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13 (後書に登場人物説明有り)

お読み下さりありがとうございます。

よろしくお願いします。

「では開けますよ」


マアディン卿の声に皆が一斉に身構えるのが分かった。


ザリッ、ゴリゴリ、ゴゴゴゴッ。


石床に埋め込まれた取手を手にすると腰を落とし足を踏ん張るマアディン卿。引っ張られると石と石が擦れ鈍い音と共に扉は開かれた。


ガコンッ!!


「開いた」

「お待ちください」


アエス王子が呟き近づこうとしたのをマアディン卿が手を向けて止めた。


「何があるか分かりません。私が確認するまでは近づいてはなりません」


流石王家近衛騎士。危険かもしれない場所に王子を近づかせる訳がない。

マアディン卿が暗い四角い穴に躊躇なく近づき調べている。穴にしゃがみ込み危険がないかを確認している。




マアディン卿が地下への出入り口を調べている間に、私は皆から数歩下がり周りを見渡した。


『じじさま、あの人……』

〈ああ、分かっておる。じゃが今はこの中が一番大事じゃろ〉


この部屋に最初から居た存在を、視界の端に捕らえながらじじさまと会話する。


ずっと聴こえている、声。


本当なら耳を塞ぎたい。

聞きたくなくても聴こえてくるその声。



悲しげに青いベッドに座り、

人形を抱えている。



青いベッドを視界に入れられない。




聞いてしまったその言葉。





血の気が引いた。





◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇




「では降ります」


ランタンを持ったマアディン卿が梯子を降りていく。ファルシュさんが穴の上でランタン掲げて光を差し入れる。

カンカンと響く梯子の音がザリッと砂利を踏む音に変わり着いたのが分かった。



カツカツと歩き回る足音が鳴り止まると、「大丈夫です。降りてきてください」とマアディン卿の声が響いた。


その声に、ヴィーエさん、ヴェクステル館長、アエス王子、私、ファルシュさんと、続いた。

ヴィーエさんが降りて術で確認して、館長が精霊で警戒、残ったファルシュさんが殿という順番だ。




降りたその先は6人ではちょっと狭い空間だった。

天井は人が通るのにギリギリの高さ。


そこから続く通路も狭く、幅は両腕を広げれば手がつくほど。

マアディン卿は警戒して剣を抜いたままでいる。狭い空間では剣を引き抜くのも難しい。一瞬でももたついたら命取りになる。だから先んじて剣を抜いているのだろう。



ランタンはヴィーエさん、ヴェクステル館長、ファルシュさんが持ち、私が先頭に道案内をした。


『じじさま、コッチ?』

〈ああ。そこを右じゃ〉



緩やかな勾配だったり、階段だったりを繰り返し、地下をさらに下に進んだ。迷路の通路を抜けてたどり着いたのは、大きな扉の前だった。


身長の倍はありそうな扉には、三大神が施されるている。


その扉をマアディン卿が押し開く。


ガゴゴゴゴゴーー




丸い広場だった。


天井が高く、豪華なシャンデリアが吊るされ、天井そのものにも彫刻や装飾が施されていた。

壁には神々の姿が壁画に描かれている。

凝った細工を施され、金箔が貼られていたであろう装飾は埃を被り輝きが失われている。

正面突き当たりには祭壇らしき台座が設けられている。


壁際には女神テルーレ像だ。


皆が無言のまま歩み出て周りを警戒しながら見渡している。

コツコツと皆の靴音が反響して響き渡る。


私は壁に近づき、神々の壁画の下が目が入った。


埃を被り気がつかなかったが、神々の壁画の下にも何か絵が描いある。

コホコホと咳き込みながら手で払いのけていくと、所々が見えてきた。

壁に描かれているのはどうやら、建国時を描いたようだ。

女神テルーレから祝福を授かる初代が辛うじて見れた。

眺めているとアエス王子やファルシュさんの話し声が耳に届いた。


「何も、ないな」

「書物もない」

「何か記実があれば」


私はその言葉に埃を払いのけながら声をかけた。


「あの。建国時の絵がこの壁画にあるのですが」

「何!建国の壁画か。……レベナン嬢、この壁画から読み取るのは難しいか?」

「……ああ!その手がありましたね」


ファルシュさんが壁を調べながら私に尋ねてきた。

ああ。そうかと私も気がつく。

普段あまりやらないことだし、思い出しもしなかったので、なるほどと思いながら壁に付け手の平に意識を集中した。



「ここからーー……女神の祝福ーーー……感謝……エレートの加護ーーー…紫色の瞳を王としーーー三つ子の継承、一子にーーーー、……………あとは読み取れないです。ですが、ここが女神テルーレより祝福を賜われた神殿であることは間違いないみたいですよ」


