決着
4000字以上4500字未満。いつもより長いです
アンナを見たラング王の表情が怒りに包まれる。
「おのれ、ここまで来るとは。その髪色……忘れもせぬ!
エベロス!」
「ああ、私はアンナ・エベロスだ!
貴殿はラング・アレキサンドル王とお見受けする!」
アンナが丁寧に名乗ったもののラング王の耳には届いていないようで、でアンナを睨みつけている。
「貴様らが、貴様らのせいで………メリアはッ……!」
「メリア……?」
ラング王以外の3人が首を傾げる。エベロス家とメリアという人物には関係性があるようだ。
エリスは我に返るとアンナに向かって叫んだ。
「エベロスさん!ひとまずこちらへ!」
「あ、ああ……」
「させぬわ!」
移動するアンナに向かって黒い球体が襲いかかるが、
ベルゼブブがそれを赤黒い気を纏わせた足で蹴り飛ばした。
「ぬうッ⁉小賢しい!」
「ヒヒヒッ、残念でしたァ!」
ベルゼブブの助けでアンナがバリアの中に入る。
エリスが小さく会釈した。
「……あなたがテオドールか?」
「はい。初めまして。まずは王を止めましょう!」
アンナは一瞬目を丸くした。今のエリスが自軍の兵を倒した人物とは考えられなかったのだろう。
しかしすぐに頷くとラング王に視線を向ける。
「……ああ。話はその後だな!
なんだあれはッ⁉」
「エベロス、エベロスゥッ!」
ラング王からおぞましい気が放たれており、さらに白目を向いている事から正気では無いことがうかがえる。
「私にはよくわからないが、メリアという方がポイントか。遠い過去の話ではなさそうだな。先代の頃か?」
「…………」
エリスが眉を潜めているとベルゼブブが戻ってくる。
ローブの裾が少し千切れており、今の間に攻撃を受けたようだ。それに珍しく焦っている。
「マズい、憎悪で魔力が増幅してやがる!」
「でもあれだと消費が激しくて最悪の場合……」
「死ぬのか⁉来たばかりで言うのもなんだが、それだけは避けれないだろうか?
いろいろ聞かなければならないことがあるんだ」
アンナの言葉を聞くとベルゼブブがため息をついた。
「はー、わかったよ。あの老いぼれ気絶させりゃいいんだな?時間が限られてくるな。急ぐか」
「すまない……」
再び出ていくベルゼブブを見ながらアンナが申し訳無さそうに言う。
エリスがおそるおそるアンナに声をかけた。
「ところでエベロスさん、先程の土魔法はいったい?」
「ああ、この魔法剣で少し操ったんだ。
私は地脈を読めるからな」
アンナが剣を掲げる。エリスは少しの間それを凝視して口を開いた。
「確かに魔力がこめられてますね。……少しお借りしても?」
「……壊さないでくれよ。今回がお披露目なんだ」
「わかりました……」
エリスは慎重に剣を受け取ると意識を集中させる。
「少し試させてください。……ライトニングソード!」
振り下ろした剣先から雷撃が飛び出しバリバリと音を鳴らしながら一直線に走る。ベルゼブブは既でのところで避け、
ラング王は間に合わず右肩に穴を開ける事になった。
「グゥッ⁉」
「あぶねッ⁉オレ様を巻込もうとすんじゃねぇ!」
「……ごめん……」
そう言ったエリスはその場に座り込んでいた。辛そうに呼吸を繰り返している。やはり魔力の消費が激しいようだ。
「お、おい、無理はしないでくれ」
「まだ、大丈夫です……」
「そう言われてもな……」
「テオドール……エベロスを渡せえぇッ‼」
ラング王からベリアルが放ったのと同じ赤い触手のようなモノが飛び出す。
それはいとも簡単にバリアを破壊し、アンナの左腕に巻き付いた。
「くっ、させるかッ!」
アンナは自由の効く右手で左腕に巻き付いているモノを斬り裂く。しかしすぐに再生し、今度は右腕に巻き付いた。
「なっ⁉再生が早過ぎる⁉」
「エベロスゥッ!今までにない苦痛を味わわせてから消し去ってやる!」
「……セイントレーザー!」
エリスの放ったレーザーが長い触手のようなモノを次々と消してゆく。遠距離魔法のため
短い範囲を消すより、少しでも再生範囲を広げたほうが良いと判断したらしい。
「うッ⁉ゴホッ!」
エリスが吐血してうずくまる。量は少なかったものの体へのダメージは深刻なようだ。
「テオドール⁉くそっ、またか!」
アンナは迫りくる触手のようなモノを数本断ち切ると
剣を構え直す。
どうやらアンナだけを狙っているようで、エリスには全く襲いかからない。
「私だけを狙っているのか。……うまいこと避けながらラング王の所へ向かいたいが、別の魔法でテオドールを攻撃する可能性もある……。移動はできないな……」
アンナはそう呟くとエリスより数十歩前に出て臨戦態勢に入る。
ラング王は一層怒りを露わにし触手のようなモノの数をさらに増やした。
「エベロスゥ!その髪色を視界に映すだけでも腹立たしい!」
「……しかしな、どうやら私達は当事者ではないようだ。
私がエベロスなのは間違いないが、当事者に――あ」
アンナが声を上げたのと同時にラング王の脇腹に黒い槍が突き刺さった。
背後にベルゼブブが立っており、挑発するようにラング王を見ている。
