第二話 銭湯が修羅場すぎる件
強く握られた俺の拳には夢と希望があふれんばかりに詰まっている。
カウントダウン。
──五
俺は手をグーパーグーパーとさせあたかも試合前の様な雰囲気を放つ。
──四
目の前のターゲットを確認する。幸い俺の事など見向きもしていない。恐らく満月の景色を見ている事だろう。
──三
右足を後ろに引き体勢をとる。
──二
体を前進させる。
── 一
いまだ!! 俺は勢いよく水面を走った。がむしゃらに走った。無邪気な子供を演出する為の罠。この計画を成功させるため!!
よし! 目の前の出っ張りまで残り数センチ。
きたきた!! きたぞ、目の前に!!
うおおりゃああああああ!!!! いっけえええええええ!!!!!!!!
──ッ!
一瞬の静けさと共に俺はコケた、完璧なコケだった。誰が見てもふざけた小学生が受けた天罰に見える事だろう。しかし問題はこの後だった。
──やばい、沈む……ッ!
あろうことか体制を崩してしまい水面が迫ってきていた。焦りは禁物! 焦るな! 焦るな!
冷静になれ! 飛距離を伸ばせターゲットまで伸ばせ! あと少し! あと少し! 踏ん張れおれ!!
──い、いける……!!!
目にお湯が入ったがそんなのお構い無しに手を伸ばす。
諦めるな俺!
あと! 一歩!!!
決して後ろはふりかえらない
信じるべきもの、信じていいいいのは自分だけ!!
今や俺に天使など宿っていない!! 悪魔が俺にささやいた。
やるなら今だと。小学生の頃にやっておけよと!!!
心に誓い、俺が手を伸ばした先には……
きっと珠玉が待っていると信じて……!
「……あッ」
──とある女湯。小学生の俺が練に練った作戦の末、ついに今『女湯で美人のパイを揉もんじゃおう大作戦』は
……「成功」をおさめた。
……こ、これが珠玉、、!!
俺は頭が真っ白になり思考が停止してしまった。
小学生の俺には刺激が強すぎた。どこか温かく、それでいて癒されるような感触……柔らかい、! 心地いい! 安心するような……ずっと揉んでいたい……不思議な感触……! 嗚呼悪魔様よ、感謝のお言葉しかありません……。ありがたやありがたや、神様、仏様、美人のおっぱい様ァ──
だがしかし俺の目は覚めた。無情にも覚めさせられることとなった。
──ガラガラッ
勢いよく扉が開く。恐らく母親ではない。いつもの事ならまだまだ時間が足りていないはず……。となると一体誰、? 俺たちの他に誰かいたのか?
焦りつつも俺が扉に目をやると、そこには目を点にして絶句している美少女が目に映った。パッと見で同い年って所だろうか。
ほ、ほんとに小学生か、? や、やばい、可愛い……、俺の小学校にこんな子いねえぞ……。
──すると俺はとんとんと肩をたたかれたような気がした。
……不覚にも俺は気を取られすぎていたようだ。
「ねえ、僕?」
お姉さんからはただならぬ笑みが向けられていた。笑みと言いつつも笑っていない、いいや笑ってるんだが笑っていない!!
「あッ……! ご、ごめんなさ……」
俺はとっさに弁解する。が少し遅かったようだ。
「──!?!?!?!?!?!」
そこには声にならない悲鳴をあげる彼女がいた。
綺麗なボブカットに綺麗な瞳、その瞳は今にも涙が零れそうなくらいうるうるとしていた。それもまた可愛かった……。
「い、いや! 違うんだ!」
「ほんとに!!!」
何も違くない、俺は列記とした変態だ。罵倒されても仕方ない程の変態だ。しかし俺から出た言葉は、紛れもない。自己保身へ走った言葉だった。
♢ ♢ ♢
「おーい絃! 授業終わったぞ!」
俺の頭に机の音が響いた。
「──ん」
「起きたか、……学校で居眠りなんて珍しいな」
俺の親友、佐々木悠いつも気にかけてくれる優しい奴だ。今回だってわざわざ俺の机まで来て俺を起こしてくれている。それに
「……お前顔色悪いぞ?」
「……ちょっと嫌な過去を思い出しちゃってね」
些細な事でも気にかけてくれる。
「嫌な過去……? 聞かない方がいいやつか?」
「あ、まあ、うん」
「そっか、なら俺からは聞かないでおく」
やはり優しい、俺の高校生活唯一親友らしい親友だ。俺は特別人付き合いが得意なわけでもない。だがコイツといるときは楽しく笑っていられた。
それから俺たちは「朝飯何食った?」「昨日のアニメみた?!」なんて談笑していた、ま、いつもの光景だ。なぜだかコイツといると心が休まる、高校生になってからというもの色々張り詰めて生活してきた。あの日から俺の悲劇は始まった。忘れもしない入学式の日……。
♢
すると俺たちの話を遮るようにかカツカツと足音が聞こえてきた。
俺達には別に関係ないだろう。なんて考えていた、が、俺の予想とは反して、カツカツ、その音は次第に大きくなっていった。まさか向かって来ているのか? やめてくれ、お願いだから!
俺には絡まれたくない人物が教室の中に一人いる。その理由は単に『嫌い』という生半可な理由ではない……。俺は今、途轍もなく嫌な予感がしている。
どこからともなく鳴り響いたコツンコツン、しばらくしてその音はやんだ、要は目的地に着いたという事だ。……そして案の定彼女はこちらへ向かって来ていたようだ。
「俺達に何か用?」
目をやるとそこに居たのは学園一の美少女の加藤咲良だった。そして彼女はやけに顔を赤らめていた。
俺は一刻も早く話を切り上げなければならなかった。そうしないとイケナイ理由があった。まずいまずい、悠がいる状態で咲良が口を滑らせれば……と考えるだけで末恐ろしい。俺はなにか嫌な予感がした。的中しないといいのだが。
「…………」
「……なに?」
俺はある理由から彼女の事は極力避けてきた。俺に用などないはずだ。やめてくれ、やめてくれ!
「あっ、あ、あのさ、、! 絃くん! わ、私と一緒にお風呂に入った時の事覚えてる、?!」
なんでえええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
クラス中の突き刺さるような視線と共に彼女から放たれた言葉は、俺の高校に終了を告げた。
もうクラス中がざわつき始めた、ほらいわんこっちゃない。
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