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薬売りと魔王  作者: 月森 かれん
第2章
16/31

取り引き

 「おい、まだ見て回んのか?」


 「うん。せっかくだから」


 どこか嬉しそうなエリスとは対照的にベルゼブブは飽きてしまったようで、ダルそうについて回っている。

 彼女達は作業場の近くに来ていた。


 「そうかよ……はぁ……」


 「あ、これは……ガラスのマグカップ?」

 

 少し厚めの布の上にいくつかのガラス製品がきれいに並べられていた。エリスは興味深そうに顔を近づける。


 「おお、よくわかったな!」  


 エリスに気づいたドワーフが近寄ってくる。最初のドワーフとは違って髭は短い。


 「熱を冷ましてたんだ。もう退いても大丈夫だな」


 そう言ってドワーフはマグカップを集め始めた。よく見ると大きさはバラバラで大人用から子供用まである。


 「武器だけじゃないんですね」

 

 「ああ。俺達は争い事が嫌いだからな。こんな感じで

いろいろ作ってるんだ。武器は基本アンスタン大陸に送っている。時々こっちの冒険者達からも依頼があるがな」


 エリスは適当に相槌を打ったあと、近くに置かれている複数の赤い物体に目を止める。


 「これってビンですよね?」


 「そうだ。欲しいのか?」

 

 「はい……」


 実はエリスが使っていた商売道具はグラドとの戦いでなくなっていた。そのため彼女は小さなビンを3つしか持っていないのだ。

 エリスの返事を聞くとドワーフは困ったように眉を下げる。


 「こっちとしちゃビンを作る事ぐらい構わないんだが、物々交換なんだ。アンタは何をくれる?」


 「物々交換……」


 「ああ。参考にだが、冒険者は食材とか持ってきてくれるぜ。けっこう助かってる」


 エリスは数回頭を捻った後、何かをひらめいたようで小さく声を上げる。


 「薬はいかがですか?」


 「薬か……いいな。ん?って事はアンタ調合できるのか?」


 「はい」


 エリスが即答したのを見てドワーフは素っ頓狂な声を上げる。


 「うへぇ、この辺りじゃマーレ港のロイト兄ちゃんしか

いないからなぁ。よし、薬で手を打とう」


 「ありがとうございます。具体的にはどんな薬がいいですか?」


 「そうだな……1番はヤケドに効くものだな。

1日中、火と一緒だから。あとは切り傷と痛み止めと……」


 「けっこうありますね……。あ、でも」


 声のトーンを下げたエリスを見ながらドワーフが不思議そうに首を傾げる。


 「私、ここに来るのは初めてなので、薬ができるまで時間がかかると思います」


 「ちゃんと作ってくれるんなら時間は気にしないよ。

 初めてって事はアンタ、アンスタン大陸から来たんだな。

イレーネちゃんと同郷か?」


 「そうなりますね……」


 「そうか。よかったらイレーネちゃんと話してやってくれねぇか?ここは見ての通りドワーフしか居なくてよ。

 俺達にもだいぶ慣れてくれたんだが、人間相手の方が嬉しいと思うし」


 エリスは僅かに顔を引きつらせた。

 一応イレーネとは敵対の関係にあるからだろう。


 「先ほど少しお話してきたのですが。それになんだか忙しそうみたいで……」


 「ああ、ちょうど水を運ぶ時間だったからな。そう見えたんだろう。今は手が空いてると思うぜ。

 イレーネちゃん、俺達がハンマー振るってるのを目を

キラキラさせながら見てるんだ。戦いに関する事からは逃げようとするのに。まぁ性格だから仕方がないんだろうけど」


「………………」


 「ああ、話が逸れたな。イレーネちゃんなら今頃散歩してると思うぜ。適当に歩いてたら会えるだろうよ」


 「ありがとうございます」


 エリスは丁寧にお礼をいうと気さくなドワーフと別れた。

 言われた通り集落内を歩き回る。するとベルゼブブがポツリと呟いた。


 「……しかし、剣術に長けた家柄に生まれながら

本人はそれを望んでいない、か」


 「複雑ね」


 「まぁ、オレ様の知ったこっちゃねぇけど」

 

 エリスは横目でベルゼブブを呆れたように見るとため息をついた。




 ちょうど家が建ち並んでいる通りに下りた所でイレーネと再会した。彼女もエリスに気づいて軽い笑顔を浮かべる。


 「あ、え、えっと……」


 「エリスです」


 「え、エリスさん。な、何かご用ですか?」


「少しお話でもしようかと思いまして」


イレーネはビクリと体を震わせる。


「な、何のお話でしょうかっ?ハっ!?もしかして身の上を話さなければ殺さ――」


「違いますって……」


エリスは呆れて目を伏せながらイレーネをなだめた。


「純粋に話したいだけですよ」


 「ご、ごめんなさい!思い込みが激しくって……。

 あっ!それなら私の家でお話しませんか?

 立っているのもどうかと思いますし……」


 思いもしなかった提案にエリスとベルゼブブは顔を見合わせる。


 「い、嫌ならそれで構いませんのでっ!」


 「せっかくですのでお邪魔させていただきます」


 「本当ですか⁉よかったぁ〜。で、では案内しますね!」


 イレーネは軽く跳ねながら先導する。ドワーフの言っていた通り、同じ種族と話ができるのが嬉しいようだ。


 「……気ィ抜くんじゃねぇぞ」


 「うん……」


 エリスはしっかりと首を縦に振るとイレーネの後に続いた。

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