「お、おのれぇッ……!」
「デメイションランス。やっと隙を見せたな、老いぼれ。
これは精神的なダメージを与えるやつだが、細工して少し
身体的ダメージも入るようにしてやった」
そう言うと持っている槍をさらに深く突き刺す。そこから血が流れ出し、ラング王からうめき声が漏れた。
「がぁッ!」
「おいおい、辛そうな声上げてんじゃねぇよ。
腹抉っただけだろうが」
「き、貴様ぁッ‼」
ラング王はベルゼブブを睨みながら触手ようなモノをとばした。
しかしベルゼブブに届く直前にそれが消える。
ラング王が力尽き、うつ伏せに倒れたからだった。
ベルゼブブは笑いを吐き捨てるとエリス達の元に向かう。
「はー、アンタが気を引いてくれて助かったぜ」
「引いたつもりはないんだがな。一方的だったし……」
「そうかよ。……おい、生きてるか?」
ベルゼブブはうずくまっているエリスの側に行く。
「……ゲホッ、……うん……」
「テオドールは持病でもあるのか?いきなり吐血して……」
「いや、魔力の使い過ぎだ。まぁ、今回の量なら普通のヤツでも寝込むか、コイツみたいなるか、運が悪けりゃ死ぬかだな。
たが、処置を急がねぇとマズい」
「なんだって⁉私達の陣営までは遠いし、かといってアレキサンドルが受けてくれるとは――」
「タイチョー、こっちは終わったッスよ」
その時、ボサボサ男がベリアルを担いでベルゼブブ達に近づいてくる。
ベリアルは逃げられないように体全体を黒い膜に覆われていた。
「いーーーやーーー!下ーーろーーしーーてーー!」
さすがに担がれている姿を見られるのは恥ずかしいようで、顔を真っ赤にしながら叫んでいる。
「嫌っス、よ‼」
ボサボサ男はそう言うと同時になんとベリアルを地面に叩きつけた。
地面にヒビが入ったがベリアルは黒い膜のおかげかダメージはなさそうだ。
しかし衝撃が伝わったようでそのまま伏せている。
「いったぁ⁉いきなり何すんのよ⁉」
「耳元で爆音出すのカンベンって言ったっスよね?
ちゃんと忠告はした。……そっちも終わったみたいッスね」
倒れているラング王を見ながらボサボサ男が言う。
「ああ……なんとかな……」
「タイチョーも疲弊してるみたいッスね。アレキサンドルの王だけあって苦戦――」
言いかけて周囲を見回したボサボサ男の顔が引きつる。
そして小さく舌打ちをするとエリスの側に移動して膝をついた。
「何があったんスか⁉いや、大方予想はつく」
「……私は、大丈夫だから……」
ボサボサ男は険しい表情のまま何かを呟くと右手に緑色の気を纏わせた。そしてその手をエリスの体にかざす。
「ひとまず処置はしたが、完治はしてないッスよ。
短い時間で魔法連発したら、またさっきみたいになるんで」
「…………ありがとう」
エリスはゆっくりと立ち上がると大きく息を吐いた。
ボサボサ男は呆れたようにエリスを見ている。
アンナが目を見開いたままボサボサ男に声をかけた。
「……前の時も思ったが、……ヒーラーなのか⁉」
「実験オタクッス。まぁ適性はあったみたいで」
「そ、そうか……。
とにかくラング王には後日説明を……居ない⁉」
アンナの叫び声に全員が息をのんだ。皆が目を離した一瞬の内にラング王の姿が消えていたのだ。
ベルゼブブはため息をつくと問い詰めるようにベリアルに近づく。
「何かしただろ?」
「べ、別にー、ナーンモしてないよ?」
「……部下1号ー、吐かせろ」
「イェッサー」
すかさずボサボサ男が移動してベリアルに関節技を入れた。
ダメージを和らげる膜の効果がボサボサ男に対しては効果が無いようで、ベリアルからミシミシと骨が軋む音がする。
「痛たただだッ⁉ギブギブギブ!言う!言うからッ!」
「……降参早過ぎッスよ」
ボサボサ男が呆れながら身を引くとベリアルは大きく息を吐いて話し出す。
「……アタシが魔法使ったのよ……」
「ワープか?だが――」
ベルゼブブが呟く。空や水上を移動する魔法はあっても誰かをどこかに飛ばす魔法なんて存在しないと考えられているからだ。
ベリアルは少し誇らしげに口角を上げた。
「悪魔だけ使えるワープ魔法があるんだよ。相当魔力使うしどこに飛ぶかわからないけどね。
知らない町かもしれないしモンスターの群れのど真ん中かもしれない。
知らなかった?」
「初耳だ。しかし余計な事しやがって」
「仕方ないデショ。「契約」の時にピンチになったらどこかに飛ばせって言われてんのよ。あのオーサマに限らず先代からだけどね。使ったのは今回が初めてだけど」
それからベリアルはボサボサ男に目を向けると眉を吊り上げる。
「っていうか女の子に関節技キメるとか
あり得ないんですケド!」
「技使う相手に男も女も関係ねぇッスよ」
「……そういや性別で加減とかしねぇもんな、部下1号は……」
ベルゼブブ達はは半分呆れながら2人の悪魔のやり取りを眺めている。
ようやく場の空気が落ち着こうとした時だった。
「そこまでだ!貴様ら!」
アレキサンドル側の兵士がぞろぞろとエリス達を取り囲んだ。




