エベロス家第2王女
エリス達は無事にドワーフ達の集落に辿り着いた。
集落といっても技術は発達しており金属を打つ音がそこかしこに響いている。
エリス達に気づいたようで、顎から立派な髭を生やした
ドワーフが声をかけた。しかし背丈は低く頭がちょうどエリスの腹の位置にくる。
「おう、いらっしゃい。観光か?」
「はい……この辺りは初めてなので」
「そうかい。何もない所だがゆっくり見学でもするといい。ああ、作業場には近づかないでくれよ。火傷するからな」
「ありがとうございます」
エリス達が集落を見て回っていると、水を入れた容器を
運んでいる紫髪の少女に出会った。
緊張しているようで何度も瞬きをしている。
「あ、こ、こんにちは。か、観光ですか?」
「はい。せっかくなので。……貴女は?」
「ああ、このお方はエベロス家第2王女、イレーネ様だ」
後ろから先程のドワーフが口を挟んだ。ついてきていたようだ。エリスが訝しそうにイレーネと呼ばれた少女を見つめる。
「……えっと、何故エベロス家の方が?」
「エベロスとの契約みたいなもんだ。破ったからってペナルティがあるわけじゃないんだが。昔からの馴染みでよ。
王家の子の修行を見る代わりに、俺達の武器を使ってもらってるんだ」
「そうなんですね……」
エリスが興味深そうに相づちを打つ。
「8歳になったら俺達が預かるんだ。それで武器の使い方や手入れの仕方を教えて、修行して、ある程度強くなったら試練を受ける」
「その試練をクリアできれば一人前と認められて国に帰れるんです」
イレーネが嬉しそうに口を挟んだ。その様子を見てドワーフはため息をつく。
「……姫さんはやっと土台ができたところだけどな。
エベロス家にしちゃ優しすぎんだよ。今まで見てきた者は
どんどんチャレンジしてメキメキ強くなったてのによ」
「で、でも私、最近やっと……ヒートスライムを斬れるようになったんです!」
自信満々に言うイレーネにその場の空気が白ける。
ベルゼブブですら口を曲げていた。
「明らかに弱そうなモンスターだが……」
「そうなんだよ……。姫さん、何度も言うがヒートスライムはこの辺りで1番弱いモンスターだからな」
「はい!分かってます!」
開き直っているようなイレーネに彼女を除いた皆が哀れむような表情をする。
「まぁ、ちょっとでも成長してるからいい――」
「親方ァ、ヘルプっす!」
「今行くから待ってなァ!……って事だ。
姫さんに失礼のないようにな!」
ドワーフはエリスに念を押すと駆け足で作業場に向かった。
イレーネはおそるおそるエリスに近づくと口を開く。
「あ、あの確認ですけど、あなたは…テオドールさん……
ですよね?」
「違います」
「ヒッ⁉ご、ごめんなさい!お姉様からの手紙に入ってた手配書の方にそっくりで……つい……」
即答したエリスにイレーネは何度も頭を下げる。
「私がテオドールだったら国に報告でもするのですか?」
「な、何もしません。手紙にはテオドールさんを見つけたらすぐに連絡を、とは書かれていましたが。わ、私は戦争なんて嫌いです!もし私が報告してしまったら、テオドールさんは戦争の為の道具にされてしまいます。そんなの嫌です!」
イレーネの言葉を聞くとエリスは少し目を見開いた後、
微笑んだ。
「……私は、エリス・テオドール。本人です」
「え?ち、違うんじゃなかったのですか?」
「嘘ですよ。まさか信じているなんて思ってませんでした」
状況をのみこめておらず、イレーネは瞬きを繰り返している。
「え、でも……どうして……ハッ⁉わ、私を亡き者に!?」
「ここに立ち寄ったのはなんとなくです。理由なんてありません」
「じ、じゃあ、私が居ると知って来たわけではないんですね?」
「はい」
エリスの言葉を聞くとイレーネは大きく息を吐いた。
心の底から安堵したようだ。
「は~、良かったぁ。暗殺者だったらどうしようかと……」
「追われている身ですからそんな事はしませんよ。する気もありません」
「で、でもよくこの大陸に来れましたね?」
「前の姿の手配書が出回っている時に船に乗ったので大丈夫でした。もう乗れないでしょうけど……痛っ⁉」
ベルゼブブがエリスを軽く小突いた。
運び屋にされた事をまだ根に持っていたようだ。
イレーネが不思議そうにベルゼブブを見つめる。
「あ、あの、そちらのフードの方は?」
「……相棒です。口は悪いですが頼りになるんですよ」
「……………………フン」
「よ、よろしくお願いしますね」
ベルゼブブはイレーネをつまらなそうに見ると顔をそらした。
「イレーネちゃーん、水ー!」
「あ、は、はい!すぐに持って行きます!で、ではまたっ!」
作業場の方から声が飛んでくる。イレーネはドワーフ達に飲み物を運んでいる途中だったらしい。
イレーネはエリス達に軽く頭を下げると慌てて作業場に向かっていった。
イレーネが去って行ったのを確認するとベルゼブブはエリスに小声で話しかける。
「雲行きが怪しくなってきたな」
「そう?」
「おかしいだろ。アレキサンドルならまだしも、なんでエベロスが今のお前の姿を知ってんだ?」
「どこかですれ違ったとか?」
エリスの回答にベルゼブブは呆れてため息をつく。
「その可能性は低いだろ。こっちの大陸じゃお前の事は知られてない筈だ。となると、あっちの大陸になる訳だが……どうなってやがる」
「……確かに。気をつけておかないと」
「初めて来る場所だから嬉しいんだろうが、はしゃぎ過ぎんなよ」
ベルゼブブの言葉を聞くとエリスは少し顔を赤くして気まずそうに目をそらした。
バレているとは思っていなかったようだ。
「……この先大丈夫か……」
ベルゼブブは何度目かの大きなため息をつくと
腕を組んだ。




