圧倒的な力
「第3勢力だと⁉」
「テメェ何者だ⁉」
たった今まで争っていた事も忘れているのかアンナと
グラドがボサボサ男に言葉を浴びせる。
「おー、怖。そう警戒しないでほしいッス。
別にオレはアンタらを倒すつもりはない。
ただ、止めに来ただけなんで」
ボサボサ男はそう言うと崖からグラドに向かって一直線に
飛び降りた。いや、正しくは蹴りを入れようとした。
クラドは素早く地面に足を着けるとボサボサ男の攻撃を
避ける。
「あぶねッ⁉何しやがる!」
「浮いてるの見てると蹴落としたくなるんスよね」
「セイントレーザー!」
グラドの手から放たれた光線がボサボサ男の体を貫く。
ボサボサ男はチラリと握りこぶし程の穴が空いた部分に視線を向けたが、すぐグラドに戻した。
「……ほー、やるじゃないッスか」
「な、なんで余裕なんだよ⁉痛みを感じねぇのか⁉」
「いや、穴が空いた部分は痛いし熱いっス。だが……」
ボサボサ男はその部分を覆うように右手をかざす。
手からは緑色の気が出ており、少しして手を退かすと穴が塞がっていた。
「高度の回復魔法⁉それも詠唱無しだと!
……テメェも悪魔か⁉」
「何を基準に考えたかは知らないけど、当たりっス。
流石はアレキサンドルのお坊ちゃん――!」
ボサボサ男は素早く横に体を動かした。
背後からアンナが剣を突き刺そうとしていたからだ。
「避けたか……。第3者となればアレキサンドルにもエベロスにもつかないって事だろう?
悪いが消えてもらう。よそ者と戦ってる暇は無いんだ」
「そうッスか。オレもここで時間くってる暇は無いんで
ねぇ。……視界を奪うだけでいい!無理はするな!」
待機していた黒いモンスター達がボサボサ男の声に反応してアンナとグラドに飛びかかっていく。
モンスター達は小さな翼を生やしており2人の攻撃を上手いこと避けているが、何体かは攻撃を受けて消えていった。
「クソッ、小賢しい!」
「ヒートランス!……チッ、数多過ぎんだろ⁉」
「はい、隙だらけッス」
突然地面から気に覆われた金属の杭が飛び出し、それぞれ2人を閉じ込めた。
ボサボサ男がモンスター達に合図を送るとそれらはどこかへ飛び去って行った。
「し、しまった⁉」
「フザケんな!こんな檻ぶっ壊して――」
魔法を放とうとしたグラドに金属の杭から電撃が走る。
「テ……メェ……ッ……」
グラドはボサボサ男を睨みつけたがすぐに力尽きてうつ伏せに倒れた。
その様子をボサボサ男は呆れた様子で眺めている。
「あーあ、忠告しとこうと思ったのに言う前に倒れた。
頭に血が上るの早いッスよ。
抵抗しようとするとお坊ちゃんみたいになるんで」
アンナは金属の杭に振り下ろそうとしていた剣を止める。 歯を食いしばっていたが、何かを決心したようにボサボサ男を見据えると口を開いた。
「ここから出してくれ!こんな所でモタモタしてる場合
じゃないんだ!」
「フーン。今から言う用件聞いてくれたら解放しない事もないッスよ?」
「な、何だ……」
アンナの顔が引きつる。何かを失う事になるのを覚悟しているのだろう。
ボサボサ男はアンナの前に立ち目線を合わせると口を開いた。
「お嬢さんの血液チョーダイ」
「は……?」
「腕や足貰っていいんならそっち貰うッスけど」
「い、いや……血液だな。少し待ってくれ」
アンナは慌てて右側の篭手を外すとボサボサ男に向けて
差し出した。
「こ、これで良いんだろう?」
「聞き分け良くて助かるッス。……ついでにお坊ちゃんのも貰っとくか。
あ、採血終わったらコレでしばらく止血しといてほしいッス」
ボサボサ男はアンナに湿布のような物を渡すと、懐から小さめの注射器を取り出して採血する。
そして次にグラドの所へ行き同じように血を採った。
「クククッ、連続でレアモノ手に入れるなんて明日にでも死ぬかもしれないッスね」
「ソイツ、生きてるのか?」
アンナが右腕を布で抑えながらボサボサ男に近づく。
いつの間にか2人を閉じ込めていた檻が跡形もなく消えていた。
「最初に言ったじゃないッスか。倒すつもりはないって」
「確かにそう言ったが……。
それにそのフードと長い左前髪。……お前はテオドールの手配書をくれた者だな?」
「……ああ」
「何故だ?第3者と言うならばお前にとっては何の関係もない筈だろう?」
ボサボサ男は止血の為に握っていたグラドの腕を離すとゆっくりとアンナの方を向く。
「不公平なのは嫌なんでね。
お嬢さん達にも教えただけッスよ」
「…………。さっきそこのムカつく野郎も言っていたが、本当に悪魔なのか?」
「そうッスよ。さっきも言ったがオレは急いでるんで」
ボサボサ男は素っ気なく言うと宙に浮いてアレキサンドルの方へ向かった。
「悪魔……。実在してしたのか……」
取り残されたアンナは呆然とその後ろ姿を見ていたが、
すぐに我に返る。
「私もモタモタしてる場合じゃなかった!1度皆の所に戻らないと。兄上も来てるかもしれないしな」
アンナは自分を奮い立たせるように拳を握ると
その場を走り去っていった。




