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A.L.A  作者: いーおぢむ
2/2

優秀児



「ちょっとパパの仕事場に忘れ物を届けに行ってくるから、お留守番頼むわね」

「えー!わたしも行きたいっ」

「すぐに帰ってくるわ。帰りにアナタの好きなドーナッツ買ってきてあげるから」

「んー...わかった。でもなるべく早く帰ってきてね」


『CASE A: STAY AT HOME/ PATTERN 8, ID: AA2 PASSES』



「ママちょっと手が離せないの。代わりに犬の散歩お願いできないかしら」

「いいよ!もう少しで宿題が終わるから、そうしたら行くね」


『CASE A-1: REQUEST/ PATTERN 12, ID: AA2 PASSES』



「やはりAA2は調子良いな」

「今迄の全試験を満点で通過しているALA内定児のうちの1人ですから」




【Association of Life with Angels(通称: ALA)】

子供を望むが子供に恵まれない各家庭へ子供を提供することを主とした協会。

その根本目的は子供達のみならず、親・子の幸せ。


『PROJECT・NORMAL』

どんな家庭の子供となっても、どんな家庭環境であっても素早く順応し、あらゆることを"普通"に熟す事の出来る一般的な子供を育てるプログラム。様々な試験をパスし、このプログラムを修了した子供のみALA確定児として各家庭に送り出される。



『SITUATION TEST IS DONE. GET BACK TO YOUR HOME "NORMALLY"』



もう何度聞いたか分からない無機質な声のアナウンスを合図に、先程まで活動(うご)いていた擬似母機(ぎじぼき)MOMは眠りにつく。それとほぼ同時に、カシャンと音を立てて玄関とは別の扉が壁から姿を現した。

扉を開け外に出て真っ直ぐ歩くうち、足下の芝生は無機質な清潔感だけの冷たい床へと姿を戻す。



「今日も素晴らしかったよ」

「本当!?やったやった!!」

「返しも完璧だね。うん、もういいよ。お疲れ様。午後は自由に過ごすといい」

「はい。ありがとうございます」

「そうだ。ID: AA1も通過したみたいだよ。先にナイト家に戻っているようだ。2人ともゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます」



白衣に身を包んだ男は、お礼を述べた目の前の少女に対し満足げな微笑みを浮かべる。そして、少女が彼の前から去ろうと背を向けた丁度その時だった。


施設内のサイレンがけたゝましく鳴り響く。



『ID: AB1 DESTROYED MOM』



その放送に、男は「またか」と大きな溜め息を吐く。



「優秀過ぎるのも考えものだな」



ID: AB1がMOMを破壊するのは、これが初めてではない。今迄に何度も破壊を繰り返しているのだ。ただ、何かしらの武器を使って破壊しているわけではなく、その破壊の仕方が独特で。正確には自己破壊させるといった方が正しいらしい。



「本試験を受けさせるんですか?」

「うーん、そうだね...。彼も君たち兄妹と同様に全ての試験満点通過なんだ。破壊は模範児演習の時のみでね。要は、本番はきちんと熟すが練習では遊んでいるといった感じかな。そこも普通の子供としては許容範囲内なんじゃないかと主張する者達もいてね。難しい問題だよ」



男は黒くて薄いデバイスのスクリーンをタップし、難しい顔をしながら画面をスクロールし続ける。



「...ああそうだ。もう戻っていいよ。お兄さんにも宜しくね」

「はい。失礼します」



***



「ただいまー」

「お帰り。ヴェア」



【ID: AA1/ 個体名: アロン】

【ID: AA2/ 個体名: ヴェア】


キャラメル色の髪に秋晴れの青空をそのまま閉じ込めたような碧眼。

今年11歳になったばかりのアロンともう直ぐ10歳になるヴェアの2人は兄妹で、設定上、此処A区・ナイト家の長男と長女である。

施設内居住区域はA区からJ区まであり、各区域に約55軒の家が建ち並ぶ。優秀な子供達は区域ごとに振り分けられ、A区はその中でも優秀生達が住んでいる区域で、A区だけは家が10軒のみとなっている。因みに次にB区、次にC区と続く。


ナイト家、オルセアン家、ノーゼン家、フィッシャー家、リーダス家、エヴァン家、エイビィ家、ドミニク家、オーパーツ家、ムーア家


A区内は、これら10軒全ての擬似家庭で構成された居住区域だ。

アロンとヴェアは、このうちのナイト家に属し日々を過ごしている。MOMもDADも、ロボットとは思えない程精巧な作りをしているし、髪や目、肌の色などの外見も2人に合わせて作られている為、本当の4人家族のように見えるのだから凄い。



