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薬売りと魔王  作者: 望月 かれん
第1章
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薬売りの少女

 エリス・テオドールはイカナ村の片隅で敷物の上に小瓶や薬草を並べて商売をしていた。

 売り物の他にも荷物がある事から各地を転々としているようだ。


 「薬草2つで80オールになります。

……ありがとうございました!」


 商品と引き換えに通貨を貰って灰色のローブのポケットに

しまうと次の対応を始める。店員は彼女1人らしい。

それでも彼女はテキパキと対応していった。慣れているようだ。

 

 

 昼になった頃、エリスは小さく息を吐いた。

 すると頭にバンダナを巻いたふくよかな女性が木製のマグカップを差出す。


 「よかったら飲みなよ。疲れてるだろう?」


 「あ、ありがとうございます……」


 「この村で採れたミルクさ。ちょっと温いかもしれないけどねぇ」


 「いえ。いただきます……」


 エリスはそう言ってミルクを口に含んだ。一瞬目を見開いた後、微笑む。


 「おいしい……」


 「そうだろう?ウォームゴートのミルクさ」


 「ウォームゴート、温厚なモンスターですよね?」


 攻撃しない限り襲ってくる事はない、極めて温厚な性格のモンスターだ。その性格から家畜として手懐ける者もいるようだ。


 「ああ。食べ物をやって手なづけたんだ。

と、いっても1匹だけだよ。あんまり多くても面倒見れないからねぇ」


 「なるほど……」


 「モンスターと暮らすの少し不安だったんだけど、案外どうにかなるもんだねぇ。

 見た通り、この村は農耕と染色が盛んなのさ」


 「農耕はわかりますが……」

 

 エリスは近くにある畑を見ながら言う。老婆がゆっくりと木製の鍬で土を耕していた。


 「染色かい?少し高い丘に何種類の花を植えてるのさ。

それを取って、色を出して、布や髪を染めるんだよ」


 「髪も染めれるんですか?」


 エリスが一歩前に踏み出した。どうやら彼女も髪を染めているようだ。


 「もちろんさ。天然だからねぇ。店で売ってる物より髪も傷まないし。

 興味あるのかい?」


 「あ、はい……」

 

 少し顔を赤くしながらエリスは元の位置に戻る。


 「はははっ、アンタになら分けてあげるよ。

 名乗るのが遅れたね、あたしはジョセフィーヌ。みんなからはジョーって呼ばれてるよ。

 アンタは?」


 「私は……えっと……すみません……。

あんまり名乗らないようにしてるんです」


 申し訳無さそうに言うエリスを見てジョセフィーヌは目を丸くした。


 「おや、そうかい?変わってるねぇ。

 あたしは気にしないから良いんだけど」


 ジョセフィーヌの言葉を聞きながらエリスは残りのミルクを飲みほした。


 「ごちそうさまでした。おかげで疲れが吹き飛びました」


 「はははっ!疲れが吹き飛ぶは大げさだと思うけど、まぁ、そこまで喜んでもらえたのなら良かったよ」


 ジョセフィーヌは差し出されたマグカップを受け取ると笑った。そしてエリスに小さく手を振ると去って行く。

 エリスは其の後ろ姿に深く頭を下げると商売に戻った。





 夕方になるとエリスは商売道具をたたんで大きな袋に

つめこみ始めた。薬が入ってるビンを丁寧に布でくるんでからしまう。


 「もう出て行ってしまうのかい?もう日も落ちてしまうし、泊まっていけばいいじゃないか」


 「いえ、大丈夫です」


 再びジョセフィーヌに声をかけられてエリスはハッキリと答える。


 「そうかい……」


 「ですが、各地を転々としていますのでまた来る事になると思います。その時はよろしくお願いしますね」


 「各地って……。あたしゃよく知らないけど、とてつもなく広いんだろう?そんな短期間で周れるもんなのかい?」


 「全部の町村を訪れている訳ではありませんので」


 エリスは笑顔で言うと村の入り口に向かってゆっくりと

歩き出した。

 ジョセフィーヌも彼女の隣に並んで歩みを進める。


 「入り口までだけど手の荷物、持ってあげるよ」

 

