第五話 なんとかセーフだった。もう、ほんとに危なすぎる件
「あっ、これ、言っちゃダメなやつだった、?」
目をうるうるとさせ咲良が上目遣いをしてくる。
「え、あ、いや」
ダメに決まってんだろ! 有無を言わせずNOだ! NO!! これはまずい、まずすぎる。親友の悠だけでも十二分にまずいが今回はレベルが違う。クラス全体に響き渡っちまってんだよ、どうすんだこれ。
「ご、ごめん、! わ、私つい、!」
咲良の瞳は「うるうる」を増していき、更には顔も、いや耳の方まで真っ赤になっていた。
(なにやってんの私!!! 一番言っちゃ言えないこと言っちゃったあ!! やばい! やばい! 絃君に嫌われた?! もう相手してくれない?!)
「お、おい。絃、これは本当なヤツか?」
悠が真剣な面持ちで俺に尋ねる……がホントだよ! なんて軽々しく言えるわけあるか!! この状況で本当の事を口走ってしまったら色々とまずい、いや、もう既にまずいのだが。まあ取り敢えずここは弁解にまわっておくのが無難だ。
「い、いやいや違う! 本当じゃない! ほんとに本当じゃない!」
すると咲良の表情はどこか浮かない悲しげな表情になった。……俺、なんか悪いことでも言ったのか?
「……え、? あ、そうだよね。絃君はもう忘れちゃったよね」
(そっか、やっぱり私の勘違いだったのか。絃君は優しくて誰とでも接してくれるし、私は単に一クラスメイトだったんだ。もうあんな前のあんな昔の事、覚えてないよね。ましてや名前まで……。こんなに思い続けてきたのは私だけだったんだよね。そう、あの日……)
「絃君が女湯で女の人のおっぱ──」
「ちょっとまてええい!!」
俺は柄にもなく大声を出してしまった。それもそのはず、俺がとめなけりゃ咲良は恐らく一番まずい所を口走っていたようだからな。このもう既にまずい事を口走ってまずい雰囲気になってしまった中さらにまずい事を言えばさらにまずい雰囲気になることは容易に想像がつく、危ない危ない止めておかなければ本当にまずい事を言われて取り返しのつかないレベルでまずくなる所だった。
「どうした、絃。急に大きい声出すなよ。加藤さんもビビってるだろ」
確かに悠の言っていることも一理ある。現に今ここはクラスの注目の的になっているからな。だがしかしこれが最善策だったのだよ。そしてやはり、こんな注目されている中話を進めるのもあまり良くないよな。
「悠、悪い。加藤、いや咲良、場所を変えて話をしよう」
「う、うん?」
咲良は少し驚いたような顔をして俺を見つめた。だがそんなことはお構い無しに強引に咲良の手を握り教室の外へ連れ出した。
「お、いってら」
しかし、不本意な事に俺たちが教室へ出たあともこの話題で持ち切りだった。そこまで多くは話されてないし、長くも話してなかったが、クラスメイトにはかなりのインパクトを与えてしまったようだ。なんせあの咲良さんだからな。
♢ ♢ ♢
「嘘だろ……? 篠崎と加藤さんが風呂に入った?」
「流石に嘘だろ! なんて言いたいが問題は加藤さんから言い出したんだよな。ふ、マジだったりして?」
「もしまじだったとしたら大ニュースも良いとこだぞ。なんせあの随一の美少女が心を許して風呂に入ったなんてな」
「ああ、そりゃ大ニュースだな」
「ねーね。加藤さんの話、本当かな?」
「んー、どーだろーね。でも流石に嘘じゃない?」
♢ ♢ ♢
「わ、悪い、強く引っ張りすぎた」
「はぁ……っ! あ、!? いや!! 全然?!?!」
こいつほんとに大丈夫か? あらゆる所真っ赤になってるけど……。
「こっちこそごめん……。一緒にお風呂入ったなんて言っちゃって……」
「やっぱり、覚えてたのか? もう何年も前の事だが」
「う、う、うん。たまたま、たまたま」
(い、言えない、! ずっと思い続けてたなんていえない!)
「あのさ、咲良、悪いけど、その件については黙っててくれないか? 学校随一の美少女と俺なんかが一緒に風呂に入ってた事がバレると色々と俺の立場が危うくなる気がするんだ……」
いや断言出来る。これは俺の立場が危うくなる。
「わ、分かった。こっちこそ。ごめんね。ホント身勝手なことして」
「いやいや、咲良が謝る事じゃない。元々その場に居たのは俺だったし、あんな修羅場忘れる方が難しいよな」
それからしばしの沈黙が続いた。
「って事で俺は教室へ戻る。咲良も早めに戻った方がいいぞ、もうすぐチャイムが鳴るからな」
「う、うん……」
「それじゃ──」
なんとか収まったな、これで良かったんだな。わざわざ俺が距離を縮める必要などなかった、咲良はもっと冷たい奴かと思ったら噂に聞いたよりも随分と優しい奴じゃないか。……問題はこの後のクラスメイトへの弁解だな。
俺はほっと一息教室へ戻った。
「き、緊張した……」
一人取り残された咲良はボソッと呟いた。
もし、よければ下の☆☆☆☆☆から評価、ブックマークの登録をお願いします。