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「では呪術者を呼びますね」
ヴェクステル館長は呪術者を呼ぶとすぐに扉から入ってきた。
「彼がディマ・ヴィーエ。呪術者としてここに在籍しています」
おおー!初術者さま!は、何処にでも居そうな青年の姿だった。
茶色い髪に二十歳前後な顔つきで、普通に街中を歩いても目立たない青年。でも、ムッスリと不貞腐れた顔付きで渋々来ました感が半端ない。顔もそっぽ向いてこちらを向くこともない。
ヴェクステル館長の近くの椅子に座るとダラシなく足を組んでいる。
「彼が出来ることは、呪術の施行。後は、他人の呪術の気配が分かります。判別や追跡は能力外だそうです」
「結構偏りの激しい能力だなぁ」
つい間髪入れずに突っ込んで言ってしまった。だって出来るのは呪術の施行のみってことだ。
ムッとしたヴィーエさんがギロリと睨んでこっちを見た。
「視るだけの能力者に言われたくない」
「私は普通の市民だもん。術者じゃないもん。普通の人だもん」
反論した私に哀れみのような視線を投げるヴィーエさん。何故だ?
「君も充分能力者だと思うのだが?」
「これで普通なら、俺達も普通になるだろ」
「えー。一緒にしないでくださいよ」
ヴィーエさんとマアディン近衛騎士、二人して半眼で見ないでください!
この世界の呪術者は少ない。
術を使える特異な人は中々おらず、いたら王城で保護されるのだと聞いた。
呪術で呪われた王様は術者でなければ対応できないと思われていた。でも、呪術出来ても相手がどんな呪術を使ったか、詳しく調べるのは難しいのだそうだ。
秘されるのが呪術。
解明が難しいから解術まで時間がかかり、結局死に至りやすい。
だから、呪術者は敬われ畏れられ恐れられる。
でも、今回の事案は視れないと分からない事案だった。
視えなければ分からないもんね。
呪術の媒体の箱が城の外にあるから見れなかったみたい。幽体離脱させただけで、あとの行先がわからなきゃ戻せない訳だし。
まあ、私も幽体離脱後の行方なんて追えないけどね。追跡しにくいのが霊体。ふと消えて移動しちゃうから、追尾困難なのだ。
思念体とかもそう。
瞬間移動だから。
追えない。
「お前が王を戻したんだろ?」
「いえ。違いますよ。神官様です」
「でも、解決させたのはその霊視だろ」
ヴィーエさんはそう言うと椅子に立膝付いて背凭れにダラリとしてますが。
後ろの方からペチペチ叩かれてますよ。
言わないけど。
「君も充分、術者だと思うのだが」
「は?私が術者ですか?」
「その視える能力は術者と同じく貴重だと思う」
マアディン近衛騎士は私に向き合うと真剣に言ってきた。この能力に他の人が向き合うことなんて無かったからどう対応していいかなんて分からない。
「そうですかねぇ。他にもいそうですが」
「だが、そこまで意思疎通ができるのは立派だと思う」
「だからと言って、呪術者と同じ括りになれるとは思えません」
「そうか?なら術者ではなく能力がある者としても、充分素晴らしいことだと思う」
マアディン近衛騎士は力強くそう言うと大きな口を引いてニイと笑った。
その眼はちゃんと私を見て、発せられた言葉なのだと語る。
嬉しくて思わず頬を緩め笑った。
ーー褒められた。
疎まれ怖がられ避けられたこの能力。
褒められることなんかなかったのに。
どうこの気持ちを表現していいか分からない。
なんだか胸の中が暖かいのにモヤモヤしてよく分からなかった。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
結局、部屋に戻ったのは夕食前。
アエス王子からの依頼は半分も達せられ無かった。
食後に入浴を済ませて寝間着でソファーに寝転がる。
『疲れたよじじさま』
〈慣れないところで頑張ったのう。じゃが無理はするでないよ〉
『無理っていうか。普通の世界ってよくわからないね』
私の普通は、神殿の人達とダンおじちゃんから学んだ。
魔法館の人達は、普通から引き離された人達だ。
自分との違い、世間の違い。
ズレはなかなか治るものでもない。
自分の環境を思い返しているうちに瞼が落ちかけた。ウチのベッドより感触の良さに睡魔に襲われた。
〈寝台に行きなさい。風邪をひくじゃろ〉
『んー。はぁーい』
じじさまに促され向かおうとしたら、ノックが聞こえた。
扉を開けるとーー
黒い背後付き王子……。
じゃなくて影武者ファルシュさんだった。
「やあ、こんばんは」
少しいいかな?とファルシュさんに言われたら、眠いとは言えません。ビックリして眠気も飛びましたけど。
いいかな?ってさ。
否と言える人っていないと思うんだよねー。
私はどうぞと部屋の中へと案内した。
ソファーに向かい合わせで座るが。
………何を話せばいいやら。
「今日、魔法館行ったようだね。どうだった?」
「えっ。はい。呪術者の方にお会いしました」
「今回の事件に協力して貰ったからね。話が通ってよかったよ。これで話しやすいし」
何が良くて、何が話しやすいのか?
