償いとして
エリスと村長を両脇に抱えてベルゼブブは空を飛んでいた。いや、飛んでいるというよりはボサボサ男と同じように宙を蹴っている。
しかし速度は遅く、マイマイぐらいのスピードだ。
「お、お嬢さん、大丈夫かい?」
「……なんとか……」
そう答えるエリスは肩で息をしており、顔色が悪い。
「ワシらの為に戻って来なくても……」
「……私のせいですから。それに村長さん達にはたくさん助けてもらいました。見過ごすことなんてできません……。
……あと、村長さんを村に降ろしたら、別の場所に移動して」
「ああ」
短く答えたベルゼブブに村長が目を見開く。
「ま、待ちなされ!お嬢さんは傷を負っておるし万全とは言えぬ状態ではないか。快復するまで村で休んでいっておくれ」
「……これ以上迷惑をかけるわけには……」
すると2人の頭上でベルゼブブが大きなため息をついた。
「大人しくジイさんの言う事聞いとけ。お前の気持ちも
わからなくはないが。なら、どこで休む?その間に騎士共に襲われたらどうする?太刀打ちできねぇだろ?」
「でも……」
「ジイさん、あとどのぐらいで村に着く?」
「このまま直進で5分ぐらいかのぉ」
ベルゼブブは頷くと少しスピードを早くする。
それでもマイマイから カメぐらいの早さになっただけだった。
やがてベルゼブブはイカナ村の入口に足を着けた。
わざと大きな音を立てたため、村人たちが何事かと集まってくる。ベルゼブブはそっと村長を地面に降ろした。
「そ、村長!」
「それにエリスちゃんじゃないか!」
そう声を上げたのはジョセフィーヌだった。まだ状況が
のみこめていないようだが、ベルゼブブに近づく。
「フードの人、村長を助けてくれてありがとうね」
「礼はいい。……悪いがまた少し世話になる。
コイツを休ませないといけねぇ」
ベルゼブブが抱えたままのエリスを横目で見ながら言う。
エリスは目を閉じて苦しそうに息をしていた。
「怪我してるじゃないか!もちろん、休んでいきな!」
「助かる。コイツが意識取り戻したら出ていくからな。
長居はしねぇ」
「……ゆっくりで構わんのじゃが。それよりお前さんは?
お嬢さんの身内かい?」
「そんなところだ。……コイツが使ってた家借りるぞ」
ベルゼブブはその家に向かう。心配のようで村長も後ろ
からついてきていた。中に入るとベッドにエリスを寝かせる。
村長が心配そうに横目で見ながら口を開いた。
「しかし、そんなに傷は重くないのに、どうしてこんなに辛そうなんじゃ?」
「コイツは普段から魔力を使おうとしない。それで、今回
一気に使いすぎて体がついていけてねぇんだ。
休んだら治るとは思うがな」
「……複雑じゃのぉ。あと、もう1つ疑問なのじゃが、何故ワシが連れて行かれておるのがわかった?」
ベルゼブブは大きなため息をつくと要点だけ話した。
村長は驚いたあと悲しそうに目を伏せる。
「1度この大陸から離れておったのか……。それをわざわざ……」
「恩があるからな。コイツは自分のせいでこうなったって思ってるだろうよ。それで、どうする?ジイさん?」
「ど、どうするとは?これからの事かの?」
「ああ。コイツと関わりがあると知られてしまった以上
国はしつこく調査に来るぞ。それに、ただ言ってないだけで
コイツを匿うのを良くないと思っているやつもいるんじゃねぇのか?」
村長は無言でベルゼブブを見つめたままゆっくりと頷いた。
「確かにそうじゃ……。気づいたかの?さっきジョセフィーヌが休めと言った時に数人眉を潜めたのを。そりゃ彼らだって力になりたいとは思ってくれておるようじゃが、リスクが大きいからの。ワシも連れて行かれかけたしな」
「……オレ様から1つ提案がある」
「ほう?」
「この村を滅ぼす」
呆気取られた村長だったが、眉間にシワを寄せるとベルゼブブに詰め寄る。
「いきなり何を言い出すんじゃ!村長としてそんな事はさせぬ!」
「待て待て、落ち着け。言い方が悪かった。この村を滅んだように見せるんだよ。魔法を使ってな」
「滅んだように?そんな事ができるのか?」
「ああ。常時コイツの魔力を使うことにはなるがな」
ベルゼブブはそう言って口角を上げたが、村長は難色を示している。
「しかしお嬢さんが……」
「たぶんコイツも賛成すると思うぜ。パッと見で村が壊滅しているってわかったら騎士共も来ねぇだろう」
「だ、だが……」
「おい、起きな。のんびりしてる暇はねぇぞ」
ベルゼブブはエリスの傍まで行くと肩を揺すった。
村長が慌てて止めに入る。
「も、もう少し休ませて――」
「う……………」
エリスがゆっくりと体を起こした。魔力消費のせいでどこか痛むのか顔を歪めている。
「話聞いてたか?」
「聞いてない……」
少し呆れながらベルゼブブがエリスに要点を話すと彼女は
すぐに口を開いた。
「やる」
「おし、流石だ」
エリスが魔法を使ってから数日後、アレキサンドルとその近郊である噂が流れ始めた。
イカナ村が滅んだ、と。
テオドールを匿ったからとも、実は裏で悪事を働いておりそれが明るみに出て天罰が下ったとも人々は好き勝手に噂した。
アレキサンドルの騎士達も村へは赴かなくなった。
しかし、たまたま近くを通った冒険者が驚くような話をした。「滅んだはずなのに、まるで人が居るかのように畑を耕す音や井戸から水を汲む音が聞こえる」と。
その話を聞いて人々は怯えイカナ村の事を口に出さなくなった。
また、その日からイカナ村からホロビ村へ名が変わったという。
第1章 完
一区切りつきましたのでコメントします。
拙い文章ではありますが。ここまで読んでくださってありがとうございます。
読んでくださる方がいると思うとモチベーションの維持に繋がっています。
〜重要なお知らせ〜
今日まで毎日更新していましたが、諸事情により更新頻度が遅くなります。
遅くても1週間に1話は更新できるように努めますので
どうかご了承ください。
第1章最終話「償いとして」は省いた部分があるため
後日加筆して再投稿します。申し訳ございません。




