後日談 焦るベルゼブブ
エリスがパッカツに留まって薬を売っている間ベルゼブブは町の中を散策していた。
フードを被っているので目にはつきやすいが、人々は
「魔法使い」ぐらいしにか思ってないようで、スルーしていく。
つまらないと思ったのか疲れたのか、ベルゼブブは人気のない路地に入ると無造作に置かれている木箱に腰掛けた。
すると、まるでその時を待っていたかのように頭上から声がかかる。
「タ〜イチョ〜、ここに居たんスね」
「おお、部下1号。どうした?」
ボサボサ男は地面に足を着けると少しムッとしながら口を開いた。
「どーしたもこーしたもないッスよ。まだ20本分貰って
ないんでねぇ。忘れたとは言わせないッスよ」
「……そーいやそうだったな……」
身の危険を感じたようでベルゼブブは素早く立ち上がると冷や汗を浮かべてジリジリと後退する。
アレキサンドルとエベロスの決戦の直前、ボサボサ男はベルゼブブを手伝う代わりに血液20本分を要求したのだった。
ボサボサ男は懐から手のひらサイズの注射器を取り出すとベルゼブブに詰め寄る。
「なら、話が早い。ちなみに容器なら毎回消毒してるんで安心してほしいッス。さあ、覚悟はいいッスね?」
「ちょ、待て!今からか⁉」
「ウズウズしてるんで」
「こんな所に――――あ」
ベルゼブブを探していたようでエリスが通りから顔を覗かせた。ボサボサ男に気づいて会釈する。
「ヨォ、エリス。ちょうどよかった。タイチョーを抑えててもらえないッスか?」
「……なにか怒らせるような事したの?」
「いや、約束の取引がまだ終わってないだけだ」
「あ……頑張って……」
労いの言葉をベルゼブブに投げかけてエリスは立ち去ろうとする。急ぎの用ではなかったようだ。
「待て!20本分だぞ⁉半分やる!」
「いらない」
「……そーいやエリス、アレキサンドルとエベロスとの戦いの最後の方で応急処置したと思うんスけど?」
エリスの足が止まった。覚えてはいるらしい。
ゆっくり振り返ると少し怯えた目でボサボサ男を見る。
「まさか……その為に処置を?」
「いや、純粋に死なれちゃ困るからだ。強制ではないが、ナニか貰えると嬉しいんスけどねぇ……」
ボサボサ男は不敵な笑みを浮かべながらエリスとベルゼブブにゆっくりと近づく。
「そんなに顔引きつらせなくてもいいじゃないッスか。
ダイジョーブダイジョーブ、大人しくしてりゃすぐ終わるんで」
「ま、待って。薬を売り終わってからにしてくれると助かる……。陽が沈むぐらいの時間になるけど」
「ちゃんとくれるんならいつでもいいッスよ。
なら、それぞれ10本分って事でいいッスね?」
「う、うん……」
戸惑いながらもエリスが頷く。何かを思い出したように
ベルゼブブが口を開いた。
「あー、そういえばオレ様も用事が――」
「フーン、そうなんスか?
俺にはヒマそうに町中歩いてるように見えたんスけどねぇ?」
「こ、困ってそうなヤツが居ないか見て回ってたんだよ!
なぁ?」
「え、そうなの?」
ベルゼブブはエリスの同情を誘ったがキョトンとしている彼女を見て小さく舌打ちした。
「そこは話合わせろよ⁉わかるだろ⁉」
「急に言われても……」
「タ〜イチョ〜?嘘はダメっスよ。
って事でタイチョーは今からッスね。ケヒヒヒッ!」
狂気に近い笑い声を上げるボサボサ男を見てベルゼブブはため息をつくと右腕を差し出した。
「……ほらよ。10本だからな。それ以上採るなよ」
「さすっがタイチョー!男前ッス!」
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ボサボサ男は満足したようで、協力のお礼なのかお手制のポーションを2つ置いていった。
翌日、2人は血を採られた影響で昼近くまで動けなかったらしい。




