参戦
その頃、アレキサンドルとエベロスの国境で両軍の激しい
衝突がなされていた。
剣撃の音がそこかしこに響き、魔法の影響なのか一部で
火の手が上がっている。
エベロスの陣営は動揺に包まれていた。
「ど、どういう事だ!いきなりアレキサンドルが大軍で攻めてくるなど」
「いつ争いが起きてもおかしくない状態ではあったが、
今までより明らかに数が多い!何か秘策でもあるのか⁉」
マントを羽織った騎士達が話し合っていると、別の騎士が駆け込んでくる。
「先ほど宮廷に兵を走らせた。アンナ様とレイン様が来られるまで持ち堪えさせろ!」
「言うまでもない!」
騎士達は大きく頷くと陣営を後にした。
アレキサンドルの陣営から少しエベロス側に寄った所では
ジョルジュとエリスが佇んでいた。
「さて、少し暴れてもらうけどいいかい?」
「ええ。数を減らせばいいのでしょう?」
そう答えるエリスの目に光が無い。
また、ジョルジュと同じ白いローブを身に纏っており、
髪の色もオレンジに戻っている。
「ああ。でも魔力を使いすぎないように。
倒れられても困るからね」
「それぐらいわかってるわ。お互い油断して死なないように気をつけましょう」
エリスはそう言って僅かに笑みを浮かべると近くにいる
エベロス軍に魔法で水を浴びせた。
彼等は驚いて何事かと向かってくる。
「貴様!何者だ!」
「何者もなにも見てわからないのかしら?」
「……髪と瞳がオレンジ色?ま、まさかテオ――」
直後、兵士に雷が直撃し声も上げずその場に倒れる。
「ふふふ……」
「キサマよくもッ!」
「サンダーライン!」
雷が直線に走り、エリスを取り囲もうとしていた兵士の体を貫通する。
彼等も無言で次々とその場に倒れた。
「流石……と言いたいけどこんなに容赦なかったのかい?
魔法を掛けすぎたかな?」
ジョルジュはエリスを眺めながら困惑した表情を浮かべた。
しばらくしてエベロスの陣営に軽鎧に身を包んだアンナが
降り立つ。伝令兵が彼女に駆け寄った。
「悪い、遅くなった!戦況は?」
「ア、アンナ様!も、申し上げますと我々が不利です!
どうやらテオドールが居るようで、どんどん戦力を削られています!」
「何⁉クソッ、向こうが上手だったか。
皆にテオドールに会う前に逃げるように広めてくれ!」
「承知致しました!」
アンナは伝令兵を見送ると兵士達に向き直った。
「兄上は少し遅れる。やる事があるそうだ」
「承知!……アンナ様は今から何をなされるおつもりで?」
「私?私はアレキサンドルのムカつく野郎と決闘してくるよ」
アンナの返事を聞くと兵士は身震いする。
「ま、毎度戦わなくてもよろしいのでは?」
「そう思うだろ?だが、私がアイツと戦う事で足止めができるからな。軍の被害を減らせる訳だ」
「し、しかしアンナ様が重傷を負われるのではないかと……」
「はははッ!心配はいらない。どれだけ鍛錬してきたと思っているんだ?
こちらの方が不利ではあるが、剣でも魔法に勝てるさ!」
アンナはそう言うとマントを翻して走って行った。
一方、エリスは不敵な笑みを浮かべながらエベロスの軍勢をなぎ払っていた。
その後ろを適度な距離を保ちながらジョルジュが複雑な表情でついてきている。
「つまらないわ。こんなに簡単に散るものなの?」
「……君元々残虐だったのかい?
随分イメージと違うんだけど」
「さぁ?知らないわ、そんな事」
「……そうか。……実は戦闘に入ると人格が変わる
とかかな……」
「独り言かしら?耳に障るからやめて――⁉」
エリスの真横を黒い塊が通り過ぎた。すかさずジョルジュが相殺する。
「止まれ、エリス・テオドール」
2人の前にベルゼブブが現れて道を塞いだ。
アンナは足を急に止めると目的の人物を見据えた。
彼女の前に立っているのはグラド・アレキサンドル
だった。
彼は明らかに嫌悪感を示している。
「ああ、ここに居たか。探したよ」
「チッ、またテメェかよ!
毎回毎回オレの前に立ちやがって」
「今回は随分大振りのようだけど、余程自信があるんだな?」
「テメェには関係ねぇだろ!今日で終わりにしてやる!」
グラドは言い終わると同時に自分の顔の大きさほどの火球を生み出すとアンナに向けて放った。
アンナは持っていた剣で火球を弾く。
「おっと、危ない危ない」
「その余裕そうな面見てるとムカついてくるんだよ!」
「ああそうかい。じゃ、反撃だ」
そう言うとアンナは目を閉じた。
意識を集中させているようだ。
「視界を遮断するとはな。隙だらけだッ!
フレイムガン!」
複数の火の弾丸はアンナに向かっていき破裂音が響く。
直撃したかに見えたが茶色い気が彼女を覆っていた。
顔や鎧に少し傷は負ったもののダメージはそこまで大きくないようだ。
「なんだ……バリアか?」
「ここだあぁーー!」
アンナは勢いよく目を開けると数メートル先の地面に剣を突き刺した。
何かが起こるのかと思ったが、地面が剣身を呑み込んでいるだけだ。
「は?テメェ何がしてぇんだ?」
「すぐわかるさ」
アンナが口角を上げたのとほぼ同時に彼女を中心に辺りの地が揺れ出した。グラドは短く呟くと体を中に浮かせる。しかし表情は焦っていた。
「浮遊魔法か……」
「地震を起こしただと⁉何がどうなってる⁉」
「私は地脈を感じ取れるんだ。それで大きな場所を剣で突いたって訳さ」
「今の今まで隠してたのかよ。タチ悪りぃッ!」
感情を抑えきれていないグラドに対してアンナは落ち着いた様子を見せる。
「はははッ、ただの剣ならこんな事にならないさ。
今回は持ってきている剣は魔法剣でね。やっと出来上がったんだ。
ちなみにぶっつけ本番さ」
「どうでもいい情報言うんじゃねぇ!
くらえ、ファイアトルネード!」
炎を纏った2本の竜巻がアンナに襲いかかる。彼女は少し
眉間にシワを寄せると再び地面に剣を突き刺した。
すると今度は彼女を守るように岩が飛び出し、竜巻を弾いた。
「うーん、扱いが難しいな……」
「土属性魔法扱うようなモンじゃねぇか!聞いてねぇぞ⁉」
「まあ、いいじゃないか。今まで剣しか使えないってバカにしてきた罰さ」
「クッソ、ムカつく!」
グラドが魔法を放とうとした時だった。
2人を取り囲むようにどこからか黒いモンスターの群れが現れた。
いつかの球体のモンスターで角や羽根、鋭い牙を持っているものまでいる。
「シャアァァーー!」
「ウケケケケケッ!」
「なんだ!?」
「チッ、誰だ!邪魔しやがんのは!」
「邪魔してスミマセンねぇ」
2人の頭上から声がかかる。近くにある崖からボサボサ男が彼等を見下ろしていた。
「第3勢力参戦ッス」




