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薬売りと魔王  作者: 望月 かれん
第1章
9/31

忠告

 エリスが店から出るとそれを待っていたように

とんがり帽子を被った魔法使いが声をかけてくる。待ち伏せしていたようだ。


 「やぁ、こんにちは。私の事覚えてるかい?」


 「……知りません。人違いでしょう」


 エリスは魔法使いを軽く睨んだ後、早足で歩き始めた。

ベルゼブブが小声でエリスに話しかける。

  

 「……アイツ……タシカ……」


 「パッカツで会った。でも……」

 

 「ちょ、ちょっと待って!今は君を連れていくつもりはないんだ!話だけでも聞いてほしい!」


 エリスは頭だけ振り向くと魔法使いを見据える。

知らないフリをしても無駄だと思ったようだ。


 「油断させて捕らえる気ですか?」

 

 「そんなつもりはない!話があるだけなんだ!

来たのも私1人。騎士達は連れてきていない!」


 「……シバル?……」


 ベルゼブブが魔法使いに手を向ける。

 すると魔法使いが両手を前に突き出した。


 「……使い魔かな?縛るなら縛ってくれ。

私は危害は加えない」

 

 「……両手を封じさせてもらいます。終わったら解きますから。その条件で話を聞きましょう……」


 「ありがとう。立ち話もなんだから移動しようか」


 エリスは魔法使いの両手に手をかざすと呪文を唱える。

するとバチバチと音を鳴らしながら稲妻のようなものが彼の両手を囲んだ。輪は徐々に縮まっていき両手に触れたかと

思うと跡形もなく消えた。


 「これは……うん、動かせないね」

 

  魔法使いの状態は変わっていないが彼は手を動かそうとしているようだ。

 何故か彼は少し満足そうに頷くとエリスについてくるように声をかけた。






 魔法使いが案内したのは酒場だった。多くの冒険者で賑わっており、様々な会話が飛び交っている。

 2人は隅のテーブルに腰を下ろした。エリスが険しい表情で口を開く。このような場所は得意ではないようだ。


 「なぜ……」


 「ここなら多少真剣な話をしても大丈夫と思ったからね。……改めてこんにちは、私はジョルジュだ」


 「……ジョルジュ。アレキ――」


 「待って、それ以上言わないでくれると助かる。

お忍びなんだよ」


 慌てて身を乗り出すジョルジュにエリスは呆れたように目を細めると口を閉じた。


 「……ありがとう。それで本題に入らせてもらうけど、

父はエベロス家をよく思っていないみたいで、勝つ事しか考えてない。

 それで戦争に関しては聞く耳を持たなくて私や周りが何を言ってもダメなんだ」


 「………………………」


 「私はできることなら穏便に終わらせたい。とても高い理想だとわかってはいるけどね。今までお互いに相当な犠牲を出してきたから、今更話し合いで解決しようと言っても聞いてはくれないだろう」


 エリスは複雑な表情を浮かべながらジョルジュの話に耳を傾けている。 


 「仮に私が加わっても同じでしょう。それにあなた方が前線に立てば戦況をひっくり返す事ぐらい簡単なのでは?」


 「そうしたいんだけどね、父が許してくれないんだ。どうもジワジワと攻めるのが好きみたいでね。

 1度弟が前線に立った時があって、長い時間説教を受けてたよ」


 「変わった方ですね」


 エリスの言葉にジョルジュは困ったように眉を下げただけだった。それからエリスは何かを思い出したように声を漏らす。


 「1つお尋ねしても?」


 「何かな?」


 「なぜ私の居場所がわかったのですか?」


 ジョルジュは大きく息をすると口を開く。


 「パッカツで君が意識を失ってる間に追跡魔法をかけたんだ。君と対面したのに何もしなかったじゃ、父や重鎮達から

こっ酷く言われるからね」


 「確認ですが、私の存在はバレているわけですね?」


 「うん。五体満足で生かした状態で連れてこいって命令が出てる。でも君はそう簡単に従わないだろう?」


 エリスは小さく頷いた。その様子を見てジョルジュは安堵したように微笑む。


 「やっぱりね。いや、それでいいんだよ。もし父や弟みたいだったらどうしようかと思った。私とは気が合いそうだ」


 「……追跡魔法、解かせてもらいますね」

 

 エリスの言葉を聞くとジョルジュは残念そうに眉を下げる。


 「……そうか。信頼できる者には言ってきたんだけど、君の方が上手だったとでも言い訳しておこう」


 エリスが呪文を唱えると彼女をスキャンするように

黄色い輪っかが上から下に動いた。床につくと跡形もなく消える。


 「そういえばもう少し荷物が多かったような気がするけど、どうしたんだい?まさかどこかに置いてきたとか?」


 「そんな事どうでもいいでしょう」


 「よくない。実は荷物にも魔法をかけさせてもらったんだ。それで……この事を弟だけに伝えたんだけど

たぶんその荷物の場所に向かってる」


 ジョルジュの言葉を聞いてエリスの顔から血の気が引いていく。


 「まさか、人に預けたのかい?」


 「……はい」


 「それはまずい。君を匿った罪でその人達を連行するだろう。弟は父に似て容赦ないんだ」


 「行かなきゃ!」


 勢いよく立ち上がったエリスをジョルジュは複雑な表情で眺めている。


 「おそらく戦闘は避けられないと思うよ。弟は戦いが好きなんだ。それに、せっかく変装したのに行っていいのかい?」


 「………………それでも行かないと行けないんです」


 少し沈黙があったものの目に曇りのないエリスにジョルジュは小さなため息をつく。

 

 「そう……。あと、ひとつ忠告。次に私と会った時は戦うことになるだろう。

 ただ、五体満足と命の保証はあるけどね」


 「覚えておきます……」


 エリスは軽く頭を下げると早足で酒場を出て行った。

ジョルジュは後ろ姿を見送ると小さく声を上げる。


 「両手を開放してもらうの忘れたね……」


 彼の呟きは冒険者達の会話にかき消されていった。

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