1章ー3
6000年もの間焦がれ、捜し続けたものがそこにあった
その衝撃は全身をつきぬけ
歓喜に震えていた
「くそう、思いっきり殴りやがって
僕じゃなきゃ死んでるぞ、、、」
若いサラリーマン風の男は頭の血をぬぐい
何事も無かったかのように歩き出す
「おまちください!!!!」
すかさず目の前に跪く
「ひっ、、、、な、なんですか、、、?」
びくつく若い男
この男には私が見えている
声が聞こえている
間違いない、、、この方こそが、、、
「私は理の番人、グレイと申します」
「え、、?こと、、?なんて??
僕は灰原颯太です、、、」
灰原颯太と名乗った男はおどおどと答えた
「颯太様、、、なんと甘美な響き、、、」
「あのー、、僕ちょっと急ぎますのでこれで失礼します、、、」
ヘコヘコと過ぎ去ろうとする
慌ててその腕を掴み懇願する
「お待ちを!!どうかお待ちを!颯太様」
慎重に、慎重にだぞグレイ
6000年も待ったんだ
決して機嫌を損ねてはならない
その瞬間
背筋が凍りつくような冷たい視線を感じた
反射的に飛び退き、臨戦態勢を取る
人間ではない何かの視線
気がつくと冷や汗をかいていた
この私が、、、?冷や汗、、、?
「この醜いゴミが」
話しているのは灰原颯太だ
だが先程とはその態度も顔つきも全く違う
「お前ごとき下等な存在で我が依代に触れるなど、、、身の程を知れ」
すぐさま跪き頭を垂れる
「御無礼を」
途端、凄まじいプレッシャーと
刺さるような殺意
全身が震えだし汗が吹き出す
「貴様、、、誰が口を開けと言った?」
真上から押し潰されるように頭が地面に押し付けられた
灰原颯太は何もしていない
なにかが上から押さえつけている
抗えない程強大な力で
「貴様からは腐敗した魂のにおいがする
いったい幾つの魂をその快楽の為に弄んできた?
貴様が守っているのは理ではないのか?
その醜く醜悪で傲慢な様はまるで神ではないか
番人ごときが思い上がるなよ」
呼吸すら満足に出来ないほど押さえつけられている上に
気絶しそうなほどのプレッシャー
今すぐ叫びながら逃げ出したいほどの殺意
身体中の震えがとまらない
「は、灰色の神よ!!どうか!どうかお慈悲を!!私は長い間貴方様に会うためだけに、その為だけにさまよって参りました!どうかお慈悲を、、、」
全身の力をを振り絞り何とか声を出す
気をしっかりもて
もう二度とこの方に会えないかもしれない
私の願いを叶えてくれるのはこの方だけなのだ
耐えろ、、、耐えるんだ、、、、
「ほう、この状況で声をだすか」
上から押さえつける力が消えた
直ちに姿勢を立て直し
額を地面に擦り付け懇願する
「どうかこの矮小な私めに貴方様と話す機会をくださいませ、、、!
どうか、、、、」
沈黙が流れる
プレッシャーと殺気は消えていない
震えと汗が止まらない
どれだけ時間がたっただろう
もしかしたら一瞬かもしれないし何時間もこうしてるかもしれない
なにもわからない
身動き1つ取れない
ふと、プレッシャーと殺気が消える
「ふむ、いいだろう
許可する」
歓喜で叫び出してしまうのを必死に堪える
言葉は慎重に選ばないといけないうえに
この方の気分が変わってしまわないうちに済ませなければならない
どうすれば、、、
「どうした?面をあげよ」
あああ、、、どうすれば、、、、
「わ、私めの願いを、、聞いてはいただけないでしょうか」
もはやこれしか出なかった
願いを叶えて欲しいのは本心だが
もう何も考えられない
気を保っているだけで精一杯だ
こんな状況でこの方が私の願いを叶えてくれるなどありえない
終わった、、、、
「くくく、、、ふははは、、、、はーっはっはっはっは!!!
気でも触れたか?」
絶望が胸を覆う
私の6000年は無駄に終わった
この方はもう二度と私に見つけられるようなミスは犯さないだろう
「よかろう」
もうダメだ、、
もう何も考えられ、、、、、
「は、、、、?」
「叶えてやろうと言ったのだ
望みを申してみよ」
頭の中が真っ白だ
叶えてやる?
なぜ?
「いらぬのか?」
「い、いえ!!
あ、ありがたき幸せ」
「申せ」
「はい、、、」
何も考えられない
ただ口に出そう
私の6000年に渡る願を
「私めに、、、、」
「私めに、死を」