対峙
ラング王は立ち尽くしているジョルジュを横目でちらりと見た後
エリス達に視線を戻す。
「洗脳を解くとは……」
「フン、テメェらの好き勝手させるかよ」
「やはり悪魔と「契約」しておったか。
テオドールも堕ちたな」
エリスの後ろに立っているベルゼブブを見ながらラング王が言った。エリスはなんとも言えない表情でラング王を睨んでいる。
するとベルゼブブが呆れ顔で口を開いた。
「人の事堕ちたとか言ってらんねぇだろ。お前から悪魔の香りがする。
そこそこ力があるヤツと「契約」してるな?」
「えっ?」
「な⁉…………フフフ、さすがは悪魔。同族と「契約」している者が分かるか。ならば隠す必要はあるまい。
出てこい!ベリアル!」
「ベリアル⁉」
ベリアル。元は天使だったとも言われている悪魔。
また、ベルゼブブと同じように悪魔のトップではないかとも言われている。
ラング王は声高らかに叫んだが何も起きない。彼は眉を潜めた後低い声で呟いた。
「……何を臆している?」
『だ、だって……』
どこからか女の声が聞こえてきた。しかし不安からか震えており語尾がはっきり聞き取れない。
「出てこんか‼」
ラング王に威圧されて彼の隣に黒い渦ができたかと思うと
そこから赤髪の女が現れた。何故か気まずそうに目を泳がせている。
「よぉ、部下2号。お前が「契約」したのアレキサンドルだったのか」
「………………………………………」
ラング王は普通に話しかけるベルゼブブを少しだけ見て
ベリアルに視線を戻す。
「まさかお前より上の悪魔なのか?」
「上もなにもボスだよ?トーゼン、アタシより上だよ。
っていうか、ナニモンなのアンタ?どーやってボスと「契約」結んだのよ?」
「オレ様と「契約」結んだのはコイツの親だ」
「親?チョット待って……ワケわかんなくなってきた……」
「今は「契約」の事などどうでも良い。早くこの者達を動けなくさせろ」
そう言うラング王の声には明らかに怒りが含まれている。
「わ、わかったわよ。ってコトで悪いわね、テオドール!」
ベリアルがそう言うと同時にエリスに向かって赤黒い触手のようなモノが空から飛び出した。
エリスは目を細めて身構えたが、ベルゼブブがエリスの前に飛び出してバリアを張り、ベリアルの攻撃を防いだ。
「ボス⁉」
「オレ様が黙って見てる訳ねぇだろ。
お前は自分を守る事だけに専念しな」
「う、うん……」
戸惑いながらもエリスが頷いた。ベルゼブブがベリアルを見据えて手のひらを向ける。
その時上空から声が降ってきた。
「はー、やっと追いついた……ってなんだこりゃ⁉」
ボサボサ男は地面に足をつけて全体を見渡すとラング王に目を向ける。
「あー、アンタ、アレキサンドルの王様?
悪いけどオタクのイキのいいお坊ちゃん、
少しシバいたッス」
「グラドを⁉……そうか」
ボサボサ男は驚いた様子でラング王を見る。口を開きかけたが諦めたように閉じた。
するとラング王の隣から声が上がる。
「げ、ゼルゼル!?ウソ!ゼルゼルもボス側⁉」
「……ヨォ、ベリアル。ああ、オレはタイチョー側ッスね」
「ゼルゼル?……もしか――モガッ‼」
ボサボサ男は目にも留まらぬ速さで移動するとエリスの口を手で塞いだ。
そしてエリスを脅すように睨みつける。
「それ以上言うな。もし言ったら……血液10本分もらうッスよ?」
「厶……ッ⁉」
エリスは少し顔を引きつらせながら何度も首を縦に振った。
その間にベリアルはおそるおそるラング王に近づくと耳打ちする。
「あー、オーサマ?チョット相談なんだけど……」
「なんだ?」
「「契約破棄」していい?」
「許さん。戦え」
ラング王の有無を言わさない発言にベリアルが戸惑い
始めた。
「ムリムリムリムリ!!だってボスとゼルゼルだよ⁉
勝てるワケないじゃん!
命がいくつあっても足りないんダケド!」
「え〜、オレはいいッスよ。……何度相棒をヤラれたことか……」
「い、いやッ、アレは不可抗力だって言ったじゃん!
っていうか何十年前の話持ち出してんの⁉」
「オレは根に持つタイプなんでねぇ……」
ニヤリと口角を上げながらジリジリと距離を詰めている
ボサボサ男に言い訳のような言葉をはきながらベリアルは後退している。
ベリアルは何かを決心したように目を吊り上げると
ボサボサ男を指さした。
「ちょ……わ、わかった!
なら場所変えて決着つけよーじゃないッ!」
「ほー、いいッスよ。……じゃあ、あとはよろしく」
ベリアルとボサボサ男が去り、その場にエリスとベルゼブブ、ラング王が残った。ピリピリとした空気に包まれる。
「老いぼれだからとなめてかかるなよ、テオドール」
「ええ。……息子さんの事は気にも止めないのですね」
「フン、ジョルジュには最初から期待しておらぬわ。
誰に似てこんなに甘くなったのか……」
ラング王が僅かに目を伏せた。その様子をエリスは困惑して見つめている。
「あなたは…………」
「いらぬ時間を取ったな。再び捕虜となりワシの為に身を尽くすが良い!」




