1章ー2
※暴力描写あり
【死神】の仕事は実に単純明快だ
理に則り、人間共に死を運ぶ
だが憐れな人間は時折死を受け入れられずに、実に醜く足掻く
我々はそんな茶番に付き合っている暇はない
そんな人間は強制的に理に帰ってもらう
「さて、そろそろ動くとしようかアッシュ」
「そうだねグレイ、また後で」
「「白き世界に正しき理を」」
いつもの合言葉を言い合い同僚と別れる
今日の分のリストを受け取りゲートへ向かう
ゲートは人間の世界のあらゆる場所へ繋がっており
人間の世界へはこのゲートを通る
さて、仕事の時間だ
リストをしっかりと頭の中に叩き込み
回る順番を決める
お腹の底に力を入れ
顔の緩みを締め直す
気を抜くと笑ってしまう
今日はどんな人間に出会えるだろうか
昨日の老婆はあまりにも普通すぎてつまらなかった
醜く生にしがみつく、その姿を私に見せておくれ
ゲートを抜けると古びたアパートの前に出た
時刻は深夜
音も立てずに速やかに2階へあがりリストにあった部屋の前に立つ
扉なんて無かったかのようにするりとすり抜け部屋に入った
中では太った中年の男がいびきをかいて寝ていた
近寄ると男は急に苦しみだす
死因は心臓発作
数十秒の後に動かなる男
男だった物から出てくる何か
その何かは自分だった肉の塊を見て激しく狼狽えている
これは楽しめそうだ
「うわ!な、なんやこれ!どないなってんのや!」
わざと声もかけずに
笑いを必死に堪え、無表情でみつめる
男がこちらに気付き慌てふためく
「なんやお前!どっから入ったんや!」
なんとも醜い
自らの不摂生が祟りその活動を自らの手で断ち切ったくせに
状況を理解出来ずに慌てふためく
滑稽で実に愚かだ
おっといけない、いけない
30秒もロスしてしまった
さっさと片付けよう
「な、なんやねん!何とか言えやコラ!」
近付いてくる男だった何かをぎゅっと掴む
それを、、、ゆっくりじっくり握り潰す
何か叫んでいる気がするが気にもならない
この瞬間がたまらない
醜く足掻く人間のそれをじんわり終わらせる
どうせ理に返したところで結果は同じ
また数十年後にはこうやって回収しなければならない
ならばせめて私の快楽の一欠片になれ
白き世界??正しき理??
反吐が出る
そんなものはあの間抜けな同僚にでも任せればいい
私は捜し物ついでにこの醜く腐った世界で遊ぶだけだ
おっといけない顔が緩んでしまうな
ふむ、45秒もオーバーしてしまった
まぁいいだろう
次へ行こう
次は、、、自殺か、ちょうどいい
ビルの屋上のフェンスの外
今まさに飛び降りそうな若い女
「お父さん、お母さん、、、、こんな私でご、、」
何をごにょごにょ言っている?手伝ってやろう
彼女の背中を押し出してやった
よし、これで10秒取り返した
次へ行こうか
次は病院
ベッドには中年の男
取り巻きが10人はいるな
面倒くさい
無理やり男からそれを引き剥がし握り潰す
実に愉快だ
この腐った世界にはまだまだ人間が蔓延っている
リストにない人間には手は出せない
協会の掟で決まっているのだ
どうにかバレない方法は無いものか
片っ端から引き剥がしてやるのに
次は、、、、、
おお、、!
暴行死
これは見物だ
サラリーマン風の若い男が路地裏をひた走る
後ろから男が3人追いかけている
罵声と怒号
すぐに追いつかれるサラリーマン風の若い男
3人に囲まれてガクガク震えている
醜い!実に醜い!
素晴らしい!
なんという人間らしさ
寄って集って1人の同族を今から殺す
しかもそれは自分より弱き者だ
なんという茶番
いいぞいいぞさぁやれ
3人組の1人が襲いかかる
顔を3度殴り
倒れた所に腹に蹴りを2発
もう1人が高笑いしながら頭を踏み顔を蹴る
更にもう1人が鉄パイプを見つけて持ってきた
それを受け取った最初の1人が大きく振りかぶり
1発、、、、2発、、、、3発
頭に叩き込む
動かなくなったサラリーマン風の若い男
それを見てその場を逃げ出す3人組
なんとまぁ醜いことか
反吐が出る
人間は日々日常暴力を振るい仲間を傷つけ
そして必ず逃げ出す
なんと自分勝手で自己満足なことか
笑いが止まらない
サラリーマン風の若い男に近寄る
動きはない
さて、こいつも潰そうか
いやしかし、そろそろ理に帰さないとバレてしまう
多少の誤差はいいが
あまり酷いと協会にバレてしまう
探し物が見つかるまでは大人しくしとかなければ、、、そう、良き【死神グレイ】を演じなければ
次の瞬間、、、
自分の目を疑った
全身の毛が逆立つ感覚を覚えた
時計を確認する
定刻からすでに5分は経過している
それなのに
サラリーマン風の若い男は立ち上がった
人間には致命傷だった
頭から大量の血を流しながら
それなのに涼しい顔で
「くそが、やっと行ったか」
身体中が震えていた
汗が止まらない
やっと、、、やっと見つけた
6000年待った
「、、、、理から外れし存在」
グレイは歓喜の涙を流していた