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遅くなってすみません。

よろしくお願いします。

ふと息を吐き、ゆっくりと目を開けた。


皆からの視線中にギシリと緊張して固まった。


「どうであった?」

「話しは聞けましたか?」


周りからの視線の圧に身を縮めたが、視界にレギール王が映った。

深々と一礼したその姿に、深呼吸をして居住まいを正し、聞いたことを話し始めた。




「なんと!そんな経緯があったとは!!」

「口伝が途切れては、どうすることもできないですね」


王様と王子は驚きを隠せなかったのか黙して語らない。沈黙が部屋を支配した。



重い空気の中、こっそりと溜め息を溢した。

大役をこなして安堵の息を吐きたいがこの空気を壊すのは憚られる。

王様と王子を交互に見た。

背中を丸めて前屈みで項垂れる王様と、足を組み俯いて手で顔を触る王子。

マアディン卿は護衛の立場から座らないでいるけど、難しい顔で直立したままだ。




三つ子は負担かかる。

それで最愛の人を亡くしたらショックも大きいだろう。


だから側室が産み、王妃が一人を育てる。

それは今も変わらないそうだ。

それもどうかと思うけど。


産んだ側室は産後の肥立が悪く命を落とす確率が高い。三つ子は負担が激しいのだ。


三つ子や双子が忌まれるのは、負担から母体が死にやすいせいだ。

普通、産まれた後に多胎児だと知るとは言え、子によって母が死ぬのだ。忌まれるのも当然で、間引かれることもある。

なぜなら、双子の子は双子を生みやすいことを経験で知っている。

多胎児の家系は忌まれ、倦厭される。

それくらい母体の死亡率が高いのだ。

死ななくても回復が遅く身体を壊しやすくなる。それゆえに早死にしやすい。

祝福があっても母体の死亡率が伴うのは否めない。


命の危機がある祝福。


レギール王の父にとっては、祝福など呪いだと言った。


「祝福とは何なのか………」


神の定義など人に計り知れない。


祝福についても、王様は頭を抱えていた。

神殿を封じ、大地の祝福が薄れて、徐々に勢力が衰えてきた。

生産量が減った家畜や農業や林業。

目に見えてわかる速度ではないが、確実に数字の減りは分かる。

王様は頑張っているみたいだけど。




「重要な内容が知ることが出来た。早速結界を解除させるように命を下そう」

「魔法使い達に協力を仰ぎます」

「あとレベナン嬢には褒美を取らせよう。何がいい?」

「いえ、褒美はいいので家に帰りたいです」

「うむ。だがレベナン子爵は令嬢を独り立ちさせるために仕事を続けて欲しいと言っていた。王宮に居る間に貴族の交流を深め、婚約者でも何でも見つけられるように。と申しておった」



父様の思惑など知らなかった私には寝耳に水だ。

そもそも王宮に滞在しているのは、王子に半分拉致されたようなもの。


父様がそんなことを言っていたとは思わなかった。私も独り立ちとかまでは考えていなかった。婚約者とか交流とか頭になかったし、ここで仕事に就くとか遠慮したい。絶対酷使されそうだ。



慌てて王様の発言に首を振る。

採用されては困るので!


「畏れ多いことです。私は身の丈にあった生活を望んでおります。慎ましく片田舎で家を手伝う所存です」



残念そうな顔をしてる王様に恭しく礼をし退室する。その直前。



「最後に聞くが、レギール王はどうしてる?」


微かに首を傾けて背後を気遣う視線を向けた王様。

顔を向けると、項垂れ肩を落としたレギール王の姿が視える。


「口伝を途切れさせたことを後悔してます。状況を悪くした責任は自分だと。

父親の所業を諌めず黙認しそのまま改善もしなかった、と」

「………そうか。ご苦労であった」



 



パタリと扉が閉まる音を聞いて、やっと終わったのだと息を吐いた。



もう帰りたいです!




◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇




王様の執務室から一歩出た瞬間、脱力した。とにかく疲れた。


「部屋まで送ろう」

「手を引こうか?」

「抱えて行くか?」


どれもお断りします。

アエス王子に送ってもらうのは疲労を重ね掛けするので遠慮します。執事モードのファルシュさんに手を引かれるのもお断りします。マアディン卿、オカンですか?過保護ですよ?


周りから気遣って貰ったけど。

今の私は周りに気を配る余裕がなかった。皆がどんな眼で見ているかなど。気にも留めていなかった。




とにかく急いで部屋に戻ってベッドに横になった。

掛布にもぐり目を瞑る。




王妃の実家は、レトン侯爵家。


長女ミニエーラ・レトン侯爵令嬢が家を継ぐ長子。

次女アリアージュ・レトンは王妃となった。


庭園で会ってお茶をしたのがアリアージュ王妃。


ーーでも


あの部屋で、アリアージュ・ゼス・キュイベルだと言った、あの女性は?


