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薬売りと魔王  作者: 月森 かれん
第2章
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ボサボサ男の趣味

 エリス達がマーレ港を出てドワーフの集落に向かっていると頭上から声が飛んでくる。


 「ここに居たか。探したッスよ」


 「あ……」


 「部下1号⁉……どうした?」


 2人が驚いている間にボサボサ男は地面に足をつけると

めんどくさそうな表情で語り始めた。


 「どうしたもこうしたもないッスよ。アレキサンドルが本格的に戦争の準備してるみたいでさ。町の様子は変わってないんだが、騎士共がピリピリしてる。……エリス、何かした?」


 エリスは少し顔を引きつらせながらボサボサ男に経緯を話す。すると彼は大きなため息をついた。


 「地震を起こしてイカナ村を滅んだように見せてる、

ねぇ……。タイチョーも受肉してるみたいだし、魔力大丈夫なの?」


 「今の所は……」


 「フーン。……1度あっちに戻ったんスよね?どうやってここまで来たんスか?船?」


 「オレ様を運び屋にしやがった」


 眉をつり上げながらベルゼブブが言う。相当不本意だったようだ。

 ボサボサ男は少しの間固まった後、盛大に笑い出した。


 「ハハハハハッ!タイチョーを運び屋にしたんスか⁉

スゲー度胸あるッスね」

 

 「笑いすぎだろ。もう2度としねぇ」


 「いやー参ったわ。……エリス、やっぱアンタ只者じゃない。クククッ」


 まだ笑いの余韻が残っているボサボサ男をエリスは少し警戒しながら見つめている。


 「……あなたは味方……よね?」


 「そうッスよ。何度も言ってるじゃないスか。……オレからなんか感じ取ったか?」


 「……企んでるように見えて」


 「あー、企んでるのは事実ッスね。いや、正確に言えば取り引きをしたいんスよ」


 不敵に笑うボサボサ男をベルゼブブが軽く睨む。


 「おい、お前まさか……」


 「タイチョー、止めないでほしいッス。先に言っておいた方が良いと思ったんでね。後で言ったらパニックになるだろうし」


 「パニック?」

 

 ボサボサ男はエリスに視線を向けると口を開いた。


 「オレは実験オタクなんスよ」

  

 「……はい?」


 「モンスターや人の体液・皮膚から、なんか作れねーかと模索するのが楽しくてね。それで単刀直入に言えばアンタの血が欲しい」


 訳が分からないまま固まっているエリスにボサボサ男は

さらに言葉を浴びせた。


 「え」


「って事でひとまず注射器1本分。……いいッスよね?」


 ボサボサ男は懐から小型の注射器を取り出すと器用に指で回し始めた。エリスは戸惑いながらもローブの袖を捲くる。

 

 「……い、1本分なら。サイズも小さいし……」


 「助かるッス。ついでにタイチョーの血も欲しいんスけど」


 「ああ…………分かったよ」


 大人しく採血されるベルゼブブをまるで珍しい物を見たかのような表情でエリスは眺めている。


 「絶対断るかと思った」


 「1回だけ断った事があるんだが……その後どうなったと思う?」


 「さぁ……」


 「オレ様が寝てる間に取りやがったんだよ。しかも予定では2本だったのに5本分も持っていかれた」


 エリスは困惑した表情を浮かべてボサボサ男を見る。

彼はエリスの視線に気づくとニヤリと口角を上げた。


 「ちゃんと採らせてくれるんなら、タイチョーみたいな仕打ちはしないッスよ。それにそんなに頻繁には採らないんで安心して欲しいっス」


 「で、でも私しばらくこっちに……」


 「居場所なら探し回るんでわざわざ言わなくて

ダイジョーブ。……ククク、じゃーな。周りに気をつけろよ?」


 ボサボサ男は満足そうに笑うといつものように宙を蹴って去っていった。

 彼が居た場所を見つめながらエリスはため息をついた。


 「名前を教えてもらえるのかと思ったら、違った……」


 「ヒヒッ、残念だったな。まぁその内アイツから言うだろうよ」


 「あなたは彼の名前を知ってるの?」


 「ああ。でもオレ様からは言わねぇ」


 少しムッとして見つめてくるエリスをベルゼブブは

めんどくさそうに眺める。


 「そう怒るなよ。……アイツは一見軽そうだが警戒心が強い。たぶんお前の事も完全には信用してないぜ」


 「……なんとなくそんな感じはする。でも、なんだかんだ

気にかけて貰えてるような……」


 「そりゃうまい事理由作ってお前の血が欲しいからだろ。……まぁ裏切る事はないと思うがな」


 エリスは口を開こうとして閉じた。何かが頭に引っかかったようだが、聞いてはいけない事だと思ったようだ。


 「味方……でいいんだよね?」


 「そこは味方と認識してやれよ⁉アイツも言ってただろうが!……もし裏切る事があったらオレ様が殺す!」


 言い切ったベルゼブブにエリスは目を見開いた。

どうやら彼とボサボサ男の間には何かがあるらしい。


 「……そこまで言うなら、わかった……」


 「……………………………………」


 ベルゼブブはエリスを一瞥すると腕を組んだ。

早く先に進めという暗示のようだ。

 

 エリスはまだ納得していない様子だったが、諦めたように

ため息をつくと道を進み始めた。

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