているのだそうだ。

〈三公爵だと知ると爵位目当てで寄ってくるのだ〉とマアディン卿の背後からの助言に納得した。

顔が怖い厳ついと避けていた令嬢が、公爵家だと知ると手のひらを返す。

それが繰り返され、家名を借りて変えたそうだ。


そんな立派な家門の一員に、こここ告白された!なんて!恥ずかしいーー!!


髪がぐちゃぐちゃになるのも気にせずゴロゴロとベッド上を転がった。


異性ってよく分からない。

ダンおじちゃんは大人だけど、おじちゃんだし、父様みたいだし。他の神官様もやっぱりおじさんかお兄さんくらいな感覚だった。恋愛なんか程遠い世界だったし。

周りで恋話してなかったし。

誰かに相談できるはずもなく。

聞いてくれる相手も他にいないし。


ぬあーーー!


答えの出ない気持ちによくわからなくなってしまった。


好きってなんだろう。

誰かを思う気持ちってなんだろう。


今、自分がいっぱいいっぱいで他に感情を割けられないのだ。

慣れない王宮生活で、慣れない俗世の世界では、立居振る舞いすら緊張しているのに。


確かに、マアディン卿は頼り甲斐のある人物だ。

先日の露店も今日のスイーツ屋も満足だった。

気配りなマアディン卿に不満などない。

紳士っぷりに赤面してしまうほどだったし。



ふと手を見た。


マアディン卿に握られたその手。

大きくて分厚い肉厚のある手は、剣だこや鍛錬で硬い皮膚だった。


その感触を思い返して再び赤面と共に熱が上がる。耳の先まで充血して痛いほどだ。手の甲への口付けも釣られて思い出してしまう。


何でこんな私に?

見た目平凡で地味で普通で特質ない埋没する容姿。自分がモテるとは思えない。何処に惹かれているのかも分からない。こんな変な能力持ちの何処がいいのか。

ハッキリしない気持ちにモヤモヤしていく。

言葉に出来ない感情と気持ち。


「強面の俺とも臆せずに話すから」と言っていたが。


マアディン卿の強面なんて気にしている余裕もないし。

強面よりアチラの世界の闇を含んだ存在の方が怖い。

呑み込まれたら恐ろしいことになることを身をもって知っている。



そう。


昔、子供の頃に黒い暗いモノに呑み込まれた。





それは、神殿に来て一週間もしない頃のことだった。



ご読了ありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

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