凄く!聞きたくないです!
ファルシュさんは王子様ソックリで、でも鋭い雰囲気を纏っている。視界に居るだけでも緊張する。威圧感にごくりと唾を飲み込み冷や汗が止まらない。
「君は王家の秘密の一端を知ってしまった。しかも王と王子の、どちらもだ。そんな君を自由にする訳にはいかないのは君も分かるだろ?」
ーー聞きたくない言葉が続けられていく。
「本来なら後腐れなく“片付ける“のが一番なんだが。今回は特殊だろ?
“君の安全“と、”ご両親の安全”。どちらも大切だからね?」
ーー血の気が引いていくのが分かる。
「爵位の昇爵は君の両親への恩情だ。娘を王宮に召し上げられるのだから」
片付ける、がどういう意味か。
召し上げられるとは?
影武者のファルシュさんの口から聞きたくはない単語だ。冷たい汗がツウと背中を伝った。
すると次の瞬間ーー
「ははは」と笑うファルシュさん。
「嘘だよ!半分は本当だけど」
「驚かせられた」と笑うファルシュさん。
王子様然とは違い、砕けた雰囲気はアエス王子とは別人に見えた。でもね?
・・・・・・。
笑えないんですけど!!??
驚愕して目を見開いたまま、口を引いて見つめていたらまた笑われた。
半分は本当なんでしょ!?
何が本当なのよ!!
このエセ王子!!
「ふふふ。怖かった?お化け怖くないから大丈夫かと思ったら。意外に繊細なんだね!」
お化けより現実の方が怖いわ!!
◇◆◇
「そんなに警戒しないでもらえるかな。ちょっと相談に来たんだよ」
再び会話が再開したが。
このエセ王子に対しておよび腰になるのも当然だと思う。
申し訳なさげに眉を下げても騙されません!絶対信用しない!
「相談とは何ですか?」
「悪かったです。もうしないから話しを聞いて欲しい」
怯えた私にエセ王子は口調も丁寧に、下手に出てきた。
謝罪されても脅された恐怖は拭えず警戒の眼差しのまま頷いた。エセ王子も揶揄った手前、決まりの悪い顔をした。
戸惑いながら、ポツリポツリと話し始めるファルシュさん。
「昔、暗殺者に追われて、逃げ込んだら追い詰められて斬られかけた。その時、仲間が身代わりに斬られた。まだ、あそこに居るなら話ができるかと思いまして」
私が前に王子から聞かれたことだ。
不慮の死の霊と話せるか、と。
仲間のことだったんだと気づいた。
王子暗殺未遂。
一時期話題になった。
その当時、私は神殿にいたから治癒者が呼ばれて大変だった、くらいにしか覚えていない。バタバタと騒がしくなった神殿で不安になった覚えがあった。
王子本人じゃなくて影武者のファルシュさんの時、狙われたのか。
そしてファルシュさんの仲間が斬られ、その人は亡くなったのだろう。
その場所にまだ居るのか。
未練を残しているのか。
ファルシュさんの顔は自戒の念を浮かべて苦しげに見えた。
「なら今から視に行きましょう!」
思い立ったら動かなきゃ!とソファーから立ち上がった。驚いて見上げるファルシュさんの顔は目を見開いている。
「驚かせ返せたかしら?」と笑うと、ふわりと笑われた。
うわ!王子の微笑み!
ちょっと破壊力強すぎ!
ご読了ありがとうございました。
ブクマ評価ありがとうございます。
執筆の活力にさせていただいてます。
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