あと後倒れて見た夢。


目を瞑り微睡むと、


あの夢の続きが甦えるーー。




ーー時が流れ結婚式が行われている。


白い衣装を纏う二人を国民が祝福する。

華やかなパレードの裏で泣いている女性がいた。


『なら!私が産む!私の子が王子となり王となる!貴女はお飾りで置き物の王妃になるの!」


激昂する女性と泣く女性。


交互に影が入れ替わり暗くなる。




ーー暗い寝室で眠る女性。


『貴女はもう居ないわ』


『貴女は私』


『先に死んだのはお姉様よ』


『さようなら。お姉様ーー』





コンコンコン。






ハッと飛びあがった。


恐る恐る掛布から顔を出すと再び、コンコンコンとノックが聞こえる。


逡巡したが、ノロノロと寝台から降りて扉をゆっくりと開けた。



「話しがあるんだ」


ファルシュさんが立っていた。




向かい合わせにソファーに座り、ただ無言のまま俯いた。


何をしに来たのか。


何となく予想がして言葉が出て来なかった。



「聞きたいことがある」


喉が詰まったように声が出せず、その問いに、「はい」と言うのがやっとだった。


「あの子供部屋に、誰が、居たのか教えてほしい」


息が詰まったように言葉が喉で止まった。


「ベッドの上に居たのだろ?」


見透かされていると言うより、あの時視線の先を気取られていたようだ。

アエス王子とは違う、影武者としての眼。鋭く動向を見極める、猛禽類の如く威圧されて萎縮した。


「話してもらえないかな?」




重い空気の中、緊張に包まれながら口を開いた。


「アリアージュ・ゼス・キュイベル王妃が座って居ました」

「アリアージュ王妃……。そうか、なら君はもう知っているのだね?」


何を知っているか、答えられなかった。

ファルシュさんの視線の圧に、発する言葉を失った。

黙した私に代わり話し始める。


「視えたんだね、王子の本当の母親を。王妃が王妃でないことを。

君は、王は側室に第一子を産ませるとレギール王から君は聞いている。なら王妃は第一子の義母だと分かる。だが、アリアージュ王妃は子を産み今も生きて生活している。

三つ子の出産に耐えたのなら話は簡単だ。

だが亡くなり、霊となってベッドに居る。

時同じく、ミニエーラ・レトン侯爵令嬢が亡くなったのを鑑みて、君も答えに行き着いたのだろ?」


一旦区切ると私のことを確認するように視線を巡らせたファルシュさん。


「我ら三つ子の母が本当のアリアージュ・ゼス・キュイベル王妃。

今のアリアージュ・ゼス・キュイベル王妃はミニエーラ・レトン侯爵令嬢だ」


やっぱりか、と眉間に皺を寄せギュッと目を瞑った。


レギール王の話し。

夢の中の出来事。


辻褄の先に辿り着いてしまった。


王妃の挿げ替え。

三つ子を産み亡くなった妹の代わりに、姉が死んだことにして王妃の身代わりとなった。


王家の秘密など知りたくなかったのに。

関わりたくないのに。


でもなぜか話しをしたファルシュさんの方が苦悶の表情を浮かべていた。


第一子は三つ子だ。

一人は王子となり、残りの二人は影武者になるのだろう。

王子とファルシュさんともう一人で三つ子の兄弟だ。

きっと、亡くなった仲間と言うのが兄弟だったのだろう。



「影武者の中で王妃が義母なのは公然の了解だ。誰も口にしない。出来ないしな。消されるから。

同じ兄弟なのに、扱いの違いに恨みもしたさ。反抗も。でも、アエスも兄弟として苦しんだ。アイツが……、ファルセダが死んで俺も死にかけたりもした」



恨み苦しみ、それでも引き合う三つ子の縁。

祝福か呪いか。

レギール王の言葉が消えないで心の隅に残った。

私の疑問気な顔に「兄弟より幼馴染のような間柄なんだ。不思議か?」とファルシュさんは聞いてきた。



「三つ子は引き合うみたいだ。だから離れるのも難しい。祝福なのか呪いなのかわからないが」と呟く。




「君はこの秘密をどうするんだい?」



そう聞かれて言葉を無くした。






次話で、二章ひと段落です。

その後はマアディン卿の視点などになります。


ちょっと今月バタバタして投稿が遅くなりがちになりそうです。年末進行のところ追加で仕事が来て更に忙しくなりました。別視点までは途切れないように投稿頑張りますのでよろしくお願いします。


ご読了ありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。



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