不思議な出来事
その頃エベロス帝国では……
エベロス帝国。十数の騎士団があり、王家の者が指揮を取っている。
帝国と聞くと厳しい法で国民達を支配していそうなイメージだが、エベロスはそれに当てはまらず、城下町は国民や冒険者達で賑わっている。
要塞のような城の一室で、紫色の髪を後ろで1つ結びにした女が1枚の紙を見ながら首を捻っていた。
エベロス家第1王女のアンナだ。
「うーん、どうなっているんだ?」
「アンナ、ここに居たのか」
「兄上⁉」
ドアが開きアンナと同じ色の短髪の男が顔を覗かせる。
兄のレインだった。
「ん、考え事か?」
「あぁ……」
アンナはそう言いながらレインに紙を見せる。
それはエリスの今の姿の手配書だった。
「これはテオドールの……。確かアンナが持ってきてくれたやつだな」
「そうなんだが、私も部下から預かったんだ。
なんでも、いきなりフードを被った男に渡されたらしい」
「アレキサンドルに送り込んでるスパイからじゃないのか?」
「いや、どうも違うみたいなんだ。左目を髪で覆ってて
よく顔は見えなかったそうなんだが。
アレキサンドルに送った者じゃないってさ」
アンナとレインは騎士団長を務めている。それぞれ部下を
1人ずつアレキサンドルに紛れ込ませているようだ。
アンナの言葉を聞いてレインも首を傾げる。
「スパイではない?なら、何者なんだ?
なぜ俺達にわざわざ知らせたんだ?」
「だからさっきから唸ってるんだ。一般民ではないと思うんだが。
部下達はその件からフードの男が町に居ないか注意して見ているそうなんだが、見つけられていない」
「敵ではなさそうだな。もしそうなら手配書なんか渡さずに町で暴れているはずだ」
レインはそう言った後、一息ついてまた口を開く。
「それにしてもまさか本当にテオドールがいるなんて思わなかった。自分達が魔力が高い事を知っていたから隠れ住んでいたのか」
「そのようだな。どうにかしてこっちに引き込みたい。
絵を見る限りじゃ大人しそうだし、話次第か。
イレーネにも同じ物を送ったんだが返事がないな。
まぁ、ただでさえ返事遅いけど」
「……アンナ、それはいつ送ったんだ?」
「7日前」
少し眉をつり上げて言うレインにアンナは全く臆さずに返答する。
「遅い⁉……まさか返事を書くためだけに何日も頭を悩ませているのか?」
「そうだと思う。イレーネは心配性だからな。
だからって私達への手紙も早く返せないのは少し心配だな……はははッ」
少し笑いながら言うアンナにレインは呆れている。
「……イレーネがドワーフ達の所に行ってから何年経つ?」
「さぁ?5年は過ぎてるんじゃないか?」
「いくら優しいからって掛かり過ぎだろう⁉
今度は俺が手紙を書く!少し厳しくしてもらわないとな!」
「イレーネ、さらにビビりそうだな。引き籠もってなければいいが……」
躍起になるレインを見ながらアンナは肩をすくめた。
そして思い出したように小さく声を上げた。
「そういえば兄上は私に用があって来たんじゃないのか?」
「ああ、忘れる所だった。俺の部下からの報告なんだが、どうやらアレキサンドルが本格的に準備しているみたいなんだ」
「戦争の……だよな?テオドールの存在がわかったからか?」
「おそらくは。すでにアレキサンドルの手中かもしれないが」
レインは真剣なな表情で言った。アンナも眉間にシワを寄せて頷く。
「わかった……。重鎮には伝えておく。あまり多くの人に知らせてしまうと国民の不安を煽る事にからな」
「頼むぞ」
レインはそう言うと部屋を出ていった。その後ろ姿を見送りながらアンナがポツリと呟く。
「兄上も何か隠しているみたいなんだよな。コソコソしているというか、周囲を警戒しているというか。聞き忘れてしまった……」




