果てしなく続く旅
2日後、アンスタン大陸では2つの話題で持ちきりになっていた。
1つは王国都市アレキサンドルの王ラング・アレキサンドルが行方不明になり、代理で2人の王子が切り盛りしている事。
もう1つはエベロス帝国の女王リーザ・エベロスが
国王マティス・エベロスを幽閉していた事が王子のレイン・エベロスによって発覚し追放され、マティスが王の座を取り戻した事だった。
近々2国で協議が開かれるとの噂もある。
エリスはというと、以前のようにアンスタン大陸内を転々としながら薬を売っていた。
「お前、どこかに定着しないのかよ?」
相変わらずフードを被っているベルゼブブは木にもたれながら近くで薬草を摘んでいるエリスに声をかける。
エリスは三編みにしたオレンジ色の髪を揺らしてベルゼブブを見た。髪は染めて直していないようだ。
「しない」
「そうかよ。した方がメリットあると思うけどなぁ。
イカナ村のじいさんとか喜んで迎え入れてくれそうだぜ」
「またいつ狙われるかわからないから、いい」
イカナ村での出来事を思い返しているのか、エリスが目を伏せる。
ベルゼブブは大きなため息をつくと再び口を開いた。
「そうかよ。
しかし、テオドールは恐ろしいな。お前の父親は「契約」に介入するし、お前は「契約」を上書きしやがるし。
普通の奴ならできねぇぞ」
「……介入って具体的に何したの?」
「……前にも話したが、最初オレ様を喚び出した時の姿が骸だったろ?本来なら今の状態で出てこれるんだが、
何をどうしたのか骸姿で出てくるように内容を書き換えられた。
まさか介入されるとか思ってなかったからよ、止めれる筈もねぇ」
当時の事を思い出したようで、ベルゼブブは怒りをを募らせている。
「そうだったんだ……」
「前も話したんだがな。
でも「上書き」して良かったのか?」
「うん。いちいち受肉させるの面倒くさくなったから」
あの戦いの後、エリスは上の理由でベルゼブブを常に受肉した状態で喚び出せるように「契約」を書き換えたのだった。
「まぁ、オレ様にとっても都合良いから文句はねぇが」
「なら、わざわざ言わなくてもいいのに」
「そんだけ凄い事したんだよ、お前は。
オレ様史上初だぜ」
「そう……」
ベルゼブブは素っ気なく返したエリスをつまらなそうに見ると再び口を開く。
「だが、今回の戦いでお前に課題ができたな」
「何?」
「体力つけろ。あと、時々魔法を使え。
あの時お前1人だったら死んでるぞ」
「………………」
自覚はあるようでエリスはうつむいた。
「あまり使いたくないから薬売ってるのに……」
「またどこかで争いが起きてもおかしくねぇんだろ?
その度に巻き込まれて吐血すんのか?」
「もうあんな真似はしない。もし捕まることがあったとしてもどうにかして逃げる」
「ああ、そう。……まぁ、少しの間は大丈夫だろ。
で、これからどうするんだ?まさかずっとこの大陸に居るつもりか?」
エリスは少し考えてから顔を上げる。
「しばらくは。ドワーフや他の種族にも興味はあるから
気が向いたら大陸を移動する予定」
「そうかよ。なら、いい。ずっと同じ場所じゃ退屈だからな。
……それと、納得いってねぇ事が1つあるんだが」
ベルゼブブは木から離れるとエリスに近づいて腕を掴んだ。逃げないように保険をかけたようだ。
エリスは困惑しながらベルゼブブを見る。
「な、何?」
「お前、前に「捕まった方がいいかも」って言ったよな?
そう思ったのは事実だろうが、いつからだ?」
「イカナ村で匿ってもらったぐらいから……」
「嘘つけ。なら、なんで騎士共が探しに来た時に目を閉じてたんだ?」
「それは……」
言葉に詰まったエリスを見てベルゼブブが口角を上げる。
「見つかりたくなかったからじゃねぇのか?」
「…………………………」
「大方、大陸移動して会ったエベロスの影響だろ?アイツもお前と同じで平和を望んでるからなぁ。……それならアレキサンドルの爽やか野郎もそうか……」
爽やか野郎とはジョルジュの事のようだ。
エリスは気まずそうに横目でベルゼブブを見ると口を開いた。
「捕まるのは嫌だったけど早く戦いを終わらせた方が良いんじゃないかと思って。彼女の話を聞いてたら……」
「あっそう。まぁ結果的にアレキサンドルとエベロスの睨み合いが終わったから良かったんじゃねぇの」
ベルゼブブはつまらなそうに言うとエリスの腕を離した。
エリスは少しの間に自分の腕を見つめていたが、身支度を整え始める。
それをを見てベルゼブブが眉を上げた。
「どこ行くんだよ?」
「パッカツ。薬が売れなかったから」
エリスの言う事は最もで、町に着いて準備をしている途中にアレキサンドルの騎士に声をかけられ、ズルズルとここまで来てしまっていたのだった。
「はいはい。オレ様はテキトーにうろついてるからな」
「騒ぎを起こさないならいい」
「リョーカイ」
気の抜けた返事をしたベルゼブブをエリスは目を細くして
見つめる。完全には信じていないようだ。
「なんだよ、その目は。オレ様も町では魔法は使わねぇよ。
仕方がなかったとはいえ、アレキサンドルで痕跡残したのオレ様だからな……」
「そう。わかった」
エリスは渋々了承すると歩き始めた。どこかで貰ったのか、中ぐらいの皮袋を2つ手に持っている。先程まで摘んでいた薬草が入っているようだ。
「……さて、これからどうなる事やら。
このままずっと安泰は考えにくいな……ヒヒヒッ」
ベルゼブブは小声で言うとエリスの後を追った。
遂に完結です。
拙い文章ではありましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました!




