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お読み下さりありがとうございます。
「ここは?」
棟がいくつかある高い建物の前にやってきた。
建物は複数の棟と、一つだけ高い塔がある。
「魔法使いがいる館だ」
「術者がいるところですか!」
王宮の奥に連れてこられ訝しんでいたが、それを聞いてパァッと顔が輝いた。魔法使いが居る館なんて普通は近寄ることも出来ない。
術者なんて王様見るより珍しい存在だ。
人前になんて出ないし、研究とかで出てこない。架空の存在かもとも噂されるほどだ。
実像など話しがあるわけもなく、噂話ししか耳にしない存在は王様よりレアだ。
下手したら王様より貴重な存在かもしれない。
ん?王様をサゲてるって?
そうだよ。だって。
王様のせいでこんなことになってるし。
王様のせいでここにいるし。
王様のせいで面倒ごとにまきこまれてるし。
恨み節が入るのは当然だと思いまーす。
マアディン近衛騎士が扉を叩いたらスウッと開き法衣を纏う長身で長髪の男性が出てきた。
「おや。アロイ・マアディン近衛騎士殿。この館に何用ですか?」
あ、この人凄い。精霊が守護に憑いてる。
額に守護紋が視える。
偶に、本当ーに、極稀に守護精霊が加護として人に力を渡すと額に紋様が出る。
紋様によって守護内容が分かったりもする。
この方は花を中心に蔓の葉が絡み合う紋だ。植物の精霊の守護なんだろうとは思う。
詳しく視れば分かるけど、あまりジロジロ視るのも失礼なので。
〈此のお方はかなり上位の精霊じゃよ。紋の色が金を帯びておるじゃろ。力のある精霊じゃな〉
『じじさまでも正体分からないのか。すごーい』
マアディン近衛騎士が恭しく頭を下げて訪問を謝罪する。
「スティル・ヴェクステル館長殿。急な訪問で申し訳ない。しばしお時間を頂けないだろうか」
館長さんは私をチラリと見ると、「こちらです」と案内してくれた。
大きな扉を抜け、エントリーホールは吹き抜けで大きなシャンデリアがぶら下がっている。
あまりの高さに思わず口をポカリと開けて見上げていたら、マアディン近衛騎士に指先でそっと顎を上げられて口を閉じられた。
失礼な。
レディーの顎先に触れるとは。
はたと気付き、その指先をペシリと叩いた。
マアディン近衛騎士、双眸を緩めながら苦笑いしてますが。
プンと腹立ち紛れに「デビュタントした女性に無闇に触らない!」と苦言を呈した。
「レディーの口の中に虫でも入ったら大変だと思いまして。失礼致しました」
わざわざ騎士の礼をしながら謝る割には、すっごーく楽しそうな顔してますね!
枕元に親父さん立たせちゃうわよ?
ヴェクステル館長さんは終始そのやり取りを楽しそうに眺めていた。
ちょっとは止めて欲しいもんだ。
案内されたのは、本棚が壁一面にある図書館のような応接室。図書室に応接室があるのか?溢れた本が山積みされているのは応接室としては如何なものかと思うのですが。
「マアディン近衛騎士殿と御令嬢。お座りください」
促されてソファーに座る。
ヴェクステル館長も座ると徐ろに喋り始めた。
「マアディン近衛騎士殿がこちらに来られるの珍しいですね。一応初めての御令嬢もいらっしゃるので、自己紹介いたしますね。わたくしは館長のスティル・ヴェクステルと申します。お嬢様のお名前をおきしてもよろしいかな?」
「ご紹介に与りまして光栄にございます。私はルヴェナート・レベナン子爵が娘、ソルシエレ・レベナンと申します」
お互い座ったままでの略式挨拶で済んでよかった。カーテシーは面倒で嫌いだ。足が疲れるし。
館長さんはとても顔が整った美形さん。髪はサラサラだし目鼻立ちはスッとしてるし。女装できそうな美人さんだ。
それよりも、額の精霊紋が気になるけど。
『じじさま、わかる?』
〈分からんよ。上位は名すら畏れ多いのじゃよ〉
正体は諦めた。じじさまが無理な時は無理なのだ。じじさまも視れないならと、今度は部屋を観察することにした。
色々いらっしゃるので視て飽きなかった。
◇◆◇
「……ナン令嬢。レベナン嬢、聞いているか?」
「へっ?何がですか?」
「聞いてなかったのか?」
呆れ顔を向け、むうと眉間に眉をよせるマアディン近衛騎士。
「私、なんでここに連れてこられたかも知りませんし。説明不足じゃないですか!?」
ジト目で不満をぶつけた。ぷぅと頬が若干膨れるのは言葉を飲み込んであげたからだからね!