視えたのは、光りに包まれた獣らしき生き物と冠を載せた王様。霞んでハッキリとは視えないけど、読めた意識はそれくらいだったと説明した。



「これ、猫か?」


ヴィーエさんがケホケホ咳しながら壁画をはたいた。舞った埃が落ち着いてから近づくと、先程視た景色と同じような絵が描かれている。


光りに包まれてよく視えなかった姿。


四足歩行の獣と王の姿。


その姿に既視感を覚えた。




その獣の姿はーー








◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇



特に成果もないまま部屋へと戻ってきた。謎は謎のままで、解決への糸口すら掴めなかった。


「建国時の神殿なのは分かったが。何故反神聖結界が張られたのかは分からぬままだったな」

「そうで御座いますね。本来なら口伝でも伝えるべき事だとは思うのですが。それすらもないのは何か意図しているのを感じます」

「だろうな。父上も神殿など聞いたこともなかったようだし」


そのままその部屋でアエス王子とファルシュさんが話し込んでいる。

ヴェクステル館長とヴィーエさんは地下の出入り口で何か術みたいな事を試している。


残った私とマアディン卿は部屋の隅で遠巻きにそれを眺めていた。


人が出入りしても反神聖結界の影響は無いとヴェクステル館長は言っていた。神聖力が周りに影響出さないよう、力が漏れ出さないようにしているだけなのだと聞いた。


「アエス王子、少しよろしいですか?」


ヴェクステル館長がアエス王子に出入り口について話している。ヴィーエさんも補足したりと、何か進展のあることがあればいいなぁと、眺めていた。




「レベナン嬢、ここにはアチラの方はいるのですか?神殿のことなど知った方が居ればいいと思いまして」


私の護衛についてくれているマアディン卿が隣に来ると腰を屈めて耳打ちしてきた。突然の接近と耳にかかる息に肩がピクリと跳ねた。神殿育ちには異性との接触の機会が極端に少なくて対応に苦慮するのだ。緊張と慣れなさすぎてつっけんどんになっているのを自覚していても治せない。普通がよくわからないし。