 「あ、ありがとうございます……」


 予想外の言葉だったようでエリスは驚きながらも女性に袋を託した。

 ジョセフィーヌは少し真剣な顔つきになってポツリと話しだす。


 「アンタが薬を売りに来てくれて助かったよ。

この辺はアレキサンドル王国の騎士様達の巡回範囲には入っていないからね。自分達で管理しないといけないんだ。

税を取りにきたついでに様子を聞くだけ。

 モンスターの被害があると言ったら退治はしてくれるけど、大元を叩かないからイタチごっこなんだよ」


 「大元?ボスがいるんですか?」


 「そうさ。とても大きいイノシシで、子分を引き連れて夜に畑を荒らすんだ。あたし達はボスボアって呼んでるよ。近くの洞窟に巣くっているみたいなんだ。

 ってアンタに言っても意味ないか。戦い苦手そうだし」


 ジョセフィーヌの言葉にエリスはムッとしたように眉をひそめる。


 「戦えない訳ではありません。一応、魔法使いです」


 「おや、そうなのかい?それは失礼したね。

 ああ、だから用心棒もいないわけか。薬売りにしては不思議だと思っていたけど、そういう事だったんだね」

     

 やがて入り口に着いて、ジョセフィーヌはエリスに荷物を返した。エリスはお礼を言って頭を下げると村を後にする。

 ジョセフィーヌはエリスの姿が見えなくなるまでずっと外を眺めていた。


 


 エリスが去ってから数日後、アレキサンドル王国から複数の騎士がやってきた。もちろん、毎月の税の徴収だ。 


 「よし、作物と金貨、両方揃っている。ご苦労。

何か困っている事はないかね?」


 すると集まっている村人の中からジョセフィーヌが前に出た。どこか自信のある表情をしている。


 「今は無いねぇ。前に言ってたと思うんだけど、ボスボアっに悩まされてるって」   


 「ああ……。まさか解決したのか⁉」


 「そうなんだよ。昨日ぐらいだったかねぇ、村の入り口に

布を被せられた何かが置いてあってさ。

 みんなでおそるおそる取ったらなんとあのボスボアじゃないか。

 ビックリしてしばらく動けなかったよ」

 

 ジョセフィーヌの言葉に騎士達が動揺し始める。


 「バカな……!鍛錬を積んだ兵士でも返り討ちに合うと言うのに」


 「しかもどこからか仲間を呼んできてその辺ボアだらけに

なるそうだ」


 「こ、心当たりのある者は居ないのかっ?」


 騎士の1人が興奮気味でジョセフィーヌに尋ねる。

 ジョセフィーヌは嫌そうに距離をとると口を開いた。


 「……1人いるよ。各地を転々としているみたいでね」


 「もしかして薬を売ってくれた娘かい?」


 初老の男性の言葉にジョセフィーヌが頷いた。他の村人達も記憶に新しいようで村での彼女の様子を楽しそうに語り始める。


 「ああ。それに最近この村を訪れた人はその娘しか

いないしね」


 「でも戦えそうには見えなかったよ」


 「あたしもそう思ったんだけどねぇ。魔法使いだって言ってたから戦えるんだろうよ」


 ジョセフィーヌ達の話を聞きながらマントを羽織った騎士が唸り声を上げる。騎士達の中では位が高そうだ。


 「解決してなによりだが、その娘只者ではないな。1度会ってみたいものだ。

 どこへ向かったか分かるか?」


 「さぁ……。でもこの村から行ける所なんて限られてるから、1つずつ当たって行けば会えるんじゃないのかい?」


 「それもそうか。何か特徴はなかったかね?」


 「髪は水色で目がオレンジ色だったよ。

なかなか見ない色だからねぇ」


 ジョセフィーヌの言葉に騎士が反応して鎧がガシャンと音を立てる。

鉄仮面を被っているため表情は見えないが、何か思う事でもあったのようだ。


 「目がオレンジ色の魔法使い⁉

 ………いや、まさか、な……」


 その様子をジョセフィーヌをはじめ村人達は不思議そうに眺めていた。

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