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プロローグ

 9月11日の夜、僕は彼女に振られた。

 メールに「ちょっと話がしたい、大学の正門まで来て」なんて機械的な文が踊ってた時点で嫌な予感はあったが、まさか別れ話だったとは……。

 メールに指定された場所いくと、彼女は泣きながら、駆け寄ってきてすぐに暴雨風のような勢いで僕に別れ話を切り出してきた。突然のことに困惑していた僕は彼女の言っていることの3分の1も理解できなかったが、要約すると次のような内容のものだった。

「あんたよりイケメンで、車持ってて、優しい人が告白してきたから、ユーと別れたいでござる!!別れたいでござる!!」

 納得。全くもって一部の隙もない。彼女は弁護士にでもなった方がいいんじゃないだろうか?最後には熨斗でもつけるように「別れてもずっと親友だよ♪」って言ってきたとこなんてありがたくて涙が出そうだ、もう花丸あげちゃう♪

僕はただ首を縦に振るだけしかしなかった。



 それから3時間後、すでに彼女がスキップしながら去った正門に、僕はいまだ電柱のように立っていた。いや、この表現は電柱に失礼だろう。今の僕のカースト身分は牛乳を拭いて3日後の雑巾並なのだから…。

「あんな奴そんなにスキじゃなかったよ、バーカ!」

 うん、ゴメン。今すんごい嘘ついた。もし僕が人間になりたい木製人形だったら、鼻が伸びて後頭部に直撃するレベルの嘘ついた。超スキ!!大好き!!

「あいつの代わりなんていくらでもいるし…。いい機会だよ、これは」

 なにこの嘘、ひどすぎる。もう見てらん無い!いつ殺されても文句言えないよ、これは!

 大体、お前の携帯の登録件数24件じゃん!その中で女性の番号なんて母親と、つい3ン時間前まで彼女だった、『元』彼女だけじゃん。ない袖をどうやったら振れるんだよ!お前ノースリーブじゃん!もう肩まで袖ないじゃん!

 あんまりふざけた事ばっかり言ってるとマジ泣かすよ?杉山知行クン♪


あっ、そういえば自己紹介忘れていた。

 僕の名前は杉山知之(すぎやま ともゆき)。田舎の中堅大学に通う21歳。

中肉中背で顔に特徴は無し。いや、右目の泣きホクロがチャームポイントだろうか?

今のは自分で言っててなんだが想像以上に腹が立った。ごめん、今の無しで!

 サークルはバレーボール部でリベロの補欠の補欠。大体なんで身長が170cmそこそこしかないのにバレー部入ってんだよ!ほんと馬鹿じゃねーの……。女の子目当てで入部して結果この様かよ、ほんと我ながらおめでたいね。

 なんか自分で言ってて涙出てくるんだけど、もう人様に言えるようなプロフィールはないんだ。期待した人ゴメンね。

 あ、大切な事を言い忘れてた。

 杉本知之、彼女イナイ歴三時間。問答無用の出来立てほやほやのルーザードッグ。これが今の僕を表す最大で最適な自己紹介。


「まあ、どうあれ彼女には幸せに―」

グー。

グー?パー。僕の勝ち♪なんて言ってる場合じゃないな…どうやらこのだらしなくて、空気の読めない水差しは野郎は僕の腹の音。人間ってやつはどんなに悲しくてお腹は空くんだな。

「腹減った………もう帰ろうかな」

 自分で口にしておききながらちょっと吹き出しそうになった。せっかく3時間も馬鹿みたいに、悩んで、悩んで考えた言い訳、それはきっと小説や映画、ドラマに漫画色んな場所で嫌ってほど使い倒された雑巾のようなボロボロな言い訳。

 それでも、その時の僕にはその言葉がとっても魅力的に思えたんだ…。きっとその言葉を口にすれば諦められる、小説の主人公達のように悲劇のヒーローになれる。きっと彼女のことも諦められるそう思ったのに……。

よりにもよって出た台詞が「腹減った」なんて。自分の決まらなさと、その言葉があまりに僕にお似合いで、泣けてくる。いや実際に僕は泣いていたんじゃないだろうか?


 僕は、泣いた。

 声を出して泣いた。

 理由?彼女の一方的な別れに対する怒り。大好きな人に振られた悲しさ。彼女を引き止めることが出来なかった自分の不甲斐なさ。その全部が正解で全部が不正解。

 きっと僕は泣きたいから泣いたんだと思う。泣く理由なんてそれで充分だろ?



 結局、それから僕は20分以上もそこで泣いた。きっと警備員もさぞかし居心地が悪かっただろう。本当に申し訳ない、犬に噛まれたと思って諦めてほしい。

 泣いて、何が解決したわけじゃない、いやそもそもこれは解決できるような類の話でもない。もうとっくに終わってしまったラブストーリー。

 それでも・・・まだまだ整理できてない、散らかり放題の感情だけど、それは僕に「もう歩きたい」と言ってくれた。だから僕もこう口にしよう。

「コンビニで何か買って帰ろう」

 誰に聞かせるでもない、その酷く説明的な独り言は静かな夜に一瞬響き、そして虚空に消えていった。それを合図に僕も田舎のせいか、街灯もやっている店も少ない、夜の真っ暗な大学通りに歩き出し、一度だけ振り返り、そして消えていった。


 現在の時刻は22時37分。まだまだ僕の長い夜はこれからのようだ。

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