この脳筋!短慮!
「ああ。悪かった。説明するより来た方が早いと思ってな」
「もー。人を振り回しといて酷くないですか?王子様からの仕事を残してここに連れて来たのに」
じじさまと話してたり、周りの観察で話を聞いなかったのは内緒だ。
だって興味ないし。来た理由聞いてないし。
再度説明してくれるって。当然よねー。
面倒臭い顔してるね。ちゃんと聞いてあげるから口をへの字にしないの。
「この魔法館には色々な魔法使いがいる。氷の魔法使い、火の魔法使い。付与魔法使いや防御魔法使い。あと、呪術魔法使いだ。今回のことを考えると、君も呪術者に話を聞いた方がいいと思ってな」
真剣な口調に私も流石に気を引き締めた。マアディン近衛騎士も私の様子を伺いながら話しを続けた。
「だから、レベナン嬢の能力を此方に説明してもいいかと聞いたのだ。どうだろうか?」
「私の能力を?」
「ああ。ここの呪術者は今回の捜査に協力して貰っているが、力を合わせれるなら心強いだろ?」
そう勝手に言われても。
この能力で嫌な思いばかりしてきた。デメリットしか思い当たらないのに自分から話すのは躊躇われた。
「話しても外部には漏れませんよ。誓約があるので安心してください」
俯いて悩んでいた私はパッと顔を上げてヴェクステル館長を見つめた。私と目が合うとニッコリと微笑むと周りの精霊達がポワポワと光っている。
嘘は言ってない。
そう伝わってきた。
「私のことが外部に漏れない条件で、お話します」
肯定とばかりに頷くヴェクステル館長に私の能力を話した。
「なるほど。霊体が視えるのですね。特殊な世界を視ることが出来るなど凄いことだと思うのですよ。貴女には困ったことなのでしょうけど」
視えること。視えて困ること。
話せる範囲の最小限を伝えるとヴェクステル館長は納得したとばかりにパチリと手を合わせた。
「ここの館にいる大半は貴女と同じ様な悩みを抱えてます。特殊故にここに居るのですから」
ーー私の苦労はここの人達と同じ……。
そう聞いてハッとヴェクステル館長を見上げた。
悲しげに寂しさを含んだ瞳が睫毛に翳るのを見た。
特殊故に、ここに居る。
家族と離れ寂しいこの館で過ごしたと。
私は神殿でダンおじちゃんに会えて楽しかった。
両親は居なかったけど、寂しさをダンおじちゃんが埋めてくれた。
この違いに心がギュッとした。
胸を押さえて心の奥から暖かさが溢れるように感じた。
「??どうした?具合悪いのか?」
胸を押さえた私を心配してくれたマアディン近衛騎士。身を起こし大丈夫だと手を振り居住まいを正した。ヴェクステル館長は私の息が整うのを待つと話しを聞いてきた。
「レベナン嬢に、私の守護はどのような方なのかお聞きしてもよろしいかな?」
「ヴェクステル館長は……。人ではなくて。力のある方が憑いている、と言うか。守護してます」
「力のある方とは?」
「………精霊、です」
私の視えたこと、じじさまの言ったことは正解だったみたいで、驚かれた。
誓約もこの精霊が関係しているらしい。
詳しく聞きますか?とヴェクステル館長に微笑まれたが。
詳しくは知りたくないので遠慮した。
これ以上関わりたくないので。
関与は拒否します!
ご読了ありがとうございました。
次話もよろしくお願いします。