「アロン、その指...」

「ああ。今日はCASE D: ACCIDENTだったからね」

「... ...」

「ヴェア?僕は本当に平気だよ」

「...」

「ヴェーア♪」



アロンは不満げなヴェアを抱き寄せ、あやす様にその背中をポンポンと撫でる。



「ヴェアが元気ないと僕も元気出ない」

「じゃあもう一回ちゃんと手当てさせて」

「うん。ありがとう」

「だってあんな奴らに任せておけないもん」

「あはは!あんな奴らって」

「あんな奴らじゃん」

「あんな奴らだね」



面白そうにケラケラと笑うアロンの笑顔を見て、少しほっとするヴェア。



「それよりヴェア、今日は何が一番楽しかったの?キミの話を聞きたいな」

「楽しいことなんてないよ。でもまあ強いて言うなら...、今日の放送聞いた?」

「B区の彼ね。またMOMを破壊したってやつだろ?」



今回はMOMだった。彼は今までに何度もMOMやDADを自己破壊させており、その度に放送されている為ちょっとした有名人になっていて。



「僕の試験担当怒ってたよ。幾らすると思ってるんだって」

「気持ちは分からないでもないけど、私はせいせいするな」

「ヴェアは本当にMOMもDADも嫌いだもんね」

「機械が親なんて、ままごともいいとこじゃん。アロンは嫌じゃないの?」



ヴェアは悪態を吐くが、アロンは変わらず微笑みを絶やさない。アロンはいつもそうだ。どんな時でも笑っていて、落ち着いている。



「別に僕は嫌じゃないよ」

「なんで」

「決まってるじゃん」



言って、アロンはヴェアの頬を指で優しく撫でる。



「ヴェアと一緒にいられるから。ヴェアと"家族"でいられるから。だから僕は今の生活、すごく気に入っているんだ」



本当に、アロンは変わっていると思う。そりゃ私だってアロンと家族でいられている今まで嫌いなわけじゃない。でも、私達は次の最終試験もとい本試験に合格すれば此処を出て子供を望む家庭へ提供される。A区やB区出身の優秀児を望む殆どが跡取りを必要とするリッチなご家庭らしい。

...まぁとにかく結局は離れ離れになるんだ。いくら家族として長く一緒に暮らしているからって感情移入し過ぎるのはどうかと思うって話。



「それももうすぐ終わりじゃん。私達は半年後に此処を出て行くんだから」



何気なく言った言葉だった。特に深い意味なんてなく事実をそのまま述べただけ。

でも、アロンは何故かその私の言葉に顔を曇らせる。



「あ、アロン?」



びっくりした。だってアロンのこんな表情(かお)は見たことない。



「...そうだね。その通りだ」



かと思ったら、いつものアロンだ。本当にアロンは何を考えているのか昔から分からない。家族になってからもう8年も経つのに、未だに分からない事だらけだ。



「ID: AB1ってどんな子なんだろう」

「やけに興味あるよね。なんで?」

「え。だって普通に気にならない?毎回、毎回自己破壊なんてどうやってさせてるのかとか、提供されるのが延びちゃって良いことなんてないのに何でやってるのかとか、何歳なのかなとか」

「それ知ってどうするのさ」

「別に?ただ興味あるだけ」



だってその子は、もしかしたら私と同じかもしれないから。

擬似親を壊す理由には監視役みたいな存在が鬱陶しいからっていうのは勿論だと思うけれど、突き詰めれば自由になりたいっていう願望に行き着くんじゃないかと思ったから。



「...まあね。でもソイツが何考えてあんな事してるにせよ、あまりにも繰り返すなら処理されるんじゃない。この間のJ区の子共みたいに」



アロンが口にしたのは、先週『DISPOSAL』となった少女のことだ。噂だと、彼女はK区に送りになったという。そもそも居住区域はA区〜J区までしかないはずで、こんなの都市伝説レベルの子供騙しに過ぎないと思っている。試験に合格出来なければ区域降格させられていき、最終的には処理されるなんていうのは裏を返せば、『だからしっかりと真面目に演習や試験に取り組もう!』的なあれだ思うし。それにJ区の女の子が処理されたって事自体が怪しいと思ってる。その子は本当に存在するの?ってね。



「2人ともいつまでそんな所でお話ししてるの?お昼ご飯出来てるわよ。早くおいで」

「はーい!今日はなぁに?」

「オムライスよ。今日はお父さんが作ってくれたのよ」

「えっ!父さんが?すごい!早く食べたいっ!お兄ちゃん早く行こう」

「うん。行こうか」



自分の手を引いて前を歩くヴェアの後ろ姿を至極嬉しそうに、至極幸せそうに見つめるアロンは、優しく目を細めた。



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