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薬売りと魔王  作者: 月森 かれん
第1章
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トラブル

 王国都市アレキサンドル。住民・冒険者、多くの人々で

賑わう店並びの片隅でエリスは薬を売っていた。そこそこ繁盛しているようで数人が列を作っている。


 「すみません、そこの切り傷に効く薬ください」


 「かしこまりました。180オールになります」


 「180オールね。はい」


 「確かに受け取りました。ありがとうございます」


 エリスは代金と引き換えに薬を男性に渡すと、彼はお礼を言ってから立ち去る。すぐに並んでいた女性がエリスに話しかけた。


 「ここ、痛み止めって売ってますか?子供が腕が痛いって言っていて……」


 「腕の痛み止めですね。調合するので少しお時間いただきますがよろしいですか?」


 「はい。今日中に頂ければいつでも」


 「分かりました。腕の痛みは物にぶつけたとかですか?」


 エリスの質問に女性は少しオドオドしながら口を開く。


 「……えっと私が少し目を離した隙に町の外に出ちゃったみたいで。それでハチに刺されたって……」


 「ハチってこの辺にいるポイズンビーの事では?」


 「はい………………」


 エリスは血相を変えると呪文を唱えた。地面に魔法陣が描かれ、その中心からフードを被った人のようなものが出てくる。


 「店番お願い!」


 「……リョーカイ……」


 「子供さんの所まで案内してください!」


 エリスはフードの人形の返事を聞くと小袋を持って女性に駆け寄る。

女性は戸惑いながらも案内を始めた。


 「こっちです!」


 エリスが女性についていくと町の入口の近くにある巨木の影の下で男の子が横たわっていた。熱があるのか顔が赤く、苦しそうに息をしている。


 「熱が出始めてますね。急がないと……」


 「な、治りますか?」


 「大丈夫です。治します。

 申し訳ないですが治療している間は私に話しかけないでください」


 「は、はい!」


 女性は大きく頷くとエリスの邪魔にならないように隅の方へ移動する。エリスはそれを確認すると小袋から道具を取り出して治療を始めた。



 数十分後――

 少エリスが息をついて道具を片付け始めた。静かに様子を見守っていた女性が彼女に声をかける。


 「あ、あの……子供は……」


 「解毒薬を飲ませました。毒は心配しなくても大丈夫です。熱は2日ほど続くと思いますが、安静にしていれば下がります」


 「本当になんとお礼を言ったらいいのか……ありがとうございます!」


 女性は何度も頭を下げた。エリスは女性に念の為と言って解熱剤を渡すとその場を後にする。女性はエリスの姿が見えなくなってもしばらく頭を下げたままだった。



 エリスが店に戻ると人だかりができていた。ボソボソと話し合っている様子を見ると客ではなさそうだ。

 急いで人の波をかき分けると、フードを被った人形と複数の男達が向かい合っていた。


 「……ワルイ……トラブル……」


 「アンタがこの店の主か?」


 いかにもチャラそうな大柄の男がエリスに詰め寄る。


 「はい。私の店員が何か粗相でも致しましたか?」


 「なかなかこっちの要求をのんでくれねぇんだよ!