どう反応していいか分からず口籠もりながら答えた。


「えっ?あ、ええ、神殿を知るアチラの方々とかは居ないです。結界のせいか、全く居なかったんです」

「居なくては聞けないな。地下でも神殿や結界が何のために有るのかも分からなかったですからね」

「弾かれてしまったのでしょうね。それにしても“居なくては“なんて言うなんて。斬れない方々のことをよく話題にしましたね。マアディン卿、苦手じゃなかったですか?」

「まあ、流石に慣れましたよ」


自嘲気味に笑うするマアディン卿に私も笑い返した。


「今アチラの方々が居ないので私は役に立たないですけど」

「そんなことないですよ。未知の神殿を見つけたのはレベナン嬢なのだから。自信を持ちなさい」


マアディン卿が元気のない私を励ますように声をかけてくれる。その心遣いに温かさを感じてた。


でも。

それでもーー。


四人が向こうで何か話している。


ベッドの近くのテーブルに近づくことに躊躇う私は話に参加できない。


「話しに参加しないのか」と伺われたが、首を振る私にマアディン卿も困惑顔が隠せない。


マアディン卿は私の顔を見るたびに眉を寄せる。

そんなに私の顔は変だろうか。


心配げに私を見つめるマアディン卿。

心配してくれるのはありがたいが。

でも、私はそれどころじゃない。

先程、“今アチラの方々が居ない“ と言ったが。


それは嘘だ。



本当は、ずっと居るのだ。



視てしまったその姿。



青いベッドは水色の天蓋が四方に括り付けられ綺麗なドレープが見事だ。真っ青なベッドカバーは銀糸の刺繍が施されている。



その上に座る女性。



王妃とそっくりの女性。



悲しげにベッドに座り人形を抱えている。



ハラハラと涙を流し呟く言葉。



〈私が、 ……アリアージュ・ゼス・キュイベル王妃よ………姉様。ミニエーラお姉様。忘れないで……〉



聞いてしまったその言葉。




〈あの子たちは……私の子よ!〉




ざわざわと肌が泡立ち不快感が沸き起こる。


鋭く、刺さるような感情がそのまま襲ってきた。


〈私の子!私が産んだ!!あの三つ子は!何処!!〉


ぞくりとするような寒さが全身を包み鳥肌が立った。

頭痛に顔を顰め眉間を抑えた。



〈私が婚約者なの!私が王妃なの!私が母なのよ!!〉



飲み込まれそうな深く暗く苦しくなるような圧迫感が纏わりつく。

視界が塞がれていくように狭まり息が浅くなっていく。



〈ーーシェ!ルシェ!意識を持て!!〉



何処かで、誰かが、何かを言っている



「レベナン嬢?」

〈ルシェ!霊との同調を落とすんじゃ!!〉




グラグラと揺れ沈んでいくのを誰かが支えてくれた。




沈む。



沈む。



落ちる。



誰かーー






ーー助けて。





「レベナン嬢!!」






その声を最後に、ぷつり意識が切れた。










今更ですが登場人物紹介をしておこうかと思います。

一章だとネタバレになるので遅くなりました。


登場人物まとめ。


● 主人公:ソルシエレ・レベナン子爵令嬢

淡黄色髪、黄緑色の瞳。16歳。

霊が視えちゃう体質。生い立ちの関係で、人付き合いが苦手で慣れない、ちょっとツンな女の子。神殿育ちで親子関係に悩み中。まだ距離感が掴めない。


● じじさま(故人):ルヴェナート・レベナン前男爵

白髪、黄緑色の瞳。50代。

主人公の祖父。顎髭のある細身なじじさま。孫のソルシエレに精霊の見方や扱い方を教えたりした。


● 護衛:アロイ・マアディン

琥珀色の髪、翠色の瞳。26歳。

王家近衛護衛。王の危篤の際捜査上に上がったヒロインを逮捕して牢屋で尋問した人物の一人。強面で厳ついご面相。対人スキルは王家で慣れているが女性とは不慣れ。ヒロインとの対応に同僚からアドバイスを貰ったりしているのは秘密。


● 王子:アエス・ゼス・キュイベル

金色の髪、紫の瞳。25歳。

この国の第一王子。ヒロインに仕事を振って王宮に滞在させた張本人。


● 影武者:ファルシュ

金色の髪、青色の瞳。25歳。

アエス王子の影武者。普段は黒髪に執事の姿でいる事が多い。髪で目元まで隠して気配を消してもヒロインには背後の方の違いでバレる。


● 魔法館長:スティル・ヴェクステル

青磁色の髪、水色の瞳。25歳くらいに見える。

魔法館の館長で精霊を守護に持つ。腰まで長い髪の女と見紛う美人。自分に見惚れないヒロインに興味を持つ。霊視能力にも興味がある。


● 呪術者:ディマ・ヴィーエ

茶色の髪、紺色の瞳。22歳。

呪いなどの呪術の魔法持ち。呪術対策から結界についても詳しい。お婆ちゃん子でヒロインに揶揄われる。


● ダンおじちゃん:ダングス神官

黒い髪、茶色の瞳。44歳。

細目で額が広い。禿げじゃない。(本人談)

呪術がかかった箱を浄化した神官。ヒロインが神殿に居た時面倒を見てくれた神官。ダンおじちゃんと呼ばれている。


● 王様:カルコス・ゼス・キュイベル

黄金色の髪、紫の瞳。

一章で幽体離脱して主人公に助けて貰った王様。

顎髭たっぷりある、貫禄のある体躯。


● 王妃:アリアージュ・ゼス・キュイベル

金色の髪、青色の瞳。


● 王様の背後:レギール・ゼス・キュイベル

四代前の王様。


●神々。


● 天神:父神ルフトゥ

● 海神:母神ユーラ

● 大地の女神:テルーレ

 神々の娘。豊穣の女神として人々から信仰されている。

● 女神の眷属:眷属エレート

 初代が助けた。姿は民間には伝承されていない。


三人娘

ロナータ・ファンファ侯爵令嬢

ティぺシュ・ストム伯爵

エーリイ・リツィミ伯爵



●会話についての補足。


普通の会話は、「」

念話の会話は、『』

霊体の会話は、〈〉

基本はこのようにしております。


●髪色の補足。

黄金色と金色の違い。

濃い黄土色に近い色が、黄金色。

黄金色より明るいのが、金色。



あまり名前を出さないのは覚えるのが面倒だからです。自分が小説を読んでいて、誰だっけ?になりやすいので、役職とかで誤魔化してます。なので、王子とか王様で明記してますので、ゆるゆる設定だと思ってもらえたら助かります。


お読み下さり心から感謝します。

次話もよろしくお願いします。

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