再びリヤン大陸へ
「オレ様を運び屋扱いとはイイ度胸じゃねぇか」
マーレ港の片隅でベルゼブブがエリスを睨んでいた。やはりフードを被ったままだ。
どうやら船に乗らずに彼に運んでもらったらしい。
「こ、今回が最初で最後だから。手配書も新しくなってるだろうし、シーポルトで船に乗せてもらうのは厳しいと
思って……」
「フン……2度と運ばねぇからな」
「うん。ありがとう……」
ベルゼブブは大きなため息をつくと顔をそらした。
リヤン大陸にはまだエリスが指名手配されているという情報は来ていないようで、人々は彼女達を気にも止めず行き交っていた。
ベルゼブブは顔をそらしたままエリスに尋ねる。
「で、どうするよ?」
「今度は町の外に出てみようと思ってる」
「ほー、別にどうでもいいけどよ。地理分かんのか?」
「……………………………」
目を泳がせながらうつむいたエリスを横目で見てベルゼブブは再びため息をつく。
「そこら辺歩いてるヤツに聞いてきな」
「うん……」
エリスは周囲を見回すと慎重に歩き始めた。声をかけれそうな人がいないか吟味しているようだ。少し目を開くと早足になる。
「すみません、少しお尋ねしたいんですけど……」
「ん?」
エリスが声をかけたのは二人組の男性だった。冒険者らしく1人は剣を腰から下げていて、もう1人は槍を背負っている。
「この辺りに来るの初めてで、地理が知りたいんですが、何かご存知ですか?」
「この辺りねぇ……。観光に来たんならマーレ港が1番だけど、南西に行ったらドワーフの集落があるんだ。見学させてもらえるみたいだし行ってみるのもいいと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
エリスがお礼を言うと槍使いの男が彼女に近づく。
「ところで君も冒険者?服装から見ると魔法使いみたいだけど」
「一応……。戦いはあまり得意ではなありませんが」
「じゃあさ、俺らのパーティに来ない?後衛職欲しかったし、君も戦闘の経験積めるし、良い事づくめだよ」
「大丈夫です……。それに待たせてる人がいるので」
エリスは少しずつ後退するが、槍使いの男は一定の距離を保ってくる。剣士の男も笑顔で何も言わないものの、エリスをパーティーに入れる事を諦めてはいないようだ。
「あ、じゃあその待たせてる人も一緒にどう?
冒険者のノウハウを――」
「断る」
槍使いの男の言葉を遮ってベルゼブブが言い放った。彼はいつの間にかエリスの真後ろに立っている。声が低い事から機嫌が悪そうだ。
「道聞くのにどんだけ時間かかってんだよ」
「ご、ごめん……」
「あ、君が待たせてる人?良かったら俺らのパーティに――」
「断るって言ってんだろうが。おら、とっとと行くぞ!」
ベルゼブブは槍使いの男を軽く睨みながら言うと強引にエリスの腕を掴んで歩き出した。
まだ状況が理解できていないエリスは足だけを動かしている。
「な、なんで……」
「言っただろ、時間かかりすぎだ。あと、お前を1人で歩かせたら危険だったって事に気づいた」
「そんなことないと思うけど」
「……アレキサンドルでクズ共に絡まれただろうが。それにさっきの2人組、裏があるぜ」
「え?」
いきなりベルゼブブが足を止めたのでエリスも慌てて止める。
「後衛職が欲しいってのは事実だと思うが、それだけじゃねぇよアレは」
「具体的には?」
「……想像つかねぇならそのままでいい。言わねぇ」
「はい?……っていつから聞いてたの?」
ベルゼブブはめんどくさそうに振り向くとエリスを指差す。
「お前が礼を言ったあたりから」
「ええっ。ならその時に声をかけてくれたら良かったのにに」
「悪ぃ、面白くなりそうだったんで様子見てた」
軽く笑うベルゼブブをエリスは何か言いたそうに睨んでいる。エリスの視線に気づくとベルゼブブは普段の目つきに戻った。
「それで、道聞けたのか?」
「うん。ここから北西にドワーフの集落があるって。見学もさせてもらえるみたい」
「……言うまでもなく向かう気だろ」
「ドワーフの事しか教えてもらえなかったから」
「はいはい」
ベルゼブブは大げさにため息をつくと歩き始める。
エリスは少し申し訳無さそうにその後を追った。




