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お読みくださりありがとうございます。

よろしくお願いします。

「帰っていいですか?」


三人娘から絡まれたパーティーの帰り道。

潜入捜査もひと段落したし、帰りの馬車の中でそうファルシュさんに言うと無表情の無言で見つめられた。前髪の隙間から見える目が怖いんですが。


「……何処にですか?」

「家です」

「何か気に触ることでもありましたか?」

「いえ。疲れたので家に帰りたいんです」


両親とは、まだまだ隔たりとしこりが残る関係性とは言え、家と言う安心感は格別だと思う。

それにヴェクステル館長の言葉が引っかかったままだ。そのモヤモヤをハッキリさせたいのもある。


「一時帰宅なら出来るのですが」

「はい?一時帰宅ですか?私はもうやる事やったから家に帰りたいんです。王宮に永住でもしなきゃならないんですか?」

「……まだ、城内のアチラの方々のお話しを聞く仕事が残ってますよ?」


あー!!忘れてた!潜入捜査を優先して、途中なままだったことを思い出した。

ファルシュさんは目を細めてニイと笑う。

嫌な笑みだ。

作り笑いの。



胡散臭い顔を浮かべた私にファルシュさんは悠然と足を組んで寛ぐと王子様な顔付きをした。

前髪から覗くその碧い瞳が刺さるようで壁際に身を寄せた。



◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇




本日分の城内アチラの方々マッピングを済ませたくて、私は足早に視て回った。

マアディン近衛騎士が時間あるときにやっているためなかなか進まないのだ。



「マアディン近衛騎士様。早く済ませましょう!」


早歩きはちょっとお行儀が悪いが人がいない時は気にしない。それに私の早歩きなんてマアディン近衛騎士の歩幅程度。彼には歩いているのと変わらない。


私の早歩きに余裕の歩幅を繰り出し、一生懸命早歩きする私をチラリと見て、マアディン近衛騎士はふっと鼻で笑う。


脚の長いヤツめ。

身長差があるからね!

当然だけどね!


「レベナン令嬢。マアディン近衛騎士と呼ぶのは長いのでアロイで構いませんよ」

「いえ。名を呼ぶのは体裁がありますので家名でお願いします」


ピシリと断ると物珍しげに眺められたあと、眉尻を下げ残念がるマアディン近衛騎士は諦めず名前呼びを推してくる。


親しい間柄でもない男女が名前呼びなんて周りからどんな誤解を受けるか、考えただけでも恐ろしい。マアディン近衛騎士は家柄と肩書きで言うと、優良物件だ。厳つい強面で嫌煙されがちみたいだが、物件内容目当てだと周りから思われたり見られたりしたら困る。

