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お読み下さりありがとうございます。
よろしくお願いします。
「カラフルですね」
「レベナン嬢はこの部屋を視たのだろ?」
アエス王子は不思議そうに私を見つめた。
「薄暗かったので、全容は初めてみました」
王妃様とのお茶のあと、豪華な装飾を施された後宮の通りを抜け、奥まった所の部屋へと案内された。
カーテンは鮮やかな青い色。
壁紙は空と森が描かれている。
青い空に雲と太陽と鳥、湖や動物達などが色彩豊かに描かれている。
一歩踏み入れると絨毯はふかふかの毛足で、柄は緑を基調に所々に花があしらわれている。
白い本棚も細かな装飾と柄が彫られ、黄色いテーブルも白い花が施されている。
案内された部屋は、第一王子が一時的とは言え育った部屋にしては些か貧相に感じた。普通の貴族なら豪華な部屋と映るが、一国の王子ともあろうお子様の部屋としては何か物足りない感じだ。
しかも、居る。
いらっしゃる。
周りに気づかれないように、スウッと横目でアエス王子とファルシュさんを見た。
何か気配を感じてか、ファルシュさんがこちらを見そうになり慌てて視線を戻した。
まずは、部屋の謎から済ませなければ。
「レベナン嬢が視た部屋で間違いないかな?」
「はい。ここです」
私は部屋を見回し、視えた景色の位置を探した。
「好きに見て回るといい」とアエス王子の言葉に部屋の中を歩き始めた。
ふかふかの毛足の長い絨毯は緑を基調として、所々に花があしらわれている。
ベッドとテーブルと本棚の位置、窓の向きやドアの配置をなんとなく思い出しながら見て回る。
あ、ここかな?
既視感にそう思いながら足を止める。
そこはクローゼットの位置だった。
クローゼットの扉を開けてしゃがみ込み周りを見回せば視た景色と重なった。
「ここです」
軽く10人程は入れそうなほど広いクローゼットをファルシュさんは見て調べるが地下への入り口など見当たらない。
この広さじゃクローゼットより、衣装部屋と呼ぶべきか。普通の家じゃこんな広い衣装部屋なんてないからちょっと言い慣れない。
「衣装部屋の何処かが動かせるようにもなっておりませんし、床も仕掛けなどありませんね」
「でもここなんですけど」
困った私はじじさまに聞いてみた。
『じじさま、ここでいいんですよね?』
〈うむ。ここじゃ。ただ、この子供部屋自体が二重床だからの。床石ごとひっぺがさんと無理じゃな〉
そのままを伝えると困惑したアエス王子とファルシュさん。
「王子の責任において衣装部屋の床を破壊し出入り口を確認する!」
じじさまに場所を特定してもらい、アエス王子の言葉でマアディン卿が剣を引き抜き衣装部屋の床板に剣を突き立てた。
剣で衣装部屋の床板を破壊すると下から石のタイルが見えた。
「二重底と言うことは、この石のタイルも破壊する必要があるのだな?」
アエス王子の言葉に頷くと、アエス王子は眼を伏せ困惑を浮かべた。
流石に剣で石のタイルの破壊は難しい。かと言って、人足を呼べるかと言うとそれも後宮故に難しい。
悩んでいるアエス王子にヴェクステル館長が近づいた。
私が試してみましょうか?
申し出に一任するとヴェクステル館長は石のタイルに手をつけて、何か呪文のようなものを唱えた。
すると、微かにミシリミシリと聞こえきた。その微かに聞こえた音がギシっと鈍い音を響かせると続いてビシリビシリと亀裂の走る音が鳴った。
バキバキッ!
激しい音と共に石のタイルが割れ、木の根が姿を現した。ヴェクステル館長の守護の方の力なのだろう。植物の精霊紋だから木の根も操れたのだろと推測した。
割れて砕けた石タイルの下には、確かに扉らしきものが見えた。
「木の根を使い地中から石床を破壊しましたが……」
言葉を濁したヴェクステル館長はアエス王子を見つめた。アエス王子も言葉の続きを待つように身構えている。ヴェクステル館長はゆっくりと、思案しながら言葉を続けた。
「地中から一番下の石床から壊そうとしたのですが、無理でした。……ここから離れた石床から壊して、横つたいにこの下まで根を伸ばして、ここの石タイルを破壊したのですが」
ここで言葉を飲み込むように口を噤むと、一息つき、衝撃の一言を述べた。
「この下は反神聖結界が張られてます」
反神聖とは、その文字の如く。
神聖とは逆。
神の力を消す力。
その意味に皆が息を呑んだ。
神殿を反神聖結界で包む。
その行為は何をもたらすのか。
誰にも分からなかった。
「ちょっと、試していいか?」
ヴィーエさんの言葉にアエス王子が頷き場所を空けると、ヴィーエさんが身を乗り出し開いた石床に近づいた。
手を石床につけると手の辺りから鈍く光り始めた。呪文を唱えると手を中心に魔法陣が現れて光り、暫くすると消えていった。
「ここ、通路から調べた時は術が引っかからなかったんだ。だから何も反応しなかったし、何かあるとは思わなかった。でも、反神聖結界は術を無効にして隠匿させることができる。使えるヤツなんて稀中の稀で、ほぼ居ないとも言われてたんだが」
術で何か仕方られていないか調べた時、何も感じないのは反神聖結界のせいだったとヴィーエさんは話す。
「この反神聖結界はだいぶ古そうですから、現存する人物ではないでしょう」
ヴェクステル館長はしゃがみ込みタイルの破片を取り除きながら扉を調べた。
石タイルや下の石床の古さを考えればかなり昔のものだと見える。
皆の視線が石床の扉に注がれた。
誰が何のために反神聖結界を。
その疑問を胸に、扉は開かれた。
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