第四話 新しい生活は失望が多すぎる件
俺が小学生〜中学生の間に、俺に関するある噂が広がっていた。それは「篠崎、女湯に入った説」
どこからこの情報が漏れてしまったのかは全く検討がつかないが、火のないところに噂は立たぬ。こうなる事は必然だったのかもしれない。
このどこから漏れたのか分からない「篠崎、女湯入った説」は瞬く間に校内を駆け巡り、俺=女湯で定着する程の知名度を誇っていた。おかげさまで女子に近づこうものならば
「ねえ、〇〇ちゃん?」
「なに、キモイ」
こんな程度に嫌われていた。
しかし、こんな生活ともおさらば! イベントの卒業&入学が俺を励ましてくれた。高校ではごく普通の在り来り高校生でありたい。俺はそう願い続け、高校では楽しく過ごしたい! なんて思っていた。
しかし、そんな切実な想いがついに実を結ぶことは無かった。
♢ ♢ ♢
高校入学式。俺は絶対に失敗してはいけない。ここで取り戻す、恨みを晴らす「篠崎、女湯入った説」が存在しない新しい土地で。
そのための最重要ポイントは入学式での第一印象。ちなみに俺は春休み中、自分磨きに徹底していたので服装や髪型はOK。問題は社交性だ。
下手に出しゃばりすぎない、だからといって陰キャダダ漏れの印象は避けたい。
そんな事が頭の九割をしめていたころ。
全ての元凶、忘れることなどできない名前が入学式、そこではこう記されていた。
加藤咲良
「ふっ、終わった」
俺はひっそりとそう呟いた。
♢ ♢ ♢
それからというもの俺はこれをポジティブに捉え加藤咲良と親睦を深めどうにか口止めして貰おうと試みた。しかし結果は
「こんにちはー! 加藤さん!」
「……な、な、な、なんですか」
「加藤さん! 一緒に昼飯食わない?」
「……な、ッ」
来る日も来る日も失敗した。
「加藤さん! 一緒にかえろー!!」
「……ッ」
そして遂に俺の心は
「加藤さ……ッ」
「アンタさ、加藤さんが迷惑がってんの見て分からない?!」
「あ、いや、それは、ごめ……」
「下心丸見え。……きも」
加藤の取り巻きによっていとも簡単におられた。
「キモイ」その言葉は俺の頭の中で何度も何度も再生され続けた。そしてその度に嫌な過去とリンクした。戻ることはない、そう思っていた過去を……。
「……ごめん、ちょっと言い過ぎたかも」
「…………」
俺は話すことをやめ、存在感を消す。女湯に入っていようがいまいが俺はキモかったのだ。加藤の立場になって考えてみれば良かった。確かにキモイかもしれない。
「……しの、篠崎!!」
「…………」
──ガラガラッ
どうせキモイ奴ならばキモイ奴のキモイ話などする事はないだろう。俺はどこかほっとし、悲しいような嬉しいような複雑な心境のままだった。一方の加藤咲良は自慢の美貌を活かし校内では噂の一年生や学園一の美少女などと謳われ俺とは程遠い存在になっていった。
♢
入学式、私はその名前を目にした。
篠崎絃
何度も頬をつねり目をこすってもみた。しかし、そこにはしっかりと篠崎絃、そう記されていた。嬉しかった、嬉しすぎた。何度も夢見たその人にもう一度会うことが出来たのだ。しかし私の事なんか忘れてしまっているかもしれない、そんな不安が舞い上がる私をどうにか抑えこんだ。でもその心配はいらなかったのかもしれない。
「こんにちはー! 加藤さん!」
彼は妙に私にだけ話しかけてくれた。いや実際の所は私にだけじゃなかったかもしれない。でも私にはそう見えて仕方なかった。
「……な、な、な、なんですか」
私は昔からテンパると思ったことが口に出せない。そう、今みたいに。
でも彼は何度も話しかけてくれた。
「おー! 加藤さんのご飯美味しそう!」
「あっ、あ、っ、ありがとうございます……」
「加藤さん! 一緒にかえろー!!」
「……あ」
「はは、ごめん……。流石に無理だよね」
「ぃ、いや」
「じゃ、また明日ね!」
「ぁ、ぅん」
でも彼はある日を境にパッタリ声をかけてくることはなくなってしまった。篠崎くんを前にすると上手く話すことが出来ない私は遂に愛想尽かされてしまったのだろうか、そもそも篠崎くんが特別、話しかけてくれていたと思っていた事自体がやはり単に思い過ごしだったのだろうか。幾つもの考察が私の頭を駆け巡った。私は嫌われてしまったのかもしれない。
そしてある日思い立った。待っているだけでは何も変わらない、この現状を打破する為には私から行動を……。私は真偽を確かめるべく行動に移した。
そこで私が立てた作戦はあの時、温泉での話をキッカケに距離を縮めよう。という作戦。しかし、オブラートに包まず「温泉一緒に入った事覚えてる?」なんて事を言うのは絶対にNG! 私があの篠崎くんと温泉に入ったことがバレてしまうと流石にクラスの視線が怖い……。くれぐれも気をつけなければ。
そして迎えた決行日。風呂はNGということを心に留めその事だけを考えていた。
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