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〈ネェちゃんもっと近くに来いや!それじゃ谷間が見えん! ムチムチなエロボディサイコー! 服が邪魔だ! 脱げ! 儂の側に侍ることを許そう! ああ、馬車で揺れる乳がたまらんなぁ!〉



通りかかる女性達に、卑猥なことを連発している人物がいる。


広場の真ん中に鎮座するのは時の王の銅像。

三公爵の紋章が合わさった王家の家紋が彫付けられた大きな王座に座った王の銅像だ。


ここ何世代前くらいから勢力が衰えがちな我が国の復活を願い建てた銅像だとか。

数代前の時代なんて知らないけど。




その目立つ銅像の真横で、立派な衣装を着込み下品な言葉を辺り構わず口にするその御仁は、自分の銅像に寄りかかりながらあたりを見回している。

耳を疑うような言葉を周りに憚らず言い、鼻の下を伸ばしているにもかかわらず、誰も気にしない光景は異様に見える。

あれだけ下品なことを言っても、誰も気にも留めず振り返りもしない。セクハラを口にし、にやけた顔で女性を視姦する勢いで見つめるその人物に、意識を向けるものは誰一人もいないのだ。


ーー私以外は。




〈お?ネエちゃん視えるのか?視えるんだな!よし!儂の僕に取り立ててやろう!側に来るが良い!〉


変人と目が合ってしまった。

踵を返し、クルリと来た方へと戻った。

帰ろう。

背後から何かが騒いでいるが。

聞こえない。聞こえない。



〈ルシェや。時の王が呼んでおるぞ?〉

『知りません。聞こえません』

〈じゃが王が困っておるのだ。なんとかならんかのぅ〉

『はぁ。死霊ではなく生霊のようです。ほっとけば戻るんじゃないですか?』

〈戻らんと不味いじゃろ〉

『やですよ。関わりたくないです。デビュタントの髪飾り探しに行かないと』


髪飾り探しに朝から準備して買い物に来たのだ。余計なことなんかしたくない。


〈一応、アレでも現役の王じゃ。ダメかのう〉

『えー……わかりました。じじさまの頼みなら仕方ないですね』


しょんぼりとした顔をしたじじさま。

お世話になってるじじさまの頼みならと、仕方なく踵を返し銅像へと向かった。




銅像の足元の周りには植木が寄せ植えされて花の季節には彩りを添える。

台座の縁は広場のベンチ代わりに座れる程の幅がある。賑やかな街の広場で屋台の食べ物を食べられる憩いの場のひとつだ。

空いている台座の縁に座るとすかさず王様が近づいてきた。


〈娘!近くで見るとなかなか可愛いではないか!〉

〈王よ。お久しぶりに御座います。我が孫ソルシエレに話があるようですが?何用でございますでしょうか?〉

〈お?お主はレベナン男爵ではないか!息災で何より!〉

〈王よ。お言葉ながら、わたくしはとうの昔に鬼籍となり墓の下の住人でありますれば、息災とはほど遠い身で御座います〉

〈わっはっはっはっは!そうであったな!面白い話だ!こんなこと側近どもが腰を抜かしそうだなあ!〉


豪快に笑う王様は切り揃えられた顎髭を撫で手を顎に添えて私に目を向けた。


〈うむ!レベナン男爵の孫娘よ。発言を許そう!〉

『王にはお初にお目にかかり光栄に御座います』


顔をそっちに向けて話すことはできないから、腰掛けて俯き目を積むって念話に集中した。


〈さて、娘よ。儂が視えるな?〉

『はい。恐れ多いことです』

〈なら、話しが早い。どうにかせい!〉


「はっ!?」


思わず声に出てしまい慌てて口を瞑って下を向いた。周りに怪訝な視線を向けられ、恥ずかしさに耳が赤くなる。



挙動不審に見られる訳にはいかない私は、ただ座っているだけだと、周りに見られなければならならい。

背後で繰り広げられるやりとりなど。

知らない。

分からない。

何もないようにしなければならない。


私は空気。

私は空気。


いや。あんたらが空気やん。

周りから見たら。


と、ツッコミたいのをグッとこらえ、座ったまま休んでいるかのように佇んだ。


内心と脳内は大わらわだけどね!




〈一介の小娘には荷が重いことでございます。他に術師などを頼ってはいかがかと〉

〈男爵の言うこともわかるが。儂を視れたのはこの娘のみ。視えねば対処もできないであろう〉


確かにそうだ。だが私に何ができる。『視えるだけです』と、そう言えば王様も困っていた。



〈何故かここから動けんのだ。寝て起きたらここにおった。動けず途方に暮れていたのだ〉


えー?途方に暮れてなくない?楽しんでなかった?私のことネエちゃん呼びしてたし。

思わずジットリと視たらバツが悪いのか視線を逸らしていた。

不敬罪に処せられたら困るので視線を戻して話を続けた。


〈原因が分からぬが、寝て起きたらこの状況だ。話せる相手は娘のみ。頼まれてはくれまいか?〉




〈ルシェよ。如何じゃろうか?出来そうか?〉

『出来る出来ないじゃなくて、やらないと不敬罪でしょ?』

〈ポックリ逝けば不敬も知られずに済むが、戻ればそうじゃろうな〉


ボソボソとじじさまと脳内会議をする。

逝くかどうかを話す不敬な会話を聞かれたら後々マズイし。

生き霊だし、戻らなきゃ死ぬし。

仕方ないと思いながら、気怠げにはぁーと深いため息をついた。


登場人物

*主人公:ソルシエレ・レベナン男爵令嬢。

霊が視えちゃう体質。

*じじさま: ルヴェナート・レベナン前男爵(故人)

主人公の祖父。顎髭のある細身なじじさま。


*王様:カルコス・ゼス・キュイベル

いつも王様呼びで名前を呼ばれない。

顎髭たっぷりある、貫禄のある体躯。



ご読了に感謝いたします。

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