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薬売りと魔王  作者: 望月 かれん
第1章
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ベルゼブブ

 「6年前だ。オレ様はある人間から喚び出されて「契約」を提案された。

 まぁ、お前の父親なんだけどな」


 「………………」


 「内容は「娘を最期まで見届けてほしい」。しかも事故や災難を除いて――つまり、それらに合いそうになったら振り払えって事だ。

 オレ様は当然断ったんだがな。子守りじゃねえって。

 だが、お前の父親は食い下がった。言うには近々死ぬ運命にあるそうじゃねぇか。思わず惹かれて理由を聞いちまったよ」


 「ヘー、タイチョーが惹かれることなんてあるんッスね」


 フード男はボサボサ男を軽く睨みつけた。しかし諦めたようにため息をつくと再び口を開く。


 「「私とその家族は生まれつき魔力の高いテオドール家の者だ。私達以外もテオドールと名のつく者は居るが、その魔力を手中に収めようとする者に見つかり、ある者は捕まって魔力酷使で死亡、ある者は魔力を争いに使われるぐらいならと自害した。それが原因で残っている者も少ない」と。

 で、お前の母親が時々予知夢を見る事があったんだとよ。     

 ある日自分達が襲撃され、お前だけ逃げ延びる夢を見てしまったってな」


 「……未来は変えられなかったの?」


 「らしいぜ。それ以前に何度も予知夢を見て、変えようと試みたそうなんだが、何らかの形で同じ事が必ず起こったってな。

 だからといって何でオレ様なんだよ、全く」


 「そりゃタイチョーが最強だからッスよ」


 「最強って……」


 エリスは素早くボサボサ男に視線を向ける。

彼は一瞬驚いてから軽く首を傾げた。


 「あれ?タイチョー、自分の事言ってないんスか?」


 「悪いかよ……。はぁ、仕方がねぇ名前だけ教えといてやる。ベルゼブブだ」


 ベルゼブブ。強い力を持っている悪魔の名。一部では魔王とも言われているようだが定かではない。

だが、魔法使いであるならば知らない者はいないだろう。

 目の前のフード男がベルゼブブだとは信じられないのか、エリスは小さく口を開けたまま固まった。ボサボサ男が彼女の反応を見ようと顔の前で手を振る。


 「おーい、生きてますかー?」


 「ベルゼブブ……。そんな悪魔……いや、魔王と「契約」を……」


 「ああ。相応の代償なら払ってもらってる。

 たが、召喚してもらわないと地上に出てこれない上に、

受肉しないとスームズに喋れねぇなんて仕打ちを受ける事になるとは。

 よくオレ様相手にやりやがったぜ」


 「そんだけ警戒されてるって事ッスよ」


 ボサボサ男の言葉にベルゼブブは機嫌が悪そうに顔をしかめる。


 「オレ様が強いって知ってるからだろうが……。「契約」はちゃんと守るってーのに」


 「……信じていいの?」


 「ああ!信じろッ!……ってオレ様の事信用してねぇのか⁉」


 ベルゼブブが怒りのオーラを出しながらエリスに詰め寄るが、彼女は戸惑いながら後退している。


 「言う事は聞いてくれるし、助けてもくれるけど完全には……。

 父からも「頼りにはなるけど絶対に信じちゃいけないよ」って」


 「あのヤロォ、盛大な置き土産していくんじゃねぇ!

 ……いいか、確かにオレ様は魔王だ。だが、結んだ「契約」はぜってぇ守る!裏切りもしねぇ!」


 「ヨッ、タイチョー、男前ッ」


 「……喧嘩売ってんのかテメェ……」


 ベルゼブブの怒りの矛先が今度はボサボサ男に向く。

 睨まれた彼は困ったように眉を下げた。


 「思った事言っただけッスよ。

褒め言葉なんですから怒らないでほしいッス」


 「だとしても今言うな!タイミング考えろ!」


 「ヘーイ……」


  2人のやり取りを見てエリスは小さくため息をついた。

しかしすぐに真剣な表情をすると口を開く。


 「……話は全く変わるのですが、今、私達はどの辺にいるんでしょうか?」


 「アレキサンドル領内にいる事は間違いないッスね。

 あ、あとそんな畏まらなくてダイジョーブ。

オレ相手にそんな事する必要ないッス」


 「……わ、わかった。……どうしよう、これからの行き先が……」


 エリスが深く考え始めた。するとボサボサ男が手を挙げる。


 「テキトーに周ってればいいんじゃないスか?」


 「たぶん私、指名手配されてると思うから適当には行動できない。

 アレキサンドルとエベロス帝国が長年争っていて、最近は大きな戦いは起こっていないみたいだけど、いつ起きてもおかしくないし……」


 「あー、だから騎士に守られながら移動してた訳ッスか。

……結局道具としか見てねぇじゃねぇかよ……」


 最後の方が早口だったため聞き取れなかったのか、エリスが不思議そうにボサボサ男を見つめる。


 「……大きな町には行けそうにないッスね。オレ、地上に

そこまで詳しくないけど。

 タイチョー、なんかいい考え無い

スか?」


 「いきなり話振んなよ。……コイツの事を知らないような場所に行くしかねぇんじゃね?」


 「でもそんな場所あるとは考えにくいから、隠れながら過ごすしか……」


 3人とも良い案が思い浮かばないようで、その場が静まり返る。

 いつの間にか雲が晴れて三日月が黄色く輝いていた。

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