第三話 初恋の人ミスりすぎてる件
一目惚れ、この言葉がこの上ないほど私に似合っていると思う。あの日、何気なく行った家族旅行の日で私は一目惚れをしたのだ。
家族旅行、お母さんと一緒に私は有名なホテルへ来ていた。
私と彼との初対面の日、なぜか彼は女性の胸を揉んでいた。
「違うんだ! ほんとに!」
なんで男の子が女湯にいるのだろうか、なぜ胸を揉んでいるのだろうか、一体何が違うのだろうか、様々な事が私の脳裏を駆け巡った。でも、何よりも、彼は、私の好みだった。私は身の程知らずにも恋をしてしまったのだ。
加藤咲良、私は小さい頃から沢山の人達に囲まれて生活してきた。
「おい咲良! 一緒にサッカーしようぜ!」
「咲良ちゃん! わたしたちと折り紙やろー!」
「放課後一緒に遊びましょ!」
なぜこんな私に着いて来てくれる人がこんなにも沢山いるのかは分からない。ずっと優しかった、楽しかった、嬉しかった。でも片時もあの修羅場すぎた出来事が頭から離れることは無かった。勿論彼の事も。それから私は小学生、中学生と上がっていった。あろうことか私は中学生になっても尚彼のことを忘れることは出来なかった。私にとって初めての恋、初恋は変な人だった。
──ガラガラッ
「ねぇ、僕?」
私がお風呂のドアを開けると彼は胸を揉んでいた。
「あッ……ごめんなさ……」
お姉さんに謝る彼。
「──?!?!?!」
驚きで私は声が出なかった、明らかにヤバい状況へ突っ込んでしまったこと、私と同年代の男の子がいた事。
「い、いや違うんだ! ほんとに!!」
──ザバン
「今度からは気をつけるのよ」
そう言ってお姉さんは立ち去っていき、私たちはこの気まずい状況の中二人きりになった。
「はは! 誤解はして欲しくないんだけどさ、僕転んだだけなんだよ」
「そ、そうなの?」
「そんなとこに突っ立ってないで風呂、入りなよ」
(こりゃ完璧に詰みだ。こんな裸の美少女を前にして俺の息子がもつわけないだろ!)
彼は私を気遣い風呂へ入る事をすすめてくれた。
「うん」
私はそれに素直に応じた。そして
「でもさ、君あがらなくていいの?」
「ああ。君も小学生だろ? 一人で入ってたってきっと退屈だからさ。僕と少し話し、しない?」
(なにをいう馬鹿野郎! 今たったら俺が勃ってんのバレるだろうが!!)
彼は再び私を気遣ってくれた、彼の美しい笑顔と相まって私は完璧に恋に落ちた。
「ぁりがと」
「いやいや、僕も丁度暇だったし! 僕もうれしいよ!」
(あっぶねえ。危機一髪ッ。断られたら今度こそ詰みだったぜ……)
あろうことか彼が私と話せて嬉しいと言ってくれたのだ。この言葉が私にとってどれほどの価値を帯びるものか言葉に言い表すことなどできない。
「てかさ、君なんて名前なの?」
「私は加藤咲良」
私は頭が真っ白になっていた。なんで女湯にいる理由、お姉さんとの関係……聞くべきことを聞くことが出来なかった。
「いい名前だね。僕は篠崎絃」
「篠崎くん……」
「いやー参ったね。君のような美少女がこの銭湯へ来るなんて」
(コレは思わぬ収穫だったがS級美少女のお体を拝ませて貰うなんて滅多な事じゃないぞ)
そして私は彼に美少女認定されたのだ。
「美少女、?」
「あ、うん」
(やべ、よくよく考えてみれば変な事口走っちまった……)
そして彼は照れ臭そうに笑って見せた。
私は今まで人からそんなこと言われたことが無かった。しかし今日言われた、それも出会ったばかりの初恋の人に。
♢ ♢ ♢
それから私たちは沢山話した、沢山沢山話した。でも私はもう覚えていない、頭が真っ白で内容が全く頭に入っていなかった。どうにか思い出そうとしてもここまでが限界だった。
修羅場からしばらくして私は相も変わらず平穏に過ごしていった。時には告白だってされることもあった。
でもその度に思い出してしまった。優しく微笑みかけてくれた彼な事を。私はなぜ彼に惚れ込んでしまったのか分からない。でも忘れることは出来なかった。
そして迎えた中学校の卒業式。遂には彼が転校してくることは無かった。彼が私の中学校に転校してくるなど万に一つもない限りないぜろ、奇跡でしかなかった。そんなものに縋っては現実に叩きのめされていた。
その後私は高校へ進学した。でも私は彼を忘れようとしていた。いつまでも奇跡を願っていてはダメだ、現実を見なければ……。
心機一転、私は初恋を捨て新たな恋に励もうと心に誓った。JKなんだから彼氏の一人や二人でもつくって楽しい高校生活をなんて思っていた。……二人はダメか。
しかし、初恋の人は忘れさせてくれなかった。入学式の日。奇跡を捨てた加藤咲良の元に現れた。
篠崎絃、彼はそこにいた。再び私の前に現れてくれた。桜の花びら、そして私は二度目の恋をした。
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