三人娘から言われた王子との疑惑で嫌な思いをしたばかりだ。不用な中傷など受けたくない。


首を振り拒否する私にマアディン近衛騎士が詰め寄り「呼び名が長い」「体裁が」と繰り返した。

結局根気に負けて、”マアディン卿”と言う敬称に落ち着いた。

「慣れたらアロイで」と和かに微笑まれる。


慣れるころは自領に帰ってますよ。



◇◆◇



「ここ…………」


そう言って、言葉を濁した。

次の場所に移動したのだが。


アチラの方が無言で床をひっ掻いている。


私の耳にはガリガリと爪を立てて石畳を掻く音が届く。マアディン卿はキョトンとした表情で首を傾げている。

視えない、聞こえないっていいね。


『じじさま、この下って……』

〈うむ。秘密の通路か何かじゃろうな。壁の向こうから続いておるぞ〉


じじさまの言葉をどうマアディン卿に伝えるか。

そもそも、こんな抜け道とかの暴露をしていいのかも難しい判断だ。


『じじさま。周りに誰も居ない?』

〈大丈夫じゃ〉


「マアディン卿、ちょっとよろしいでしょうか」


私は通路の端にマアディン卿を呼び耳打ちをした。


秘密の抜け穴とか、どう報告すればいいのかを。

場合によっては、王族しか知らないとかもある。

偶発的に第三者が知るべきではない事案はどうするのか。


マアディン卿は黙り込み考え込んだ。

秘密を知って消されるとかないよねと心配になった。



「今日は、ここまでにしておきましょう」



マアディン卿は考え込んだまま。


その眼の色は深く沈んでいた。



◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇



部屋に戻り寛いでいるとノックが聞こえた。


扉を開けると、ぬうっと黒い影が全面を塞いだ。

思わず悲鳴を上げかけたが、佇む人物をみて辛うじて飲み込んだ。


「こんばんは」

「っ………い、いらっしゃいませ」


黒髪の執事姿のファルシュさんだ。

黒い髪と黒い影が一体に見えてちょっとびびった。


「どうしたんだい?」

「いえ。こちらにどうぞ」


ファルシュさんの背後の方に驚かされましたとは言えません。ちょっと背後の黒い方に警戒しながらファルシュさんを室内に案内した。

先に来ていたマアディン卿がファルシュさんが室内に入ると騎士の礼で出迎えた。



今日はマアディン卿とファルシュさんの三人で話し合いになった。


先日のマッピングの件だ。


「だいぶ進んだみたいだね。話が出来るのが少ないのが残念だけど。今回の件は王よりの依頼になる。その場所だが、通路は存在しない。緊急用の王家通路もそこには無いと言われた。でも、あるのだろう?」


確認するような視線を向けられ、力強く頷いた。


「じじさまもあると、言ってます」


なら、と手を合わせ笑うファルシュさん。


「調べないと、ね?」




◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇



「なぜヴェクステル館長と呪術者ヴィーエさんが?」


「君が言ってただろ?精霊を使って視れると。だから精霊守護を持ってる館長も来れば効率化も良さそうだと思ってね」


ファルシュさんが二人を連れてきたようだ。

先程の場所にファルシュさん、マアディン卿、ヴェクステル館長、呪術者ヴィーエさんが居る。人口密度が上がり、各々の背後の方々も個性的。見た目にも情報量が多すぎる。

黒いマントに、脳筋親父に、精霊に、お婆さん。ヴィーエさんの背後の方は会うのが二回目だけど毎回丁寧な挨拶をされる。


密な視界に視線を逸らし目を瞑る。

纏まり無さそう。


その予感が的中しないことだけを願った。



◇◆◇



先程の場所へと向かう道中、ヴェクステル館長から精霊と妖精と違いなどを教えて貰った。


精霊が気体なら妖精は固体みたいなものだとか。気体が凝固して個体と言う妖精が作られるので、気体の生成場所によっては気質がかなり変わるとか。


扱い方はじじさまに簡単に聞いたが、詳しくは知らなかった。

色の違いで気質を判断していたけど、場合によっては危険なので注意が必要だとも教えて貰った。


「私は精霊は扱えますが、同調して視るのは出来ないんですよ。精霊が見た物を知ることはできても視れはしないのです」


そうヴェクステル館長は言うと興味深く私を覗き込む。観察対象として見られることにたじろいだ。ヴィーエさんに、「実験材料にされないといいな」と態と嫌な情報をいれてくる。腹立ち紛れに、「いーだ」と歯を出すと、「ハッ」と笑い返された。


フンだ!

絶対いつかやり返すんだからね!



◇◆◇




「違和感は感じないな」


怪しい場所に着くと、術を使い何か仕掛けてあるかを確認したヴィーエさん。


「上の階に繋がっているみたいです。館長さんの精霊お借りしてもいいですか?」

「ええ。構いませんよ。私もこんな機会ありませんから」


精霊との同調調整に目を瞑り息を整える。

意識を深く深く沈めて暗く中で精霊を探す。


ほわりと暖かい包まれるような空気を感じる。

それに導かれるように意識を広げると。


ーー視えた。


祭壇と女神像。



「視えました!祭壇とかがありました」

「祭壇?」


私の報告にファルシュさんが疑問げに言いますが。私も知りません。


「こんな所にですか?」

「何のために?」


館長も不思議そうな表情を浮かべ、ヴィーエさんも首を捻っている。



俯き考え込むファルシュさんは顔を上げた。


「父上の所に行こう」





◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇



王様への急な申し出がすんなり通り、応接室へと案内された。


「父上。ご相談が御座います」

「話すがいい」

「はい。今回の件ですが、不可解な場所が判明致しました。地図に載っていない祭壇でございます」

「祭壇だと?」


その時、王様の背後のアチラの方がビクリと動いた。


ファルシュさんは構わず話しを進める。

術で反応しない祭壇。

何処からも入れない祭壇。


それを聞いた王様は心当たりがないようで頭を悩ましている。



ーー背後のアチラの方と違って。



「特に文献にも記載はされておらんな。口伝でも聞いたことはない」

「祭壇は王都にも本神殿がありますし、何故城内の深部にあるのか謎です」



頭を悩ます王の背後にじぃっと怪しい視線を送る私だった。






ご読了ありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

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