難しい事じゃねぇはずだ!」


 「……どのような要求でしょうか?」


 エリスが困り顔で尋ねると男は豪快に笑いながら口を開いた。


 「ポーションをタダで100個くれって言ってんだ!俺達は冒険者だからな!ケガに備えんのは大事だろ?」


 「大事ですがタダでお渡しできません。ちゃんと代金を

お支払い下さい」


 エリスの言葉を聞くと男は目つきを鋭くさせて睨みつける。


 「あぁ?この辺の平和を保っている俺達から金取ろうって言うのか?」


 「宿屋や装備屋にも同じ事を言っているのですか?」


 質問で返す形になったが男が黙り込んだ。だがそれも数秒で怒りの形相でエリスに掴みかかる。


 「何回も戦ってたら装備を買い替えなきゃなんねぇだろうが!金を稼ごうにもポーションがねぇとモンスターと戦えねぇ。だから必要なんだよ!」


 「……お仲間にヒーラーはいらっしゃらないのですか?」


 「うるせぇ!とっとと寄越しやがれ!」


 男は仲間と思われる他の男達に指示を出すと彼等は待ってましたとばかりに暴れ始めた。周囲の人々は困惑の表情を浮かべながら様子を見ている。

 男達の行為は日常的のようだ。


 「やめください!薬が売れなくなります!」


 「だったらポーション100個寄越せ!今すぐな!」


 「……すぐには出来ませんが今日中には……」


 「今日中じゃ遅ぇんだよ!」


 もはや逆ギレだが男がエリスを突き飛ばした。反動でしりもちをつく。衝撃が強かったようで痛みに顔を歪めていた。


 「うぅ……」


 「用意できねぇんなら――」


 「……タイムストップ……」


 低い呟きが聞こえたかと思うと辺りが薄暗くなり、エリスと男達を除いて周囲の人々の動きが停まった。彼等は瞬きすらしていない。


 「な、なんだっ⁉」


 「俺達以外固まってるッスよ⁉」


 「……て、てめぇ、何しやがった⁉」


 うろたえる仲間達を見て男がエリスの胸ぐらを掴む。

エリスは短く声を漏らした後、呆れたようにため息をついた。


 「何しやがったと聞いて――」


 「……ハナセ……」


 いつの間にかフードの人形が男の肩を掴んでいた。男は睨みつけようとして口を開けたまま固まる。ローブの袖から見えているのは骸だったからだ。

 フードの人形は男を気にも止めず何かを訴えるようにエリスを見ている。


 「……インカーネーション……」


 エリスが呪文を唱えるとフードの人形がモヤに覆われる。

 笑い声と同時に人形がモヤを振り払うとその風でローブが少しめくれ上がった。骸だった部分に肉がついている。

 さらにフードの下から覗く眼はギラついていて常人ではない事が伺える。


 「ヒャハハハハッ!アンタらみたいなクズども好物だぜ!」


 「こ、こいつ、使い魔じゃないのか⁉」


 「オレ様を使い魔と一緒にすんじゃねーよッ!」


 そう言ってフードの男が大柄の男を蹴り飛ばした。

男の体が品物にぶつかりガラガラと音を立てて散らばる。

 エリスが裾を整えながらフードの男に近づいた。 


 「商品を壊さないで」


 「はいはい。次から気をつける。……ところでコイツら貰っていいんだよなぁ?」


 「……お任せします」


 「ヒヒッ、そうこなくちゃなぁ!」


 フードの男は不敵に笑うと男達に向けて手を突き出す。

するとそこから黒い鎖が飛び出して彼等を縛りつけた。かなりキツく縛っているようで呻き声が辺りに響き、1人また1人と意識を失って倒れて行く。


 「おいおい、この程度でくたばるなよ」


 「……テメェ……何者……だ……」


 巨体に鎖が食い込みながらも男が睨む。かなり苦しそうだが意識はあるようだ。


 「フン、答える義理はねぇよ。アンタ意外と耐えるなぁ。

ハハハ……デスクラッシュ!」


 フードの男が手で何かを握り潰すような動作をするとそれに呼応して巨体からボキボキという嫌な音が連なる。男は目を見開いたまま地面に倒れた。

 さらにフードの男が何かを呟くと男達の体は地面に吸い込まれていった。


 「あーあ、威張ってた割には張り合いねぇな。……まぁいいや。後でじっくりいただきますか」


 「……平和主義なのに……」


 「とか言いつつ、アイツらに喧嘩売ってたよな?ヒーラーがどうとかって……。

 戦闘職だけのパーティーも珍しくねぇだろ」


 「アレキサンドルはこの辺りで最も大きい都市。ヒーラーが来ていないはずないから聞いただけ」

 

 エリスはそう言いながら後片付けを済ませて商売道具を背負うと歩き出した。フード男が慌てたように後を追う。


 「あ?もうこの町から出ていくのかよ?

町の奴らの記憶消してやるぜ?」


 「消しても消さなくても騒ぎを起こした以上、

町にいるつもりはないわ」


 「そうかよ。それにしてもあの女には感謝しとかないとなぁ?アイツが来なければオレ様を喚び出す事なんてなかったんだからよぉ。

 1人じゃボコボコにヤラれてたろ?」


 エリスは立ち止まるとフードの男を見据える。目を細めて眉をひそめている様子から怒っているようだ。


 「たぶん。でもその前にあなたが彼等の気に障るような事を言ったんじゃないの?

 私が来た時からすでに怒っていたみたいだったし」


 「ああ。デキナイ、タチサレってな。変に引き受けるよりマシだと思うぜ」


 「………………そうね。あと、魔法を解いて」


 「はいはい、解けるまで少し時間かかるぜ」

 

 エリスはため息をついた後、フード男に向かって何かを呟くと再びモヤが男を覆う。それが晴れると男の姿も消えていた。


 「私もあなたも余計な事し過ぎね……」 


 エリスはそう呟くと町の入り口に向かってゆっくりと歩き始めた。




 エリスが町を出て少ししてからフード男の魔法が解けて人々が動き出す。彼等は少しの間ぼんやりとしていたが、

まるで何事も無かったかのように賑わいを取り戻していった。



 人々は誤魔化せたが、魔術道具までは誤魔化せなかった。

 城内の1室に争い防止の為に高位度の魔力を感知する道具が置いてあり、それがカタカタと音を鳴らしていたのだ。

 城専属の魔法使い達が集まって首をひねりながらも話し合っている。


 「さっきからずっと鳴り止まないのだが……」


 「誤作動じゃないのか?これが感知する程の魔力ならば我々も感じ取っているはずだ」


 「だとしても誰も感じ取れていないのはおかしい……。

ひとまず城下町に行こうか。間違っていなければ呪文が使われた場所で一層音が激しく鳴るからな」


 魔法使い達は頷くと道具を持って城を出て行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] おー、なんかほのぼのしたお話かと思ったらダークなのが出てきましたね。こういうのは大好きです。自分で書いても何故かダークなものに満ち溢れるのは根がそういうのを求めているのかも。ツボにハマって面…
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